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米原・井筒屋のおかかごはん(滋賀県米原市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 ほかにあるでしょうか!? 肉でも魚でも海鮮でもなく「おかかごはん」が主役の駅弁が!! 僕が知らないだけかもしれないけど。

 この駅弁を買うために、仕事で福井に行くときは東海道新幹線の米原経由で行くんです。在来線に乗り換える時のコンコースっちゅうのかな、通路にさ、井筒屋の立ち売りスタンドがあるのですよ。

 まずね、パッケージがいい。極太の字体で大きく「おかかごはん」。堂々としてますでしょ。フタを開ければ、ごはんの上にたっぷりのおかか。これがまぐろ節で、旨みはあるけどかつお節ほど主張しないとこがミソだね。ほんのり醤油味なのにべちゃっとしてなくて、ふわふわなのもすごい。パラッとかかった白胡麻が風味を添えて、真ん中にちょこっとある大葉も味に変化がついていいんです。

 おかずも侮っちゃいけません。僕の大好物の焼たらこを筆頭に、さつまいも煮、だし巻き玉子、鶏のくわ焼、枝豆、黒豆、梅干し、赤かぶの漬物、それとわけぎのぬた和えが入ってるのが珍しくってよござんしょ。どれも味が濃すぎずちょうどいい塩梅で、おかかごはんを見事に引き立てます。

 ここまで話しても食指が動かないって方はいるでしょうな。わかりますよ、僕も初めて見た時は「あれっ、物足んないかも……」と思ったから。でもねぇ、どうか一度食べてみてもらいたい。何でもないおかずで揚げものもないけど、滋味深くってしみじみ「うまいなぁ」と思うから。列車に揺られながら食べると一層うまい。車窓を流れる田園風景のように、気持ちがのどかになる駅弁なのよ。

こんなに素朴な駅弁だけど、誕生したのはバブルの雰囲気が残る1992年と、社長の宮川亜古さんが教えてくれました。

「国鉄民営化を機に企画された『新幹線グルメ』のシリーズとして作ったのですが、地味なので発売当初はとにかく不評で(笑)。でも、米原という土地の素朴な雰囲気を味わってもらいたかったから、やめずに続けてきたんです」

 時代の移り変わりとともにその素朴さを新鮮に感じてくれる人が増え、今では人気の駅弁になった「おかかごはん」。こういうシンプルなおいしさが普遍的であるということを体現してくれてるようで、うれしいじゃあないですか。

 宮川さんは「米原は何もない田舎で」と仰ったけど、僕は声を大にして言いたいですね。「米原には井筒屋の駅弁がある!」って。(談)

【井筒屋のおかかごはん】
滋賀県長浜で旅籠として創業した井筒屋は、1889(明治22)年の東海道線全線開通に合わせ駅弁店をスタート。幕の内弁当「湖北のおはなし」や「鶏めし」などの駅弁も人気だが、近江米を使ったつややかなごはんに、ふわふわのまぐろ削り節を手作業で敷き詰めた「おかかごはん」にも根強いファンがいる。

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

米原・井筒屋のおかかごはん
お弁当の井筒屋
☎0749-52-0006
[所]滋賀県米原市下多良2-1(本店)
[時]9時~15時
[料]おかかごはん1,200円 
*本店内にはそばやうどん、カレーなどが味わえる「キッチン井筒屋」もある

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。好きなおかずは最後に食べる派。「おかかごはん」なら、焼たらこと鶏のくわ焼。黒豆はデザート代わり。

出典:ひととき2023年11月号

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