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9 寺地はるな 『今日のハチミツ、あしたの私』

寺地はるなさんの作品3冊目。ほっこりあたたかい読後感でやっぱり期待を裏切らない。今後も開拓したい。


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「蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」

『今日のハチミツ、あしたの私』p9

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自己肯定感が低く、自分のことがなかなか好きになれない私に、「自分が自分のことを大事にすること」の大事さがグサグサ響いた。

「あなた自身が、あなたを大事にしてないから。あなたがあなたを嫌っているから。だから周りの人はみんな、ますますあなたを大事にしないし、嫌いになる。こいつはそういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう」

『今日のハチミツ、あしたの私』p7

「あんたは……役に立ってる」
「そんなことはないです」
そんなことはある、と黒江はきっぱりと言う。
「給料はいらないなんて言うな。そんなふうに、自分の値段を安く見積もるな」

『今日のハチミツ、あしたの私』p167

世の中の当たり前や思い込みに問いかけていく、寺地さんの姿勢がやっぱり好き。

親子なんだから、絶対そんなはずないよ、などとは、碧は言わない。親子なんだからわかりあえるはずだとか、愛しているはずだとか、そんなのは嘘だ。親を心から愛せぬ子はいる。逆もまた。親と子は他人だ。

『今日のハチミツ、あしたの私』p144

「自分の居場所は自分で作る」ということ。それが自分が目指した場所でも、そうではなくたまたま流れ着いた場所でも、自分で自分がどこでどうやって生きていくかを探っていくこと。お仕事をしていて「私はどこまで貢献できているんだろう」「私の存在価値ってあるんかな」と思うこともあるけど、どんな環境でも適応して生きる蜜蜂みたいに、自分の力で作り出していかなきゃ。勝手に存在しているものでも、誰かが作ってくれるわけでもない。「ストレスのせいにしたくない」「人見知りだから」と便利な言い訳をしないと心に決めている碧みたいな、強く、逞しく、かっこいい生き方ができるようになりたい。

「自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないんだよ。自分でつくっていかないと」

『今日のハチミツ、あしたの私』p154

わたし、養蜂が好きなんです。碧は一語一語、確かめるように発した。
「はじめたばかりだけど、すごく、楽しいんです。たくさん花の咲いてる、この町のことも好きです。ここに居続けられるのかどうか、わかりません。結婚するはずの相手とも別れてしまいましたし。黒江さんは、巣箱を壊されて、すごく落ちこんでます。養蜂を続けるかどうかあやしい感じだし、でもわたし」
わたし、と碧はそこで言葉を切って、呼吸を整えた。喉の奥から湧き上がるわけのわからない熱いかたまりを飲みこむ。
「わたしは、ここにいたい、と思ってます」

『今日のハチミツ、あしたの私』p226

「あんたらが、あんたらがそうやって『傷つきやすいから』とか『弱いから』とか言って甘やかすから、あの男はいつまでたっても弱いまんまなの!誰だって傷つくし、誰だって弱いの!けど、誰でもみんな現実に向き合って生きてんの!実際のところその女は清純でもなんでもないし、現実の世界はきれいじゃないことを安西は知るべ!き!な!の!」

『今日のハチミツ、あしたの私』p119


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