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文化と桜と京の春

京都の中心部、御苑や府庁のある文化ゾーンは、そぞろ歩きに格好の桜名所。今年の春は京都人もちょっと知らない桜めぐりを楽しんでみませんか?(ひととき 2023年4月号より)

 スタートは、国重要文化財の京都府庁旧本館から。こんなところ入っていいの? とたじろぐなかれ。1904(明治37)年の竣工から歴代24人の知事を迎え、今なお一部の執務室は稼働中の、現役官公庁舎としては日本最古のこの建物、じつは見学無料。そして敷地内には、知る人ぞ知る桜の名木が点在するのである。

旧本館は予約不要・見学無料。2023年は3/27〜4/16に観桜祭が開催される(写真提供=京都府庁 旧本館)
1969(昭和44)年まで府議会が開かれていた旧議場。アーチ形の曲線を生かした議席や傍聴席、シャンデリアが優雅

 希望すれば庁舎内に事務所のある「京都観光文化を考える会・都草みやこぐさ」の精鋭、いずれ劣らぬ京都博士たちが、この地が京都守護職・松平容保かたもり公の屋敷であった頃のお話や庁舎内あちこちのトリビア、「ここの廊下のアーチ越しに見る桜が、ほら!」といった隠れ撮影スポットまで、一気に京都通になれる名ガイドで案内してくださる。

 遷都の混乱さめやらぬ明治期、京都の威信をかけて建てられたのであろう堂々の庁舎。外観はモダーンな近代の建築様式でありながら、内部には宮大工の技を随所に効かせた設えは「ヨソの西洋建築とはちょっと違います」と言わんばかり。そこここに往時の京都人たちの意地や気概が息づく。

 密度濃い空間から一転、中庭に出れば、早咲きの「紅枝垂」はじめ、有名な祇園の枝垂桜(初代)の孫木にあたる「祇園しだれ桜」、大島桜と山桜の特徴を併せ持つ珍しい品種の通称「容保桜」、女優の綾瀬はるかさんがドラマで新島八重を演じた折に植樹したという初々しい「はるか桜」などなど。色も姿もとりどりの桜が3月下旬から4月中旬にかけて次々と花開き、気まぐれな桜散歩を心やすく迎えてくれる。

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 旧本館から京都御苑へは府庁正門を出て東へ向かうのが近道。その道すがら、2023年3月27日に東京から移転してくる文化庁の、レトロな趣を生かした建物を眺めつつ歩けば、ほどなく蛤御門はまぐりごもんが見えてくる。

 御苑内には早咲きから遅咲きまで桜樹は約1000本。見どころには事欠かないが、一路「京都迎賓館」へ。2005(平成17)年の開館以来、多くの賓客を迎えてきたこの施設が、事前予約が優先とはいえ、ひろく公開されていることは案外知る人も少なく、御苑の贅沢極まりない穴場である。

京都迎賓館。建物ととけ合う庭園の、池のほとりに枝垂桜が咲く
釘隠しや唐紙に「五七の桐」があしらわれる「桐の間」。鏡のように庭の緑を映す、漆の一枚もののテーブルの美しさは圧巻

 参観は少人数ガイドツアーが基本。心地よい解説にいざなわれ、建具や調度品ひとつひとつに、漆、截金きりかね、西陣織……と日本の伝統技能の粋を凝らした空間に身を置くひとときは、今年の桜の思い出をより優雅に彩ってくれるだろう。さらに時折実施される「プレミアムガイドツアー」では、通常非公開の「滝の間」や「水明の間」に足を踏み入れ、賓客と同じ目線で庭を眺める、滝の音を聴く、という特別な体験も。

 京都迎賓館内で出会う桜は、たった1本。現代の桜守と名高い16代佐野藤右衛門氏がこれと選んだ、ほの白い花が風に揺れる姿が清楚な枝垂桜。例年なら4月の1週目あたりが見頃である。

 御苑の名残にもう1カ所、となれば建春門前に咲く「桜松さくらまつ」だろうか。ここにはかつて公家の子弟が学ぶ学習院があり、学び舎が王政復古を唱える志士の集会所となった歴史も。そんな場に生い立つクロマツの樹上、幹のウロに山桜が芽吹いた。その後、松は枯れたが桜は残り、倒木に寄り添うように花咲く姿に、誰言うともなく「桜松」。呼び慕われて御苑の名物桜となっている。

 今咲く桜、在りし日の桜。それぞれの眺めや物語に思い馳せつつ歩くのもまた、文化が層なすこのあたりの桜めぐりのお楽しみ。今年の春は、そんなお花見を、ぜひ。

文=安藤寿和子
写真=二村 海(府庁旧本館旧議場、虎屋菓寮 京都一条店、香老舗 松栄堂)

味わう桜

京都御所のほど近く。室町時代後期に京都で創業した和菓子店「とらや」が営む喫茶虎屋菓寮 京都一条店では、羊羹製(白餡入)の「手折桜たおりざくら」や、きんとん製(小倉餡入)の「遠桜とおざくら」(写真)などの季節を映した生菓子で、爛漫の春を楽しむことができる ☎075-441-3113 *「手折桜」「遠桜」の販売期間は3/16〜31

愛おしむ桜

香老舗 松栄堂にて。左は「色絵丸香炉 濃紫こむらさき雲錦うんきん」、右は「源氏かおり抄 御にほひ箱 花宴はなのえん」。手のひらにおさまる愛しい桜を、京の香りとともに、自分や大切な人へのお土産に ☎075-212-5590 *写真の商品は時期により在庫がない場合があります。事前にお問い合わせください

文化庁、京都へ

東京から移転した文化庁が、2023年3月27日から京都で業務を開始する。移転先は京都府庁の東、旧京都府警察本部本館。芸術文化や文化財の保存・活用、国際文化交流のさらなる振興などが期待される。京都府でも、今年の秋に音楽イベントなど京都中を文化で彩る取り組みを実施する予定

出典:ひととき 2023年4月号


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