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【読書記録】岸田奈美さんの『飽きっぽいから、愛っぽい』を読んで考えたこと

若い作家さんのエッセイ本は、ついつい親目線で読んでしまいます。
すみません、そういう年齢なのですよ、50代なので。
なので、岸田奈美さんの『飽きっぽいから、愛っぽい』も、読みながらものすごく考えてしまいました。

この本では、これまでの岸田奈美さんのエッセイの要素を抽出しつつ、更に視点と文体を変えて、本質的な部分が語られているように思えます。
亡くなられたお父様のお話に始まり、お父様への想いとご自身の生き方で終わる、というようなエッセイ集です。

岸田奈美さんと言えば、noteでも楽しいエッセイを書かれていて、私も何度メンタルを救われたかわかりません。既刊の3冊も、非常に楽しく拝読しました。
岸田奈美さんは、10代の頃から過酷な状況の中を踏ん張ってこられて、それでもしんどいことも笑い飛ばそうとされて、頭が下がります。

そんな、一見芯の強そうにうかがえる方の、迷いや悩みが、このエッセイ本には書かれていて、「当たり前だよね、まだこんなにお若いんだもの」と思い、更には「こんなに若い方が頑張らなきゃいけない社会を、親世代の我々が放置してきたんだよなあ」という自責の念にかられるのでした。

うちの子たちもそうなんですけど、若い方って「価値を生み出さなきゃいけない強迫観念」や「無駄なことをしてしまう罪悪感」に囚われていないですか?

なんかね。バブル崩壊後の失われた30年で、そういう空気を濃縮させてしまったんだなあ……と、勝手に反省して打ちひしがれてます。
いや、別に、世代代表のつもりではないですが、ここ30年を大人として過ごしてきた世代の責任って、あると思うんですね。てか、そうして反省すべきはしないと、無責任だし。

そりゃ、バブル期にだって「あ~、今日は一日だらだらしてしまったなあ」と反省したりもしたし、就職してからは「会社の役に立たないと居場所がない」とも思ってましたけどね。
ただ、終身雇用制の廃止と能力主義が、日本人の中から「心の余裕」を奪った感はめっちゃあるので、そういうのがより弱い若者へ向かっているというのは、常々感じているんですよね。
だから、社会の変革に乗った世代としての、自責の念。

この本のエッセイ自体はむちゃくちゃ面白くて、バスの中で読んでて吹き出すのを何度こらえたことか。
岸田奈美さんの視点には、他者を思いやる気持ちがあふれている。誰かを悪しざまに罵って溜飲を下げるようなことはせず、どこまでも器が大きい。そしてご自分の失敗談を、楽しく語られる。

疲れたな、と思ったときの常備薬の一つに、岸田奈美さんのエッセイ集は入ります。

と同時に、若い方にこうして頼ってばっかりいちゃだめだよなあ、とも思うのです。

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