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『ガリヴァー旅行記』 – 日めくり文庫本【10月】

【10月26日】

 ヤフーどもの非難攻撃を受けて一番癪にさわることは、ある連中が大胆不敵にも私の旅行記を、頭の中ででっち上げられた単なる物語フィクションにすぎない、第一フウイヌムも、ユートピアの住民と同様、この世には存在しないはずだなどと言っていることです。これには全く我慢できません。
 もう一つはっきり言っておきたいことがあります。それは、リリパットやブロブディンラッグ(これが本来の正しい名前で、したがってブロブディンナグとなっているのは間違いです)や、ラピュータの人々に関しては、なんぼなんでもその存在自体について、あるいは彼らに関連して私が述べた事実そのものについて、とやかく議論するほど図々しいヤフーがいるとはまだ聞いたことがないということです。事実が直ちにあらゆる読者の心をうって、否応なしに納得させるからです。そうだとすると、フウイヌムあるいはヤフーについての私の説明がどうも信じられないというのは、全くおかしな話ではないでしょうか。げんに、後者、つまりヤフーにいたっては、この町だけでも明らかに夥しい数に達しております。フウイヌム国に住んでいる同じ仲間のヤフーとは違うという者もいるかもしれませんが、それも要するに何かぺちゃくちゃ喋り、裸で生活していないというだけのことではないでしょうか。私はこの旅行記を彼らに賞賛してもらうためにではなく、己の資質の向上に役立ててもらいたいために書きました。ヤフー全員が口を揃えてめたところで、私には少しも有難いとは思いません。むしろ、多少退歩しているとはいえ、私が自宅の厩舎きゅうしゃで飼っている二頭のフウイヌムにひひん[#「ひひん」に傍点]と嘶いてもらった方が遥かにましだと思っております。確かに退歩してはいますが、その二頭から、私は依然として、悪徳に少しも汚染されていない何かしらの美徳を学びとっているからです。

「ガリヴァー船長より従兄シンプソンへ宛てた書簡」より

——スウィフト『ガリヴァー旅行記』(岩波文庫,1980年)431 – 432ページ


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