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#12 写真家・石川直樹「自由の風」(2020.1.31&2.7)

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冒険したくないですか? あ、そうでもないですか? だとしたら困ったな……今回のキーワードは「冒険」なんですよ。というか個人的にめちゃくちゃ冒険に出たいキブンなんですよ!!!

てなわけで今回の会議相手は写真家・石川直樹さん。

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石川さんがどんな写真撮ってきたか知りたい人は、まず下の「Works」を見てください。見とれますよ。どの写真も「すげー!」ってなりますよ。

いや、見ない人もいるだろうから見せます。こんなのですよ!

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写真もエキサイティングですが、写真に至るお話もめちゃめちゃエキサイティングな今回の会議。まずは石川さん、冒険への目覚めから。

もともと本が好きで、子供の頃から冒険や探検の本を読んでたんです。『トム・ソーヤの冒険』『十五少年漂流記』『不思議の国のアリス』『海底二万哩』……。それで中学生のとき「青春18きっぷ」で東京から四国まで行ったのが初めてのひとり旅。駅で何泊か野宿しました。そのとき(知らない土地を)自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の身体で感じるのは楽しいと思ったというか。「知らないものに出会いたい」「見たことのない世界に出会いたい」って気持ちが人より強かったんでしょうね

冒険にあこがれる子供時代、勇気を出して中学生で一人旅……ここまでは、まあよくある話。しかし石川少年の冒険への情熱はグイグイ加速していきます。高校生になると、いきなりインド&ネパールへ!

インドは当時読んでいた本や元バックパッカーだった高校の先生の影響で、夏休みまるまる1ヶ月滞在しました。一応親には止められて「アジアに行きたいならシンガポールとかにしなさい」って言われたけど、「そうする」って言って結局はインドに行きましたね(笑)。でもあの旅ほど驚きの多い旅はなかったです。10m歩くたびに何かに驚いてた気もするし。今は旅に慣れてそんなことなくなっちゃいましたけど、17歳のインドひとり旅は本当に新鮮でしたよ

カルカッタINのデリーOUT。さらに旅費節約のため、途中のバンコクで格安航空券ゲットという「はじめてのおつかい(タイ旅行代理店編)」状態。なにもかもフレッシュな17歳でインドに立つことにどれだけの刺激があるか、特に中年にさしかかり鈍感力の増した人(=わし)ならそのウラヤマシサがわかるはず。当たり前だけどスマホとかネットなしの時代よ!

まあ、無鉄砲ですよね。でもあんまり行けないと思わなかったんです。「順を踏めば行けるんじゃないか?」「どこにでも行けるんじゃないか?」って。インドからネパールに行って、そこで山とか見てると今度は「いつかヒマラヤとか行けたらいいな」って気持ちが湧いてきて。普通の旅行だとガイドブックの範囲内になるけど、「もっと知らない場所に行きたい」って気持ちが募ると山登りとか川下りとかに目が行くようになるんです

もっと未知へ、ひたすら未見へ、気が付けば未踏へ。で、22歳で北極点から南極点まで人力で踏破。人力って、車も電車も使わずですよ!

インド旅で世界が広がって世界中を旅したいと思ってるとき、世界中から若者が集まって北極から南極まで人力で踏破するというプロジェクトの存在を知ったんです。それで北極から北米~中米~南米を通って南極点まで1年かけて旅をして。移動は主に自転車、カヌー、スキー、徒歩でしたね

 ちなみに石川さん、このとき早稲田の大学生中。

大学を休学して行ったんですけど、大学の事務所で休学の理由を聞かれて「北極から南極まで旅行するためです」って言ったら「ウソでしょ。そんな理由ありえない」みたいに言われました(笑)

ま、そりゃそうでしょ。こうなったら石川青年は止まらない!

20歳のときにアラスカのデナリって山に登って。それが6,194mの山で、そこで高山病になって頭が痛くなるんですけど、そこで高所登山とは何たるかってことが身体に刻み込まれたんです。そのことを身をもって知ってから世界の山に登りにいって、23歳でエベレストを登って7大陸の最高峰に全部登るっていう

23歳にして七大陸最高峰の登頂に成功。もう何もかも早すぎません? そもそも放浪力のみならず、いつの間に登山までできるようになったんですか? いやー、スゴイ。人ってここまでできるんですね。なんか自分でもいろいろできるような気がしてきますよ。自由の風、吹いてますね!

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しかし石川さんの話が面白いのはこれだけじゃない。ここまでは「冒険家」としての石川さんの話。でも石川さんの今の肩書は「写真家」。どうして旅に憑かれた青年が、写真表現に向かったのか? ていうかその当時、将来についてどう考えてたんですか?

