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【東京あんこの新潮流】wagashi asobi(大田区上池台)

和菓子文化の鍵をにぎる「あんこ」。日本各地に郷土色豊かなあんこの銘菓が揃いますが、東京だって負けじと個性派揃い。フードジャーナリストの向笠千恵子さんが東京の老舗・名店をめぐりながら、甘いあんこ菓子のおいしさの秘密に迫ります。本コーナー「東京あんこの新潮流」では、若い感性によって昔ながらの甘味を巧みにアップデートさせたお店をご紹介。(ひととき2020年10月号特集「東京のあんこ」より)

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 稲葉基大さんは片仮名の「ア」をプリントした白のTシャツで現れた。意味を尋ねたら、「あんこのア!」と即答。脇で微笑むのは浅野理生さん。菓子職人として認め合う間柄で、2人のコンセプトは「一瞬一粒(ひとつひとつ)に想いを込めてつくる」

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稲葉基大さん(右)と浅野理生さん。2人は菓子の原点に返り、人工的なものは使わずに自然界の素材だけでつくっている

 どちらも日本を代表する老舗和菓子店出身で、小さな店を東急池上線長原駅近くに持って10年。製品は「ドライフルーツの羊羹」と「ハーブのらくがん」、地元洗足池ゆかりの勝海舟にちなむ「勝(かつ)最中」(要予約)のみ。身の丈そのままの商売を続けながら老舗を目指そうと、オリジナルの自信作に的を絞っているのだ。

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wagashi asobiのドライフルーツの羊羹は1棹2,300円。珈琲や紅茶、ほうじ茶との相性もよく、ワインのお供にもおすすめ

 羊羹は「パンに合う和菓子」がテーマ。干し無花果、干し苺、胡桃入り黒糖羊羹テリーヌ風の趣で、断面は琳派絵画のように華麗かつシック。無花果などが鳥や雲や日輪に見えるし、もっと楽しいのは、切り口の表情が変化に富むこと。プチプチねっとりカリッと、みずみずしい羊羹に食感のオノマトペを付けているのもこれらフィリングの効果だ。羊羹のベースとなるあんこは、十勝産小豆を一鍋ずつ煮て、西表島(いりおもてじま)の黒糖とラム酒を加え、果物と同調させる。あんこは思った以上に融通無碍(ゆうずうむげ)なのである。

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チョコレートのように見えるが、これは羊羹の液。少しずつ丁寧に型に流し込む

 バゲットにチーズを塗り、羊羹を一切れ載せた。パクッ。急に、酸味のきいたワインが欲しくなった。あんバターパンのようにあん・パン・乳製品がマッチするのはよく知られているが、2人はさらに五感、いや六感までも震わせる菓子を目指している。

旅人・文=向笠千恵子 写真=荒井孝治

向笠千恵子(むかさ ちえこ):フードジャーナリスト、食文化研究家。東京・日本橋出身。グルマン世界料理本大賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)はじめ著書多数。近著に弊誌の連載「おいしい風土記」をまとめた『ニッポンお宝食材』(小学館)や『おいしい俳句』(本阿弥書店)がある。
◉wagashi asobi
☎03-3748-3539 大田区上池台1-16-2
[時]10時~17時 [休]日曜不定休
https://wagashi-asobi.com/

出典:ひととき2020年10月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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