ホールド
「私が死んだら、たくさん泣いてたくさん悲しんでくださいね。」
その人は綺麗に笑って言った。
縁起でもない、と僕は困ってしまった。
「縁起ってなぁに? 人が死ぬのは自然なことよ。枯れない花は無いし、死なない猫もいないでしょう?」
そうだけど、そうじゃなくて。僕が言いたいのは、そうじゃなくて。
感情を正確に表す言葉を、頭の中の引き出しをいくつも開け閉めして探していると、君はまたニコッと笑って背を向けて歩き出してしまった。
待って、と言えない僕は、非道な人間だろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?