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柳田国男さんの『日本人とはなにか』にぶつかる。

図書館の新刊コーナーにあった、柳田国男さんの『日本人とはなにか(増補版)』を手に取ってしまった話をします。

思えば2023年は、日本史について知ろうという目標を掲げて明けた年でした。なので、頭の隅にいつもあったんですね。
図書館で、たまたま目にして、手に取って。衝動買いならぬ衝動借りというやつを、やらかしてしまいました。

柳田国男と言えば、遠野物語がすぐに思い浮かぶ……というか、それしか知りませんでした、恥ずかしながら。
民俗学者ということは知っていましたが、民俗学って古い慣習とかお祭りとか民話とかそういうものを調べる学問? 程度の認識で。

無知でした。はい。
本を読めば読むほど、己の無知さ加減を思い知らされてへこみます。
それはさておき。

この本は、柳田国男氏の講演やら原稿やら対談やらを収録したもので、時代としては昭和半ばころの、柳田国男晩年の本です。
柳田国男って、名前だけが独り歩きしてる感があって、いつ頃の人かよく知らなかったんですが、1875年生まれなんですね! 明治大正昭和の激動の時代を生きた人……。

古い日本がどんどん変化して(文明開化・西洋化して)壊れていくのを見つつ、それでも残すべきものもあるんじゃないかと、全国を旅して調査したということですが。
しかし、一口に「全国を旅して調査」と言っても、徒歩の旅ですからね~。
そりゃそうか、高度経済成長前ですもん。今じゃ絶対真似できない。

それも、柳田国男はそもそも議案書作成の役人で、議会が止まったりすると仕事が暇になるから、その暇を使って調査の旅に出たとか、今じゃ全く考えられない境遇です。うらやましすぎる! うらやましいけど、徒歩の旅は苦行……。

柳田国男の旅は、まるで江戸時代の旅のようで、地元の人と話をしながら歩くことでその土地ならではの歴史や文化を知るなど、なんだかのんびりした感じを抱きます。
それも時代が下るにつれ、宿場町によそから日雇い労働者が集まってくるなど社会が変わり、よそ者が旅の世話のしてくれるようになるので、もう地元の人の話が聴けなくなったとか。
柳田国男の旅自体が、日本の社会経済環境を知る資料とも言えますね。

それであちこち回って、家のつくりとか、ムラの慣習とか、婚姻の風習とか、氏神とか、多岐にわたるテーマについて調べたことが書かれています。
調べたことをまとめて書くというより、調べて考えたことを述べられている、そういうつくりですね。

なので、ときどき読んでて意味のわからなくなる箇所もあり、つまり言葉の意味や使い方が当時と今とで違ってたり、そういうことがここ60年でもすでに起こっているという、おそろしやな現象にも出くわすことしばしば。
以前、夏目漱石の『私の個人主義』を読んでた時にも体験したので、そんなこともあるわな~とは思ってたんですけど。
単純に私の理解を越えた文章、という事実も否定できませんが。

柳田国男が向き合ったのは、集団としての日本人(ムラ社会)だったので、現代の個人主義や民主主義の視点で見ると、「日本の慣習って人権なくて酷い」しかないし、柳田自身もその無法地帯性を認識していたようです。
それでも、慣習にも残すべきものがあったとするあたり、家父長制の時代の人やもんな、と思ってしまうのはしようがないですよねえ。
婚姻の自由は女性の方にあった、なんてのも、ちょっと夢見すぎ。当時の女性にとって婚姻って、24時間365日休みなしの労働に買われていくようなもんじゃん。夫に従い夫の両親に従い、言われるがままに働きづめで、自由とはなんぞや。

他にも、明治の頃の日本史研究って、江戸時代がまだまだ手薄だったとか、そういうのを読むと歴史を感じます。
260年の徳川時代の間は、そりゃ自分たちの歴史検証なんてやってないわけですから(家康様すご~い的なのはやったとしても)、世界外交の中に放り出された当時の日本人としては、めっちゃ心もとなかったでしょう。
心もとないからこそ、自分たちで日本人の歩いてきた道を調べよう、残そうって考えたんだろうな、とか。

こうやって、意義があると思いながら調査していた柳田国男氏ですが、当時も今と変わらず「人文学なんて意味ない」という声はあったみたいです。そういうふうに言う奴って、いつの時代もいるのな。
でも柳田国男は「社会をよくしていくために人文学はあるんだよ」と断言されてて、やっぱりそうだよなあと。
この言葉、現代にこそ必要だよなあと思わずにいられません。


などなど、思いもかけずに柳田国男著作を読むことになった者の、とりとめのない感想の羅列と相成りましたが。
とにかく柳田国男という人の考えに、一つ一つ並走しながら、日本人とはなにか、柳田国男とはどういう人か、考え続けた読書体験でした。

この本は、まず答えを提示してから理由を述べるような、そういう本ではありません。
だからこそ、読む意義がある本とも言えます。
めっちゃごつい本だし、読んでも意味のわからないところもあるけど、とりあえずくらいついていけば、見えてくるものがある。
この本のおかげで、とりあえず一般向けとされてる本なら、多少ごつくても読めるんじゃないかと錯覚するまでになりました。

以上、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 


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