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このジャパンダウンの品質がメチャ凄いのはなぜだ!?

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2019年1月号メイドインニッポン漫遊録より)

寝袋品質で世界と勝負する滋賀ダウン

 筆者が初めてダウンジャケットを知ったのは、中学生の頃に夢中で読んだ「メイドインUSAカタログ」だ。

 70年代後半に発売された当時のアメリカの若者に流行っていたライフスタイルを紹介したカタログ雑誌で、アメリカでいまブームのアウトドアウェアとして紹介されていた。「こんな寝袋みたいな服がカッコイイの?」と思ったのを憶えている。

 あれから40余年。いまではすっかりダウンジャケットは市民権を得て、ユニクロなどの安価なものから何十万円もする高価な欧米のアウトドアブランドのものまで、軽くて暖かな冬のお洒落着として定着している。

 最近、お洒落な人たちから注目されているのがジャパンダウンだ。なかでも人気が高いのが、「ナンガ」というブランドのダウンジャケットである。元々は滋賀県でスリーピングバッグ(寝袋)を作るアウトドアメーカー。寝袋の製造で培った高い技術と品質の良さで、有名セレクトショップの別注も数多く手掛け、東京の目黒と吉祥寺に自社ブランドを揃えた直営ショップもある。

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山から街まで、ハイスペックとファッション性を兼ね備えたナンガのダウンジャケット。防水透湿素材使用の「オーロラダウンジャケット」や難燃素材使用の「タキビダウンジャケット」もある

 メイドインUSAカタログで初めて知ったダウンジャケットも、いまやメイドイン滋賀の時代なんですね。そこで今回はナンガを訪ねて、滋賀県の米原市を旅して参りました。

父から子へ、伊吹山の麓で作る高品質

 ナンガの本社は、日本百名山の一つに数えられる伊吹山の麓にある。社屋の周辺は見渡すかぎりの田園風景。目の前には紅葉が間近の伊吹山がどぉんとそびえている。

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 創業は昭和16年(1941)。前身は先々代が設立した「横田縫製」という縫製会社。近江真綿の産地が近かったことから布団メーカーの縫製加工の下請けをしてきた。しかし加工を安価な海外の工場に移行する企業が増えてきて、2代目の横田晃さんは社員の雇用を守ろうと、布団の縫製加工の技術を活かしたアウトドアの寝袋メーカーに転身する。

 平成7年(1995)、社名とブランド名を「ナンガ」に変更。「攻略が難しい山だが一歩一歩頂(いただき)を目指して登ろう」という思いで、登頂困難なヒマラヤ山脈の標高8,125メートルのナンガ・パルバットから名付けた。

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(上)1階のショールーム
(下)ショールームに飾られたダック人形

「親父の決心が社名に表れていますよね。モノづくりのこだわりが人一倍強くて厳しい人ですから寝袋の品質はどこにも負けません。ただ、ええもんはええんや。使ったらわかるからとりあえず買ってくれという職人気質だったので、私が子供の頃は、社員の雇用を守るために家も会社もとにかく大変でした」

 3代目社長の横田智之さんはそう語る。ナンガの名前を、ジャパンダウンジャケットのブランドとして一躍有名にしたのが彼だ。

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3代目社長の横田智之さん。自称インドア派だがチャレンジ精神旺盛で今では登山もキャンプもプロ級の腕前

「寝袋で寝たこともなかったし、本当は山でキャンプよりリビングでテレビを観ながらごろごろしてたいインドア派です(苦笑)」

 ありゃりゃ、ナンガの社長らしからぬ発言であります。それもそのはずで、20代前半まではブライダルの貸衣装会社でトップ営業マンだった。平成11年、長男の智之さんは父親に呼び戻されてナンガに入社。入社早々、長野の専門スクールに入らされて2カ月間みっちりと登山を学んだ。その後、職人気質で営業力のまったくない父親に代わって、取り引き先を営業で何軒もまわらされた。

 平成21年、32歳で3代目社長に就任する。社員と会社の将来を考えると既存の寝袋メーカーのままでなく、何か新しい事業を始めることが不可欠だった。父親と同じことをしたくないという反骨精神もあった。

 そこで智之さんが活路を見出したのが、羽毛の取り扱いに長けた寝袋メーカーならではの縫製技術を活かしたダウンジャケットだ。

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海外で人気の高い「マウンテンビレーコート」のUSモデル、78,400円(税別) ※写真はサンプルのため本製品とはデザインに若干の相違があります

「社員時代に某アパレルメーカーからOEM*の依頼があってダウンジャケットを作ったことがあるんです。でも何のノウハウもなくて出来も悪くて、納期も遅れて大赤字で、翌年には依頼が来ませんでした。親父からも怒られて散々でした。その苦い経験があったおかげで、なにくそと徹底的に勉強し、だんだんとまたOEMの依頼が増えてきて、ついには売り上げが寝袋を抜くまでになりました。ここ3年ぐらいで、ようやくダウンジャケットのナンガという自社のブランド力で勝負できるようになってきたと思っています」

*Original Equipment Manufacturerの略語で、製造メーカーが取引先のブランドの製品を受注・製造すること

夢は琵琶湖で育てたグースのダウン

 さっそく2階の工場を見学させてもらう。モンゴルやベトナムからの実習生も働く縫製場では、寝袋で使う防水性と透湿性に優れた特殊な生地をミシンでカタカタと丁寧に一枚一枚、ダウンウェアにと縫い上げている。

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羽毛価格の高騰、海外からの実習生の育成、生産体制の強化など課題は多いながらも、メイドイン滋賀ダウンブランドとして知名度も高まり、今シーズンは工場も社員もフル稼働

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ダウンの品質見本。ダウンとはグース(鵞鳥)とダック(家鴨)の羽毛で、柔らかなグースの比率が多いと保温性に優れ、硬いダックの比率が多いと弾力性があり回復力も高い

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ホースで吸い上げられた羽毛の量を丁寧に測りながら手で詰めるパッキング作業

 ナンガの強みは何といっても国内生産だ。使用するダウンも、ポーランドやハンガリー産の最高品質を扱う三重県の羽毛素材メーカーから直接仕入れる。高度な洗浄技術で埃や汚れを落とした羽毛を、工場で職人が手で触って品質を確認しながら詰める。手で触って品質の良しあしがわかるのは、長年の羽毛の取り扱いに長けた寝袋メーカーならでは。

「まさに下町ロケットのロケット品質ならぬ、これぞナンガの寝袋品質ですよね」と言うと、「そうですね」と照れ笑いする智之さん。

 智之社長の壮大なる夢は、いつか琵琶湖の畔(ほとり)で育てたグース(鵞鳥)の羽毛で正真正銘の滋賀ダウンをつくること。ナンガの頂はまだまだ高くて険しいのだ。でもとってもあったかいんだから。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
◉株式会社ナンガ
滋賀県米原市本市場182-1
☎0749-55-1016
https://nanga.jp/

出典:「ひととき」2019年1月号
※この記事の内容は掲載時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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