旅を続けるためどんな仕事をしたらいいかは漠然と考えてました。思ったのは、作家とかジャーナリスト、カメラマン……ただ、それはあくまで「会社に入らない仕事」という選択肢で、そのひとつに写真家っていうのはあったんです。ただ、明確に「写真家になるぞ」ってほどではなくて。とにかく興味の中心は「旅」。旅を突き詰めていくと「身体で世界のことを知りたい」ってことになって、その一番手っ取り早い方法が旅だったんです

とにかく心の中は「旅」一択。一方、写真は高校時代から旅の記録用にフィルムカメラで撮っていた。そして旅行会社の小冊子に「高校生でも行けるインド」みたいな文章を寄稿して、次の旅のためのお小遣いを貯めていた。今へと至る石川さんの雛型は芽生えていたのだ。

それが動き出したのは、さっきの北極点~南極点旅の後。

旅から帰った直後に初めての写真展をして、写真集を出したんです(『POLE TO POLE 極圏を繋ぐ風』)。それを名刺代わりにあちこち回っていると「こういう写真撮れるか?」「どこそこ行ってこういう文章書けるか?」となって、いつのまにか写真と文章が生業になってきたっていう

こうして「旅=写真・文章」で食べられるようになりましたとさ……となるのは普通だけど、石川さんの場合、ここでもミラクルな出会いが起こる。

それで仕事として旅に行くようになったんですけど、最初は新聞社の人と話して新聞連載にする予定だってたんです。でも旅から帰って写真を見せたら「この写真は紙面で使えないな」って言われて。ボツになってどうしようと思ってたら、次に写真家の森山大道さんにお会いする機会があって。そしたら新聞社の人が反応しない、個人的には失敗だと思った写真に反応してくれたんです。僕はそこで「新聞社の人がキレイと思う写真と、写真家の人が面白いと思う写真って違うんだ」ってことがわかって。そこから自分はジャーナリスト/新聞記者の方向ではなく、写真で旅を表現していく方が人生面白そう!って思うようになったんです

写真道の分かれ道。ジャーナリスティックな報道写真の世界と、アーティスティックな芸術写真の世界。森山大道さんとの出会いによって、後者を選んだ石川さん。もしこの出会いがなければ風景写真家みたいになっていたかも、と。人生の分岐点って、面白いもんですね~。

しかし話が濃すぎて写真挟まないと気持ちがもたない……深呼吸タイム~。

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石川さんの話は聞いてるだけで気持ちがワクワクしてきます。知らなかった世界を知る歓び。世界はもっともっと広いこと。たとえばこんな話も。

今はカーナビやGPSで行くべき場所がわかるけど、地図がなかった時代、人は星で方角を知って海を渡ってたんです。ミクロネシア連邦で「スターナビゲーション」という技術のことを聞いて「その話、すごく面白いな。何の道具も使わず旅できるじゃん!」って思って。で、それを唯一継承してるサタワル島のおじいさんに弟子入りして、星を見ながら海を渡る航海術を学んだんです。だけど結局さわりの部分しかわからなくて。サタワルには「スターソング」っていう1時間半くらい続く歌があって、それが地図になってるんです。♪〇〇って方角に行くと✖✖って島があって、△△島から■■って星の方角に行くと☆☆がある……その歌を全部知ってると海域のことが全部わかる仕組みになってるんです。これはすごいことだと思いましたよ

「スターソング」による「スターナビゲーション」……ものすごくカッコいいと思いません? こうして好奇心の赴くままに旅を続け、それを写真と文章で表現してきた石川さん。「芸術性もお金のことも旅の後から付いてきた」と言いますが、今の肩書は「写真家」でいいんでしょうか?

肩書が決まっちゃうと窮屈なこともあるけど、でも一番適切で正しいのが写真家かと思って。つまり消去法です。1年のうち大半は写真に関する仕事をしてるので、写真家という表現にウソはないというか。たとえば自分が冒険家かといえば、年がら年中冒険してるわけでもないですからね(笑)

「冒険家」のようで「文化人類学者」のようで「写真家」のような「旅人」。そんなマクロでグローバルな石川さんにひとつ質問! 将来の不安とか明日の生活費とか、ミクロでみみっちい悩みなんてないんですか?

僕も42歳なので、そういうことを思わないでもないんです。ただ「大丈夫だろう」って気持ちがある一方、世の中には「冒険家43歳危機説」というのがあって、僕、今年43歳なんです。植村直己さんや星野道夫さん、みんな43歳前後で人生を終えています。みんな熟練した経験を積んで、43歳で最高の目標に挑戦しようとするんだけど、実は体力的には40歳頃から下降線に入ってて、そのギャップが出てしまうっていう

「冒険家43歳危機説」っていうのもスゴイ……心のピークと身体のピークの微妙なズレ。極限で戦ってる人のみのクライシス。そういえば石川さん、これまでたくさんの冒険をしてきて最大のピンチって何だったんですか?

まだまだ見たい聞きたいものはたくさんあるけど、だいぶやりたいことをやり尽くしてきて……今が一番危機かもしれないですね。行きたい場所には行ってきたし、会いたい人には会ってきたし、これからどういうことをしていこう?っていう。さっきの「冒険家43歳危機説」もあって、いろいろ考えないといけないのは今かもしれないですね

なんと最大のターニングポイントは今だという石川さん。最後に、どうしてここまで来れたのか、自分の才能って何だと思います?

好奇心は他人より強いと思うんですけど、それを実現するときに「これはできないんじゃないか」ってことをあまり思わなかったというか。なんでも「とりあえずできる」と思っちゃうんです。たとえばヒマラヤに登る際も「俺にはできない」ってあまり思わなかったんですよね

当たり前だけど「できない」と思った瞬間からそれは「できない」んです。「できる」と思える人にしかそれを「できる」可能性はないんです。

やれるかな? 行けるかな? 冒険できるかな?

あなたのココロのスイッチは、さて、どっち?

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2020.1.24@HFM


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