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【読書記録】真保裕一さんの『百鬼大乱』を読んで考えたこと

真保裕一さんの『百鬼大乱』を読みました。
太田道灌を主人公にした、歴史小説です!

昨年、関東管領についてちょこっと読んでいたので、なんとかついていけましたが、やっぱり関東の山内&扇谷上杉家はわかりにくい。真保裕一さんも後書で仰ってますが、似た名前の人物が多すぎ。読み方も難しい。家系図も欲しいよ、講談社さん。

しかし、一度歴史を読んだ後でこの小説を読むと、概説書ではピンとこなかった部分が、さすがわかりやすくて、「あ、ひょっとしてこういうことだった?」みたいな膝打ちポン状態が続き、納得しました。

太田道灌はやっぱり格好いいし、頭いい。でもゆうきまさみさんの漫画『新九郎、奔る!』を先に読んでいるので、あの道灌が脳裏をチラつきます。NHK大河で、太田道灌か伊勢宗瑞やって欲しい。(どこまでも余談)

それはさておき、文安3年(1446年)から文明18年(1486年)までの、太田道灌の人生がこの本で描かれています。
その間、ほぼ戦争。戦ばかり。
章と章との間で、時間が飛んでいたりもしますが、これでもかと戦が続きます。
正直、あまりにも戦ばかりだと、読んでて疲れます。史実をある程度知っていると、あの辺で誰それが死ぬとか、この人の望みはもうかなわないのになとか、そんなことも思ってしまうので、余計に疲れます。

そもそもこの内戦(享徳の乱)って「あいつら戦の準備してそうだから、やられる前にやってしまえ」で始まり、「戦で働いた者たちに褒美を出さなきゃいけないから、勝たずに和平なんてできない(相手方の領地をぶんどらないと褒美として与える土地がないから和平はあり得ない)」で、だらだら続き、当主やナンバー2が相次いで死に、戦争の道筋を決められる人間がいなくなって、泥沼化していったんだなあ……というむなしさが、伝わってきます。伊勢宗瑞が参戦してくる前から、半ば戦国時代。

このやりきれなさ、読んでるだけで伝わってくるんですから、実際、この状況に放り込まれたらたまりませんね。人生の大半が内戦!
それでも太田道灌は、ひとりで関東のあちこちで起こる蜂起に手を打つわけですよ。参戦した戦は負けなし。
というのも、江戸城を築いた人ですから、江戸や品川の湊に入ってくる商人の流通網を押さえ、兵士も専従の武士を雇って訓練をさせ、情報の重要性も理解していた。また、そもそも勉強熱心な人なので、故事に学ぶことも怠らず、一方で連歌など文学にも精通していた。
だから、強かったんですね。

なんですけど。
故事読んでるくせに、韓信のことは頭にとどめてなかったのかよ! 
……おっと、こいつぁネタバレだ(歴史的事実にネタバレもくそもないとは思いますが)。

この小説の続編があるとしたら、主人公は伊勢宗瑞ですね! 
ちょこっと出してる分、そのおつもりなんじゃないかと踏んでいます。

いやあ、世の中には「NHK大河は合戦があってなんぼ」という方もいらっしゃるようですが、それは関ケ原みたいにあっさりかたが付いた内戦の話であって、延々と続く泥沼だったらどうなんだろう。
しかし、戦争は簡単に泥沼化してしまうという事実に目を向け、脱出の糸口を探ることに頭を使った方が、より現実的に役に立つっちゃ立つので。桶狭間は特異な例という認識を日本人に広めるためにも、こういう泥沼を大河にするのもアリでしょうね。視聴率的にはどうか知らんけど。(ああああ、話がずれてる……)

室町時代の関東のことって、歴史の教科書でもサラッと流されてるようだし、私も大昔の高校時代、最終的に世界史選択したので、太田道灌について全く知りませんでした。江戸城作ったのって家康ちゃうん? という程度。
でもその業績を読んでいくと、すごい人やんて思うし、そんな太田道灌でも、一度始まった戦が泥沼化していくのは止められなかった。ならば、凡人は決して選択肢に入れちゃいけないよなあ、戦争って。となるわけです。

あと、トップが世襲制であることによる腐敗ね。
鎌倉公方も関東管領も世襲制で、本人の能力よりも誰の血を引いているかで選ばれる。養子も含めて。
そんなおぼっちゃまが、見栄や保身第一にあれこれ指示を出していくんだから、そりゃおかしな指示も出るし、取り入って甘い汁を吸おうとする奸臣も群がってくるし、讒言も飛び交う。
結果、組織は衰退弱小化し、ゆくゆくは破滅していくわけですから(関東はまるっと小田原北条氏→徳川氏のものになっていく)、ここは我々が歴史小説から学ぶべきところじゃないかなあと思うんですね。

小説はエンターテイメントとして楽しむべきで、そこから何か学びを得ようとするのはおかしい、という意見があるのもわかります。
まあでも、歴史そのものから学ぶ必要があるのも、事実なんで。

今、太田道灌と享徳の乱を知ることの意義は、そういうことなんじゃないかと思うわけです。
ありがとうございました。


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