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野坂昭如氏の『「終戦日記」を読む』を読んだ話

春先に、『火垂るの墓』の主人公の行動は是か非か、みたいな論争がTwitterであった。
「礼儀正しくしていれば主人公は死なずに済んだ」という解釈だ。
著者の体験を元にした作品だから、ハリウッドのエンタメ映画的見方をされてもなぁ……とは思ったけど、それで野坂昭如作品を全く読まずにどうこう言うのも、それはそれで片手落ちなので。

『「終戦日記」を読む』を読みました。

春先の話をいまさら記事にするのもどうよ? ですが、この本に書かれていることは、日本人にとって非常に重要なことなので、どちらかというと「なんで今まで書かんかったん? 自分」なんですわ。
しばしお付き合いいただけますと幸いです。

『「終戦日記」を読む』は、野坂昭如氏が体験した戦争と終戦前後を振り返るために、書き残された個人の日記を集めて読んだ記録と、野坂氏自身の体験エッセイで構成されています。(という解釈が片手落ちだったらすみません)

あの時代を体験してきた人たちの、生の声。
その生の声を、当時子どもとして生きた野坂氏がどう受け止めたのか、何を考え感じたのか、結局日本人の戦争とはなんだったのか。
戦争の足音が聞こえてくる今だからこそ、多くの人に読んで欲しい本だと思います。

日本人は戦争を知らない。

野坂氏が、この本の中で何度も訴えているのが、「日本人は戦争を知らない」です。

島国で、対外戦争をほぼやってこなかった民族だから、戦争を知らない。
戦国時代や戊辰戦争だって、あれは内戦ですからね。
所詮、同じ国の中で、同じ言語を持つ者同士が、同じ価値観のルール上で、やった内戦。

近代戦は総力戦なのに、国民は「おとなしくして我慢していれば、自分だけは大丈夫だろう」と思ってる。
戦争を、天災か何かだと勘違いしている。
Twitterで話題となった「主人公は礼儀正しくなかったから死んだ」と同じ感覚ですね。

実際はそんなわけなくて、いい人であろうがなかろうが、爆弾が飛んでくれば誰でも死ぬし、戦争を終わらせるためには行動しなきゃどうにもならないし、国は国民が死のうが飢えようが助けてはくれない。
何しろ戦後のインフレを抑えるために、預金封鎖までやって、国民が食べ物を買えないようにした。もちろん配給が滞っていようが止まっていようが、お構いなし。全部自己責任。

日本人は戦争を知らないまま戦争を始め、戦争をし、敗戦し、戦後も戦争を総括することなくここまで来てしまったから、現代の日本人も戦争を知りません。
その危機感に対する訴えが、この本にあります。

それから、書き残された戦争の記録というのは、所詮「幸運にも生き残れた人の記録でしかない」ことにも言及されています。
早い話が、殺された人は体験日記なんて残せないわけで。
地獄を見てきた人も、早く忘れたいから書き残さないわけで。
そこの想像ができなくて、書き残された日記だけを読んで「戦争とはこんなもの」と認識してしまうことの危うさにも気づけよ、と。
なので、戦争を扱った外国文学も最低限読めよ、いうご指摘なんですね。

戦争文学なのにやっぱり文章がうまい

直木賞作家の本に「文章うまいなあ」なんて、本当に「莫迦か、自分?」なんですが、やっぱり文章がめちゃくちゃうまいです。

戦争の関連本って、研究者の方が書かれた本が多いので、どうしても文章が制服を着てる感じで、わかりやすいけれど教科書的……だったりするんですよね。(というか、面白みの方向性が違う)

でも野坂氏の場合、句点だけで文章が延々と続いて、いったいどこまで一文が続くんだよ~だったりするのに、すらすらテンポよく読めるもんだから、心地よいし面白い。
こういうのを読まなあかんのやわ~と、しみじみ思いました。

文章は短くわかりやすく、というのは、素人が書く上での基本ですが。
でも読む立場で考えると、面白い文章の方が読んでいて楽しい。
戦争文学なのに、読んでて楽しい……というのも妙ですが、文章にテンポって大事ですよね。まあ、ネット上には店舗な文章の方が多いけど。

おわりに

戦争は絶対にやっちゃいけない。
やれば日本は必ず負けます。
輸出入が止まれば、国が立ち行かなくなることは必定なので、絶対にこちらから手を出してはダメ。先制攻撃は絶対ダメ。
仮に戦争になるとしても、国際世論を味方につけないと勝つことはできないので、世界が日本をどう見ているか、その意識をまず持たないと絶対ダメ。
周辺のアジア地域を敵に回したら、絶対ダメ。輸入が止まるから即死。
そして、中国は絶対莫迦なことはしてこない。あの国は、ロシアの二の舞を踏むことはない。

武器を持って他国を威嚇するのは、北朝鮮のやりかた。
でも、かの国と同じことをやっても、日本はかの国以上にうまくは立ち回れない。
ここ150年で日本が何をやってきたか、そこが絡んでくるから。

だから、我々は戦争を自分事として、もっと知らなきゃいけないんだと思います。
戦争を絶対にしないために。
あの日亡くなった人たちの無念を、無駄にしないために。

過ちを繰り返さないために読まなきゃいけない本はたくさんあって、この本もそのうちの一冊だと思いました。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。

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