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#15 さしもの家具職人・髙橋雄二「つなぐ、つながる」(2020.3.13&20)

本日の会議相手は広島県熊野町で「さしものかぐたかはし」を営む髙橋雄二さん。森のくまさんみたいな雰囲気ですが、職人としての芯の強さは熊並というか熊の比ではないですよ!

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そもそも「さしものかぐ」とは何なのか? 詳細は以下のHPにもありますが、まず髙橋さんの言葉で説明してもらいましょう。

「さしものかぐ」は僕が作った造語で。もともと木と木を組み合わせて箱を作る人のことを指物師(さしものし)というんです。そもそも木と木を、指と指をがっちり組んだみたいにくっつけることや、物差しで寸法を計ることを「指す」と言うんですけど、そこから高度で繊細な仕事をする人のことを指物師と呼ぶようになって。僕は指物というものづくりの技術や考え方を踏まえた上で暮らしの家具を作りたいと思ったので「さしものかぐ」という名前を付けて独立したんです

指物とは釘を使わず木と木を組みわせる技術のことで、髙橋さんの家具はその潮流を汲んでいます。目で見た方が早いと思うので、作品を見てもらいましょう。いや~、ステキですね!

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髙橋さんが面白いのは技術はもちろん、指物の考え方もその創作に採り入れているところ。

もとはというとイサムノグチが「ものづくりをするときは自分の国にルーツを持つべき」という言葉を残していたので、日本の木工に興味を持って。日本の古い木工を探っていく中で、茶道具から指物を知ったんです。指物が面白いのは、たとえばひとつの箱に対し「この箱の正面はどこだ?」って聞かれるところ。特に立方体の箱だとどれが正面でもいいように思うけど、指物では木の木目などから「こちらを正面と捉える」という感覚があるんです。盆栽でいう「顔を作る」じゃないけど、そういう考え方は僕が机や椅子を作る際も意識してますね

ただ使えればいい、機能すればいいというだけではなく、道具を美的に見立てる感覚というか。

最終的には「どこがその木の一番美しい部分なのか自分で決めろ」ってことなんです。そうした木に対する捉え方が作家性につながるんでしょうね。あと、指物の世界では木組みをしても、そこを見せないことが美学としてあるんです。箱を作ったときに木組みが見えると木目を断ち切っちゃうから。木目が美しく流れるため、内部を複雑に組むという感じなんです

機能性を有しつつ美しさも同居させる、この日本の美意識の奥深さ! ちなみに1枚の板を見ても、そこに裏と表はあるのだとか。

幹の中心に近い方が「裏」で皮に近い方が「表」。芯に近い方が硬くて経年しても割れにくいし、表の方が木目が美しいという特徴があるんです。ただ、裏を表にするか表を裏にするか、作り手によって考え方は違いますよ

いやぁ、木工の話を聞いてるだけで会議終わっちゃいそうですね。

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そんな指物へのこだわりの一方で気になるのが、髙橋さんが家具職人として自立するまでの経緯。だって髙橋さん、広島に全然縁がなかったのに広島にアトリエ構えたんですよ? なんでわざわざ広島に?

一番わかりやすいのは故郷の大分でやることだったんですけど、その選択肢は僕にはなくて。木工で独立する場合、田舎に引きこもって作品を作り、街中で展示会をして販売するという人もいるけど、僕が憧れたのは社会とちゃんと接触しつつ創作を行うという形で。簡単に言えば、会いたい人に会ったり、東京やメディアともつながりながらものづくりをしていきたいんです。だからまずは本州がよくて。あと「広島」って響きが素敵だと思って。大阪は知らなくてもヒロシマを知ってる人は多いので、そこに居を構えてやってみたいと思ったんです

ひとまず直感で広島と決めた後は、市内から車で30分圏内をコンパスで囲ってみたという。そこで浮かび上がったのが熊野町というエリア。

熊野町は筆の職人さんがたくさんいる町で、民家で筆を作ってる方も数多くいたんです。京都も同じで、パッと見、普通の家で木工や染色をやってたりして、僕はそれが素敵だと思って。ここなら新しくものづくりをはじめることを許容してくれそうな雰囲気を感じたんです

