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テント屋さんの帆布バッグが人気なわけ【佐藤防水店】

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2017年11月号 「メイドインニッポン漫遊録」より)

テント屋さんが作る帆布バッグ

 ぶ厚い木綿生地でできたいわゆる帆布バッグの傑作といえば、米国の老舗アウトドアメーカーのLLビーンのトートバッグが有名である。丈夫さ、使い勝手、シンプルなデザイン。多くの日本のメーカーもお手本にしていて、正直、筆者はこのトートバッグを超える帆布バッグに出会えていなかった。

 そんななか、メイドインジャパンの傑作をついに見つけたのである。大分県の「佐藤防水店」というメーカーが作る帆布バッグだ。なんとも変わったブランド名だが、本来はテント・トラックシートを製造する会社で、業務用の極圧の帆布生地でバッグも製造販売しているのである。

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 ともかく丈夫なトートバッグ。これが口コミで評判を呼んで、手作りのために生産が追いつかず今や入荷まで4カ月待ちなのだ。(※現在は、生産体制を整えており1~2カ月待ち)

 そこでテント屋さんが作る帆布バッグの傑作を訪ねて、今回は大分を旅してきました。

 大分市街からクルマで10分弱。ワレワレが向かった先は店舗でも工場でもなく、民家が建ち並ぶのどかな郊外の住宅地でひときわ目立つ「ライクカフェ」というお洒落なカフェ。なんとこのカフェは、昭和26年(1951)に創業した佐藤防水店の若き4代目社長、佐藤晃央(てるお)さんが経営しているのだ。

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スタッフもお客さんも佐藤社長の人柄を慕って集まる大分の若者のお洒落の発信基地「ライクカフェ」にて。社長の佐藤さん(右)と筆者
*「ライクカフェ」は2019年9月に閉店

 面白いのは、もともと佐藤防水店の店舗だった建物の中だけをリノベーションしているので、外見は昔ながらの町工場なのである。カフェの入り口や窓に日よけテントを使っているのも、いかにもテント屋さんらしい。

「どこの地方都市も同じだと思いますが、大分って、若い世代が元気がないんですね。僕も本当は前に出て何かをやる性格じゃないのですが、帆布バッグで佐藤防水店という会社を知ってもらえるようになり、これをきっかけに大分の若者をもっと元気にしたい、お洒落にしたいと、このカフェも始めたんです」

 そう話す佐藤さんは元ラガーマンの36歳。大学を卒業後、大手アパレル会社に入社して大分で5年勤めた後、家業を継いだ。しかしトラックのシートや幌(ほろ)、店舗や住宅用テントの製造だけでは、祖父の代から続く会社を継続していくには厳しい時代であった。そこで平成23年(2011)、アパレル会社勤務時代の経験を生かして、テントに使う工業用帆布でバッグの製造販売を始める。

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最高級の「プロライン」。ぶ厚い2号帆布を使用。カラーは、生成り、ブラック、カーキ、ネイビーから選べる(税別50,000円)

「最初は親からも職人さんたちからも反対されました。新規事業を立ち上げるには資金も必要だし、せっかく育てたテント職人にバッグを作らせるなんてと。でも実はアパレル会社に勤めていた頃からスーツや鞄のオーダーメイドにずっと興味を持っていたんです」

 今では帆布バッグの評判がSNSや雑誌などでも取り上げられて、佐藤防水店という会社名は全国区で知られるようになり、本業のテントの製造依頼も増えているのだそうだ。

ここでしか縫えない2号帆布

 佐藤社長が「弊社の帆布バッグについて聞くなら僕よりも彼がいいです」と、帆布バッグ職人の野田啓司(けいじ)さんを紹介してくれた。

 野田さんの仕事場は、大分川が近くを流れる大洲総合運動公園のすぐそばにある「SEW〈ソウ〉」*というお洒落なライフスタイルショップ。実はこの建物、佐藤防水店の帆布部門の工場なのだが、2階に併設した工房とお店で帆布バッグを製造販売している。

*現在、「SEW」は大分市生石に移転し、店名も「Re-sew」に変更。自社製品をメインに雑貨、ライフスタイルグッズを取り扱っている。そこで始めた「菡萏(かんたん)焼き」という回転焼きが大人気とか。「Re-sew」に関する詳しい情報はこちら

 ミシンがけの手を休めて応対してくれた野田さんは、職人さんと言っても年齢は佐藤社長と3つ違いで格好も今どきの若者風だ。

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帆布バッグ職人の野田さんと筆者

 帆布バッグの事業を始めようとした当時、社内でも一番若いテント職人の野田さんは、同世代の佐藤社長にとって唯一の理解者であり良き相談相手であった。相談を受けた野田さんは社長と意気投合、製品を作る側として一緒に帆布バッグブランドの立ち上げに参加する。今では良きビジネスパートナーである。

「僕もこの会社に入る前は大手のジーンズショップで働いていたのでアパレルの経験はありました。でもバッグを作ると言ってもここにある帆布やミシンはテントを縫う工業用ですからね。ならば逆転の発想でここにあるものでしか縫えない丈夫なバッグを作ろうと生まれたのが、佐藤防水店のバッグです」

 帆布は厚みによって1号から11号の段階に分けられている。通常使われるのは10号や11号で、スーパーの買い物などに持参するエコバッグがそのくらいの厚さだ。佐藤防水店のバッグに使用する帆布は2号から6号。最も厚い2号帆布は、なんとベルトコンベアのゴムバンドの下生地にも使われている。

「そのくらいの厚さだと、最初の頃はバッグを縫うと糸目がバラバラになったりミシン針が折れてしまうこともしょっちゅうでした」

 そう話しながらカタカタとミシンを踏んでバッグ作りを実演してくれる野田さん。簡単そうに見えるが、2号帆布を重ねた箇所は厚さ1センチほどにもなり、この厚さを縫うには専用のミシンと職人の熟練した縫製技術が必須である。ちなみにLLビーンのトートバッグの帆布の厚さは6号ぐらいだそうだ。

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ぶ厚い2号帆布を使ったトートバッグのハンドル(持ち手)部分を叩いてなめす職人の手

「LLビーンと比べられるなんて光栄です。もっと生産体制を整えたいのですが、なにしろ一つ一つ職人が縫っているので1日6~7個が限度なんです。でも丈夫さなら、佐藤防水店のトートバッグは負けてません!」

 カッコいいなぁ。大分は〝おんせん県〟だけじゃありません。若者たちが頑張っているお洒落な〝帆布バッグ県〟なのであります。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
◉有限会社 佐藤防水店
<所在地>大分市西新地2-1-4
☎097-579-6500
https://sato-bosui.com/

出典:ひととき2017年11月号
※この記事の内容は雑誌発売時のものをベースに一部アップデートしておりますが、詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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