【編集先記】ヤマガタダイカイギュウに会いたくて山形県立博物館編vol.1
●はじめに●
雑誌には、最後に「編集後記」なるコーナーを入れる慣わしがあり、そこで制作裏話が語られたりしますが、私が主戦場としている書籍には編集者による編集後記を載せる場所がありません。1冊作るとそれなりに裏話がたくさんあるのに、これはもったいない。勝手に書いてしまおう。と、noteをひらくも、いざ書こうとするともう忘れている! なんてことだ! 楽しかったあんなことやこんなこと、決して忘れられない素敵エピソードの数々があったはずなのに!!
そこで思いつきました。忘れないうちに書けばいいのではないか。ネタは新鮮なうちがいい。情報解禁を待ってはいられない。
ということで、「何の本かはまだ言えないけど、本を作っています」をここに残します。それが「編集先記」です。
***
さて、前置きが長くなりました。編集長です。
今、本を作っています。
どんな本なのかちょっとだけお伝えすると、「全国の博物館・科学館を巡りながら、そこにある一つの化石について、鑑賞ポイントや展示までの物語、発掘地や種の生態などを著者目線でとことん解説してしまおう」というもの。
簡単にまとめると、「化石案内本」です。
博物館の化石についてはすでにある程度頭に入っている著者には執筆に集中してもらい、代わりに私が現地の臨場感をお伝えすべく、カメラ片手に直接取材に行くことにしました。
著者から最初に届いた草稿は、山形県立博物館のヤマガタダイカイギュウ!
早速、花見の賑わいも落ち着いた4月半ばの山形へ、行ってまいりましたよ。
この日案内してくださったのは、この3月まで学芸員を務められた長澤一雄先生と、4月に着任しその役目を引き継いだばかりの瀬戸大暉先生。
まあなんという贅沢。。。
本日はお世話になります! よろしくお願いします!
山形の山から山ほどのクジラ
山形県立博物館の常設展示は、玄関を入ってすぐの階段を昇り、2階に展開されています。
ですが!すぐに階段を昇ってはいけません。階段横に、見逃せない化石や鉱物の展示があるのです。
そしてさらに奥に進むと……
突然のひらけた空間にクジラどーーん!
現生のクジラ骨格と、その下にはおよそ30年前に発掘されたマムロガワクジラの化石が並べられていました。
マムロガワクジラとは、真室川町の山中で発見されたクジラの化石群の総称で、種の特定はされていません。
大きな2本の顎の骨が、バラバラになって流れ着いたクジラの骨をうまい具合に堰き止め、大量に発掘されるに至ったとか。
この化石群の中にはいくつかの種のクジラがおよそ45個体分、「これとこれは同じ個体のもの」と紐づけられるものでもおよそ20個体くらいがいたとのこと。
クジラは体が大きいので、骨の1つ1つも大きいです。そんな大きな海の生き物の骨が、山から45体分も……! ロマン!!
ちなみに、上から吊るされているのは現生のミンククジラ。比較用の展示ですが、侮れません。
「このクジラはぜひ顎を見てください」とは長澤先生。
顎を閉じた姿で展示された最初のモデルなのだそう。
下顎のカーブと上顎のカーブがピタッと沿っていて、なんだか鳥の嘴のようではないですか? 自然のデザインはなんと不思議で、そしてなんと美しいのでしょう。
そしてついに主役登場! …のその前に。
さてさて、本日の主役をあまり待たせてはいけません。急いで向かうことにしましょう。
第一展示室入り口に到着すると……あ! いらっしゃいました。こちらにじっと視線を向けて出迎えてくれています。
はい、愛しの君、ヤマガタダイカイギュウです!
あなたに会いに、山形までやって来ましたよ。
…と、その前にちょっと待って。
ここにすごい化石があるじゃないですか!
ヤマガタダイカイギュウに気を取られながら展示室に一歩足を踏み入れると、その手前左手に、すごい存在感を放つ大きなヒトデ化石がありました。
ラベルに「ハダカモミジガイ」と書かれたモミジガイ科のこの化石は、県指定の天然記念物。かつて小学校の校長室にあった実物化石が、閉校に伴い、ここに寄贈されたそうです。
厳密にはハダカモミジガイと特定されたわけではなく、もしかしたら新種の可能性もあるそうで、ただ国内に専門家がいないことで未だ記載されていないといったお話も。
有名な化石でも、専門家不在につき分類がわからないままになっている化石はたくさんあるのですね。
古生物学者志望の諸君、どうだヒトデを研究してみないかい?(突然の誰)
ところで「ヒトデなのにカイ?」と思われませんでしたか?
この「カイ」は、「貝」ではなく「介」。
その昔、海に生きているものは皆「◯◯介」と呼ばれていたのだと、実は貝がご専門の瀬戸先生が教えてくださいました。
瀬戸先生は貝のこととなると水を得た貝(いや魚…まぁ貝でいっか)のように生き生きとお話しされるのが印象的でした。
かたく口を閉ざすことを「貝になる」と表現しますが、瀬戸先生曰く「貝はしゃべれます」。
研究者になると、物言わぬ化石や標本や生き物たちの声をたくさん聞き取れるようになるのでしょうか。
なんだかうらやましいですね。
はい、ちょっと寄り道をしすぎました。次こそは主役の登場です。
ヤマガタダイカイギュウに会いたくて山形県立博物館編vol.2へ続く
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