見出し画像

少子化時代に大学広報はいかにあるべきか

2022年から日本ハムファイターズファンになった。理由は新庄剛志が監督として戻ってきたこと。2004年7月11日のオールスター。ホームスチールを決めたその姿を見て、「こんなエンターテイナーが野球界に戻ってきたらどんなに面白いだろう」と心から思った。そのことを、2018年10月12日にTwitterでつぶやいた。そうしたら、本当に監督として戻ってきた。

はじめは、新庄だけを追いかけた。ド派手な長い襟の赤スーツ。初キャンプでの奇抜な練習。オープン戦は、まずまずの戦績で終了した。

そして開幕。期待むなしくチームはド低空飛行。若い選手は一軍のピッチャーの前に、三振の山を築き、ここぞというところでの失策が目立った。テレビの前で何度も叫んだ。悔しい。

F-PARK(UHB北海道文化放送制作)という番組がある。これがYouTubeでも配信される。ファイターズOBの建山義紀氏(現:ファイターズピッチングコーチ)が選手にインタビューする番組だ。そこでは、選手たちの一生懸命さ。しかし結果がついてこない悔しさを知った。選手個人の「思い」を知ることで、気がつけば、選手の顔と名前を覚えている自分がいた。新庄でなく、ファイターズのファンになっていた。

ファイターズは、昨年今年と最下位に沈んだ。もちろん1回1回の試合では、あまりに不甲斐ない負け戦に、何度「ファンやめようかな!」と叫んだか分からない。それでも、本当にファンをやめようと思ったことは一度もなかった。それは、若い選手たちの「ストーリー」に感化されたからだ。

例えば松本剛は、昨年開幕前にファームに落とされそうになった時、涙を流しながらアメリカンノックを受けていた。その悔しさが、新庄に伝わって開幕4番となり、打率でパリーグトップになった。

昨年はボールが当たる気配がなかった万波が、今年はホームラン王争いを繰り広げる。その裏には、感覚でなく論理的に自分のバッティングフォームを改善した本人の努力があった。

そう。人は、ある人のストーリーに触れたとき、強く共感し、気づけばファンになるのだ。さらにそのストーリーに「成長」が加わると強い。それが、ファン歴2年目の僕が、ファイターズから教わったことだ。

さて、前置きが異常に長くなった。これを大学広報に当てはめてみたい。大学は少子化の中で、さらなる募集困難が予測される。もちろん、高校生の入学までの動向。大まかに言えば、認知→興味→関心→記憶→受験→入学の流れは変わらない。しかし、各タイミングにおける広報施策は、より緻密さが求められるだろう。そこで最も重要なことは「人のストーリー」を打ち出すことだ。

偏差値上位から下位まで、シャンパンタワーの液体が下のグラスまで行き渡るように、全ての大学が入学者確保の恩恵を受ける時代は、少子化により終わった。各大学は、偏差値の序列に従わず「この大学」を選んでもらう必要がある。つまりは、「この大学」のファンになってもらう必要があるのだ。

冒頭のファイターズの話から、ファンになってもらうには何が必要か。「人のストーリー」である。もっと細かく言えば「人の成長ストーリー」だ。これを、個々の高校生にマッチングするように、きちんと届けた大学だけが、ファンを獲得することができる。ファンは、他と比較することがない。「この大学」が好きなのだ。そういう高校生をどれだけ醸成できたかが、志願者数に代わる、これからの大学の指標となるだろう。

そのために大学はまず、「学生の成長ストーリー」を作らなければならない。つまり、成長のための「舞台」を用意することだ。これは何も学業だけでなく、課外活動でも良い。そして、ストーリーを本番だけでなく、準備段階から振り返りまで、一気通貫で見せる必要がある。つまり、ストーリーの裏側にも、高校生が肉薄する必要があるのだ。それが「共感」を呼ぶ。

このことにいち早く気づいている企業を見つけた。トヨタ自動車だ。最近のトヨタのテレビCMは『トヨタイムズ』という、同社のYouTubeへの導線となっている。そして『トヨタイムズ』では、各部門の社員の車づくりへの思い、車づくりを通して社員が成長する舞台裏をストーリー仕立てで流している。

車の「スペック」の話は出てこない。『トヨタイムズ』でストーリーに触れてもらうことで、ホンダでも日産でも、ベンツでもポルシェでもなく、「トヨタのファンづくり」を目指しているのだろう。これが、物が売れなくなった時代の、マーケティングなのだと思う。

これからの大学広報に必要なのはファン醸成のためのストーリー作り。だからこそ大学は、まずストーリーを作るための「最高の舞台」を用意しなければならない。では、「最高の舞台」とは何か。それは、大学という機能そのものの向上である。つまり、教育、施設設備、課外活動すべて。このクオリティを上げる努力無くして、良いストーリーは生まれない。学生満足度も上がらない。さすれば、それに共感するファン(受験生)も集まらないのだ。まず、広報よりも、大学を良くすること。イコール、学生に最高の学びの機会を提供すること。それが最大の広報だと感じた今日この頃である。

そういえば、ファイターズは今年、エスコンフィールドと言う最高の舞台を作った。ここからまた、新たな成長ストーリーが生まれることを期待している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?