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社会学について

 枠に来てくださる方に「そういえば、社会学ってよく分からない」とコメント頂いたので、稚拙ながら「私の話すことばとしての社会学」についてを書いてみようと思いました。
 できるだけ簡単なことばで書くつもりですが、難しいところがあれば枠などでお話できればと思います。また、「私の話すことばとしての社会学」と書きましたが、これが社会学だと言い切るものではなく、少なくとも私が”社会学”ということばを使うときにはこういったものを想像していますよ、といった案内になります。
※書ききれなかったので、加筆あるいは続編も考えています。

学問の中での位置づけ

 さて、〇〇学とつくものですから、まずは学問的な位置づけから書いてみようと思います。
 学問について話すとき、良く引き合いに出されるものが「自然科学」と「人文・社会科学」という対比構造です(下図)。

 実際、学問領域は多様であり、上の図についても「人文科学と社会科学をまとめていいのか」「技術科学はどこに入るんだ」などツッコミは多く寄せられそうです笑
 ただ、今回は読者の対象は私の知り合いですし、「文系/理系」と近い使い方でイメージしやすいかと思うので、この図を使おうと思います。
 立ち位置ですが、自然科学の研究の対象が「自然現象」とすれば、人文・社会科学の対象は「人間の文化」になります。とりわけ社会科学の対象は「社会現象」で、社会学もその名の通り社会を対象にする学問になります。

社会学の対象

 そうなってくると1つ疑問が浮かんでくると思います。社会科学の対象が「社会現象」なのであれば、他の学問との差は一体何なのか。
 例えば、家族社会学が専門の社会学者筒井淳也さんは著書である『社会を知るためには』の中で次のように語っています。

社会学は、心理学や経済学といった近隣分野の学問と比べると、自分の土俵のようなものをはっきりと備えていません。いえ、正確に言えば、土俵を自前で作らないところが社会学の強みであるし、またそうであるべきなのです。

筒井淳也(2020)『社会を知るためには』筑摩書房. p.58

  例えば、経済学が様々な現象を「自らの効用(幸福)を最大化すべく合理的に行動する個人」という自分の土俵(前提)に乗せた上で数式や計量手法を用いて説明していくのに対して、社会学はそういったものをほとんど持っていません。どちらかといえば、現象そのものに寄り添いそのままを理解しようとする学問だと私は思います。
 どちらかよいという話でもありません。筒井さんが上掲書のp.59で書いているように理論やモデルからなる実証研究は、観察や単純な推論からは気づけないような考察や説明をもたらしてくれます。優劣ではなく、特徴の1つとして覚えていただけたら嬉しいです。

 また、現代社会論や比較宗教学などが専門の社会学者の橋爪大三郎は著書である『社会学講義』にて下記のように書いています。

(前略)「社会」とは、ずばり、人間と人間との関係にほかならない。ここで「関係」を、人間と切り離さないところが、社会学のものの見方の最大の特徴である。社会をあくまでも、「・・・・・・・―人間―関係―人間―・・・・・・・」のように見るのである。

橋爪大三郎・佐藤郁哉・吉見俊哉・大澤真幸・若林幹夫・野田潤(2016)『社会学講義』筑摩書房. p.19

 さらに、橋爪さんは政治学や経済学、法学と比較し、それぞれが人間同士の「権力の関係」「貨幣による関係」「法律による関係」を対象にし、それ以外を無視するのに対して、社会学はそのような多様な関係の”もっとも一般的なあり方”を研究しようとするものとしています(上掲書, p.20)。
 人間の関係を扱う、というのは1つの重要なポイントかもしれません。余談ですが、社会学は英語でSociology(ソシオロジー)と言います。その元となるSociety(ソサイエティ)について、かの福沢諭吉は「人間交際(じんかんこうさい)」と訳しています(訳が書かれた福沢諭吉『文明論之概略』は岩波文庫で読むことができます)。このように(?)、社会学も人と人との間の関係を扱う学問になります。

 色々と書いてきましたが、全然書き終わる気配が見えません。
 今回は学問上の位置づけや特徴、対象を紹介する記事ということで無理やりまとめ、最後にピーター・L・バーガーの『社会学への招待』から少し紹介して終わろうと思います。

社会学は、社会を研究対象とする学問だ。だが、そこで言われる「社会」とは、私たちの「日常」とイコールではない。それどころか、ときに日常は、より本質的な社会問題や社会構造を隠蔽し、見えにくくしてしまう。逆に言えば、社会の根本問題は一見「当たり前」に思える物事にこそひそんでいるのであり、それをあえて疑い、執拗に探究することが重要となる。社会学とは、そうした探究を通じて社会の成り立ちを明らかにし、その構成単位である人間主体のありようをも解明しようとする試みにほかならない―。

ピーター・L・バーガー著 水野節夫/村山研一訳(2017)『社会学への招待』筑摩書房. 紹介文より

 ただ、日常的に社会を見るのではなく、そういった「当たり前」を疑うことでその裏に潜む法則や特徴を見出し、社会現象やその要素である人間そのものについても説明を試みる学問、それが社会学なのかなと思います。


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