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#13 劇作家・南出謙吾「“半劇半サラ”の居心地」(2020.2.14&20)

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今回の会議相手は大阪で「劇団りゃんめんにゅーろん」を主宰し、さらに「らまのだ」というユニットでも活動している劇作家の南出謙吾さん。

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正直、南出さんのことは会議前までは知りませんでした。でも俄然興味を持ったのは、南出さんが普段サラリーマンをやりながら演劇をやっている「半劇半サラ」の人と聞いたから。ものづくりに夢中になると「これで食べていきたい!」と思ったりして、創作と生活(お金 ← ブンクリ的最重要ポイント)の共存が大きなテーマになりますが、生業は生業、創作は創作と分けた生活ってどんなものか。特に演劇は「食えない」表現の代表格でもありますからね。実際どうやって両立してるんですか? やっぱ有給を使って?

有給は年間20日近くありますが、実際は5~6日しか使ってません(笑)。結構会社も忙しいんです。大阪の劇団(りゃんめん~)は平日の夜8時から稽古をはじめて12時に終わるというカタチで進めてます。で、深夜に脚本を書いたり稽古のない日にコツコツ舞台装置を作ったりっていう

南出さんが勤めるのはケーブルテレビ局。現在はそこの副センター長で会社には副業申請を提出済み。なかなか出世されてます。さらに既婚で子供有と実にまっとうな社会人。やっぱり演劇では食べていんですか?

演劇で食べていくことはまったく無理ではないんですけど……ほぼ食べていけないですね。うまくいって劇団が大きくなっても、大きくなったぶんだけ劇場が大きくなって運営費もかかるし。いつまでもコストに追いかけられるんです

でもそんな食えない演劇に南出さんはどうしてハマったんでしょう?

僕は石川出身で、一般市民が目にするところに演劇がほぼない環境で育ったんです。僕は大学卒業後、石川で学習塾を経営してて。中学校の頃に素敵な塾の先生がいて、その人が「やらない?」って言ってくださったので自営ではじめたんです。いきなり家賃30万円の場所を借りて、50万円かけてチラシを作って。いやぁ、あれはきつかったですねぇ……

まてまてまて! 演劇以前にヘンな話が出てきたよ。大卒で塾を開校? まったくうまくいかずバイトをして運営資金に充ててた? 月1の吉野家が最高のごちそう? それを4年もやってた?……南出さん、サラリーマン&落ち着いた風貌とは裏腹に、めちゃめちゃデタラメじゃないですか(笑)。

そんなとき中学校の時の同級生が大阪で演劇をはじめて。それを観たらめちゃくちゃ面白くて! すぐ生徒に「先生は演劇をやるから塾は辞める!」って言っちゃうんです。僕、すぐ触発されちゃう性格で、いま冷静に思い出したらその演劇もそんなに面白くないんです(笑)。でも当時付き合ってた彼女と別れて、塾も廃業して、大阪に出てその友達の劇団に入ったんです。それが25歳のときですね

サラリーマンとは対極のデタラメ直情派!? ということで25歳で大阪に出てきた南出さん、しばらくは俳優として奮闘し、28歳で今度は鈴江俊郎(劇団八時半)さんの芝居を観てまたまた触発。「今度は自分で脚本書くしかない!」と執筆に情熱を燃やすようになります。となるとすでに30歳前。「だからはじめたときから食うなんて1ミリも考えてなかった」と言います。

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今日のテーマの「好きなことをやること」と「食べていくこと」について。特に演劇は難しい部分があると南出さんは指摘します。

演劇は達成感を味わいやすいんです。だって50~100万円くらいのお金を工面しちゃえば、人を集めて上演できて、お友達呼んで、「よかったね」って言ってもらえる。簡単に達成感を味わえちゃうところが演劇の危険なところで。僕は「そこで気持ちよくなっちゃいけない」って言い聞かせてました

あれだけデタラメな青春すごしてたのに、急にまっとうなこと言ってるし(笑)。しかし「デタラメの反動」か、今の慎重かつ冷静な視線こそが南出さんの持ち味であることも、また確かで。

仮にクリエイティブの副産物としてメシが食えたら素敵ですけど、僕にそこまでのチカラはないんです。万が一、食うことを目的に演劇をやって、健康で文化的な最低限度の生活は送れるかもしれない。だけどサラリーマンをやってたらちゃんとお給料をもらえるし、仕事は仕事で面白くないわけじゃないんです。すべてを演劇に捧げたらサラリーマンと同じくらい大変で、しかも収入は1/5程度……だったらサラリーマンやってる方が、自分的にも社会にとっても効率がいいと思ったんです

「効率がいい」と解釈は一見ドライに聞こえますが、しかし南出さんの本心は熱いです。演劇の魅力について話を振ると、口調はこの日一番熱を帯びました。「じゃあ、どうして演劇を続けているんですか?」。

一人暮らしの男が夜、仕事終わって家に帰っても誰もいません、と。3~4月であたたかくて、久しぶりにベランダに出たらたまたま若い男女が楽しそうに歩いてるのを見て、一瞬サクッと胸に刺さる――じゃないですか? このサクッと刺さったものを描けるのが演劇なんだと思うんです。映画や小説は物語性が必要だけど演劇は俳句や写真に近くて、セリフと動きしかないから目に見えるものでしか表現できないんです。そういう「行間」があちこちに潜んでる感じが面白いと思って書きはじめて、今も続いてる感じです

胸に刺さるサクッとした棘を描くのが演劇。さらに現状のサラリーマン生活と劇作生活は反目し合うものでなく、Win-Winの要素もあるといいます。まず演劇が会社員生活に役立つことは?

演劇って多くの人とコミュニケーションをとる必要があるんです。劇作家、演出家、俳優、音響、照明とたくさんの人を束ねてひとつのゴールを目指すチームプレイだから、仕事のプロジェクトでも役立つんです

なんと演劇でマネジメントスキルが磨けるとは。では逆に、会社員生活が作劇に役立つことは?

サラリーマンはネタの宝庫ですよ! サラリーマンやりながら演劇やってる人は少ないから、僕ほどこの世界を書ける人は他にいないと思ってて。だから仕事の現場で見たことや感じたことはふんだんに作品に活かされてますよ。仕事中も「この瞬間は!」って思ったことはメモをとってます

うーん、話を聞いてると「サラリーマン」「クリエイター」と白黒つけなくても、グレーな今の「半劇半サラ」こそ豊かで、南出さんらしいやり方のような気もしてきます。

実は今、野心があって……60歳定年再雇用タイミングで「僕、劇作家で食っていくんで再雇用は結構です!」って言おうと思ってて(笑)。演劇は年齢関係ないし、60歳超えて素晴らしい作品を書く方もいらっしゃいますからね

人生100年時代、こういう創作との向き合い方もあるのかも――

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ちなみに「らまのだ」も「りゃんめん~」もガンガン新作公演中。仕事大丈夫なの? 実は南出さんってスーパーサラリーマンなんじゃないですか!?

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2020.1.26@HFM


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