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【編集先記】ヤマガタダイカイギュウに会いたくて山形県立博物館編vol.2

こんにちは。編集長です。

某出版社から刊行予定の某化石案内本の取材のため、山形県立博物館を訪れました。
ヤマガタダイカイギュウに会いたくて山形県立博物館編vol.1の続きからお届けします。

博物館入り口のヤマガタダイカイギュウのモニュメント
実はここでも会っていました。階段横の展示ケースに収められた1/5レプリカ

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ヒーローは遅れて登場する

建物入り口から階段を昇ってすぐのはずの第一展示室に、なぜか30分以上かかってようやく辿り着いた私たち。博物館は時空が歪んでいると兼ねてより訴えてきた私ですが、ここでも証明されました。
実に不思議です。

何はともあれ、満を持してのヤマガタダイカイギュウですよ!
早速じっくり見ていきましょう。

ヤマガタダイカイギュウの展示

ここには、全身復元骨格と、産状化石と呼ばれる産出の様子を残した化石レプリカ、さらに地層の剥ぎ取り標本が展示されています。

見つかっているのは主に上半身で、それ以外は祖先のジョルダンカイギュウを参考に復元されています。
産状化石。こんな骨が出てきたらビビりますね。
地層の剥ぎ取り標本(実物)

ヤマガタダイカイギュウは、今から45年前、最上川の川床で2人の小学生によって発見されました。国内2例目のカイギュウ類とのことですが、発見時はクジラの化石として発掘が行われたそうです。

しかし発掘を終えクリーニングを進めるうち、咬合面がすり減った歯の化石が見つかり、この特徴から海の草食哺乳類=海牛であることがわかったとのこと。

歯はかたく化石に残りやすい上、グループや種ごとの特徴が顕著に現れていたり、形状から食性を推理できたりと、化石研究には欠かせない部位というのはよく聞く話。
例えば歯クジラの歯は全て犬歯のような先の尖った形をしています。咬合面がすり減った歯を持つのは植物をすり潰して食べる哺乳類の特徴なんですね。

ヤマガタダイカイギュウの歯。確かにクジラの歯とは違います。


進化の軌跡を残す奇跡の化石

さて、時は1978年です。
大きなクジラでももちろん大発見ですが、当時日本ではわずか1例しか見つかっていなかったカイギュウ類のまとまった骨であることがわかった以上、これはもう、町おこしプロジェクト始動待ったなしです。発見したのが2人の小学生というのもなんだか夢がある!

というわけで、本来は何かとややこしい予算取りや諸々の交渉もとんとん拍子に進み、この発掘作業を先導した山形県立博物館の高橋静夫博士(長澤先生の前任者)は翌年の特別展の目玉にすべく、準備をしていきます。

しかもタイミング良く、北太平洋のカイギュウ類の系統をまとめたばかりだった米ハワード大学のドムニング博士を招くことができ、研究は一気に進みました。


そしてなんとここで、指が見つかるのです。

ヤマガタダイカイギュウの指


「え? 指? なにそれ珍しいの?」
はい、聞こえてきましたよ。誰ですか?慌てんぼさんは。

実はこの系統は、祖先に位置付けられるジョルダンカイギュウ(ヨルダンカイギュウ)には立派な指があるのですが、最終的には指を持たないステラーカイギュウへと繋がっていきます。
ヤマガタダイカイギュウの手にはその中間形質とも取れる指が見つかりました。ということは……??

そう、進化の軌跡がここに!

そもそも、国内2例目とはいえ、1例目の長野で見つかったカイギュウ類は大腿骨のみ。上半身がここまで揃ったものは初でした。片方だけでしたが手も残っており、それもまさに奇跡だったのです。

かくして、ヤマガタダイカイギュウは新種としてDusisiren dewanaと名付けられ、山形県を代表する自慢の化石となったのでした!!!
パチパチパチパチ……

いやーそんなお話をうかがった後に改めて展示を見ると、いろいろと見えてくるものが変わりますね。


たまたまのヒーロー誕生?

1978年はたまたま雨の少なかった年で、
たまたま水かさが減っていた最上川で遊んでいた小学生が、
たまたま大きな動物の骨を見つけ、
相談を受けた学校の先生がたまたま県立博物館に報告し、
たまたま特別展を準備中だった高橋博士が目玉展示にすべく予算を確保し、
たまたまカイギュウ類の系統をまとめていたドムニング博士を招くことができ、
たまたま歯が見つかり、たまたま指が見つかり、
こうして山形県のヒーローとなったヤマガタダイカイギュウ。

この奇跡の化石発見発掘物語を、何度も「たまたま」と表現された長澤先生。
あれですか、「奇跡」と書いて「たまたま」と読む的なやつでしょうか。

いや、「たまたま」は文字通り「たまたま」であり、それが当時を知るからこそのリアルなお言葉なのかもしれないですね。
(ちなみに長澤先生は、このヤマガタダイカイギュウをきっかけに、脊椎動物化石の研究をされるようになったとのことです)


この取材旅はまだ終わりません!
ヤマガタダイカイギュウに会いたくて山形県立博物館編vol.3へ続く


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