広島で「さしものかぐたかはし」を開いたのが2010年のこと。通常の開設予算1~2,000万円の1/10程度からスタートし、少しずつ木工用機械を揃えていったとか。しかし広島には知り合いもいないし、お客さんもいない。そんな中、髙橋さんは積極的に外の世界へ飛び出していきます。

とにかくつながりを作るため、展示会をすることにしたんです。「まず自己紹介しないと広島の人は僕のこと知らないよな」と思って。で、ちょうどその数週間前に「サポーズデザインオフィス」の谷尻誠(建築家)さんが「THINK」というイベントをはじめて。そこに行けばインテリアに興味ある人がいるだろうと思って、会場に行って勝手に展示会のDMを配ったんです。谷尻さんと知り合いでもなんでもないのに(笑)。そこから谷尻さんとも知り合いになり、少しずつ仕事が拡がっていった感じですね

まったくのゼロから手探りで顧客とネットワークを開拓していく。髙橋さんの場合、節目節目に常に人との出会いが待っていた。

開業してしばらく経つと、独自の商品を作りたいという気持ちになって。最初に作ったのが「ロロスツール」という椅子。オリジナルで作るとしたら自分が考えうる最高のモノを作りたいと思って、華やかな生地を探しているうちに「ミナペルホネン」というブランドの生地を知ったんです。「絶対この生地で作りたい!」と思ったんだけど、僕は当時ミナペルホネンのこともよく知らなくて(笑)。それで調べていくうちに皆川明さんとミナペルホネンという個人と組織の関係に感銘を受けて、「自分もこうありたい」っていうロールモデルになっていくんです。そこからは「自分が出会ってみたい人にとにかく会う」というか「そういう人と仕事できるようになろう!」と気持ちで仕事に打ち込むようになりましたね

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そして誕生した「ロロスツール」が上のもの。うー、かわいい。そして広島での出会いはまだまだ続く。

東広島にしゅんしゅんさんという同級生の絵描きの人がいて、彼の作品のための額などを作らせていただいています。そのやり取りの中で彼の考え方や行動力に影響を受けたし、一緒にお仕事をする中で切磋琢磨させていただいてます

さらにこういうところにも。

広島の「マルニ木工」さんは「ミラノサローネ国際家具見本市」で去年、特別なブースで展示された唯一の日本のメーカーで。アップル本社にも椅子を5,000脚収めてるんですけど、そういう世界のトップブランドが広島にあるってすごいことで。改めて広島ではじめてよかったと思ってます

谷尻誠さん、皆川明さん、しゅんしゅんさん、マルニ木工……髙橋さんが自らのアンテナでキャッチしたものづくりの仲間たち。こうした人たちとつながる「開かれた職人性」みたいなものを髙橋さんからは感じるんです。昔ながらのガンコで武骨な職人像とは違う、社会性を持って、なおかつ自己のものづくりも追求する職人さん。他者との共存と自己研鑽を両立させる、しなやかなバランス感覚が非常に魅力的に映ります。

ものづくりしてるとついついお金のことを考えたり、楽しいことをしてるはずなのに辛いことになっちゃう瞬間がよくあるんです。だけど楽しいことは楽しいと思って楽しむことが道が拓ける一番の手段だと思います。それは仕事以外でもよくて。たとえば僕はコーヒーが好きで、最近焙煎をはじめたんですけど、そこでも僕があこがれてるコーヒー店の人に会いに行って、焙煎の仕方を習ったんです。もともと「おいしいコーヒーを淹れたい」って気持ちからスタートして、さらにその道の素晴らしい人に出会えたりすると自分の本業に転用できる考え方や感覚にも触れることができて。今は自分の視界に入るすべてのことをできるだけ楽しみたいと思うようになりましたね。まあ、お金のことは心配だけど(笑)

工房のわきには「chigiri」というギャラリースペースもあって、さしものかぐたかはしの家具を実際に見ることができます。運がよければ、髙橋さんの自家焙煎の珈琲をいただけることも。あー、カミさんもめちゃ楽しそう……個人的にとても感銘を受けた今回の会議、職人はやっぱかっこいいYO-NE!

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2020.3.2@HFM

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