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人と会うように仏像と会う――西山厚さん(奈良国立博物館名誉館員)

 ほんのひととき編集チームのうさこです。このたび、10月20日に発売される書籍『仏像に会う』の著者、西山厚先生にインタビューしました! 

 奈良国立博物館の学芸部長を経て、現在は仏教美術の名品を所蔵する半蔵門ミュージアムの館長を務める西山先生。講演会には2時間待ちの行列ができたり、いわゆる“追っかけ”までいらっしゃる方です。うさこも、優しく語りかけるような先生の文章が好きで、お会いできるのを楽しみにしておりました。

――ご著書を拝読しましたが、仏像の写真がどれも印象的で、「これまでの仏像の本とは違う」と思いました。普段は目にしない写真も多く、仏像の新たな一面を知ることができた気がします。

西山:仏像の本はこれまでたくさん出ていますが、この本が他の本とちょっと違うのは、写真を厳選している点です。カメラの位置や高さが少し違うだけで、仏像の姿はすっかり違ってしまいます。人間でも「この角度から撮ってもらえると自分の写りがいい」って思ったりしますよね。仏像にも同じことがいえます。「カメラの位置をあと10センチ下げて……。もう少し右から撮ったほうが……」などと思ったりするので、写真の選定にはかなり苦労しました。

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――この本では長年仏像をご覧になってきた先生の視点で見ることができるから、その姿も違って見えるのですね。

西山:おかげさまで素晴らしい写真を提供していただき、私らしい文章を添えることができたので、これまでにない本になったと思っています。私が撮った写真も少しだけ使わせてもらいました。

――ところで先生は、仏像をご覧になる時、どこか特定の部分に注目されることはありますか?

西山:お顔はもちろん拝見しますが、特定の部分に注目することはありません。人に会った時に、特定の部分にだけ注目したりしませんよね? ただ、衣の表現にはどうしても目が行きます。体の大半は衣に覆われていますから、衣がどう表現されているかで、仏像の出来栄えはかなり違ってきます。衣と、衣の下にある肉体との関係も大事なポイントです。人に会う時も、服装、ファッションって、重要ポイントじゃないですか?

――まさに、人と会うように“仏像に会う”ということですね。仏像を拝見するときは見落としがないようにと、ついつい身構えてしまっていました。ほかにも、心掛けたほうがよいことはありますか?

西山:まず拝みます。坐れる場所なら、坐って拝みます。敬意をもって拝見することが大切です。それから、予備知識は邪魔になることが多いです。勉強するのはもちろんいいのですが、それにとらわれないのも大事かと思います。

――ご著書では、東大寺の誕生釈迦仏立像のように、かわいらしさを感じさせる仏像が多かったように思います。何か意図はあるのでしょうか。

西山:日本人はかわいいものが好き。KAWAII は世界共通語になっています。私もかわいいものが好き。清少納言も羽生結弦くんも、新大関の正代も好きらしいですね。大関昇進の式典で、故郷熊本のゆるキャラ、くまモンと楽しそうにしていました。

 仏像というと、敷居が高いと思う人も少なくないようです。もっと親しみをもっていただきたいなと思ったので、かわいいめの表紙にしてみました。

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――表紙、とてもかわいいですよね。また、一体一体の仏像にそれぞれ「この美しさはほかにない」「数奇な運命」などキャッチフレーズが付けられていることで、とても興味が湧きました。

西山:このキャッチコピーは、企画の段階で、編集担当の新井梓さんに、どういう仏像であるかをわかってもらうために、仮に付けただけのものだったので、本に使うつもりではありませんでした。でも、これを付けたことで、わかりやすくなりました。付けてよかったです。

――最後に、読者に向けて何か伝えたいことがあればお願いします。

西山:素敵な本を作りたいと思っていたので、素敵な本ができてうれしいです。本をご覧になって、仏像の魅力と、それとはまた異なる仏像写真の魅力を知っていただければと思います。

 たとえば、奈良時代の仏像、1300年前の仏像が今も残っていて、その仏像に会えるのは、奇跡的なことだと思いますし、考えてみれば不思議なことだとも思います。大切に守られてきたものだけしか残っていないという厳然たる事実があり、大切に守ろうとしたけれど火災などで失われてしまったものも無数にあるはずです。仏像は「見る」ものではなく、「会う」ものだと、つくづく思います。

――ありがとうございました。

西山 厚(にしやま あつし)
奈良国立博物館名誉館員、半蔵門ミュージアム館長、帝塚山大学客員教授、東アジア仏教文化研究所代表。徳島県鳴門市生まれの伊勢育ち。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。奈良国立博物館で学芸部長として「女性と仏教」など数々の特別展を企画。奈良と仏教をメインテーマとして、人物に焦点をあてながら、さまざまなメディアで、生きた言葉で語り、書く活動を続けている。主な編著書に『仏教発見!』(講談社現代新書)、『僧侶の書』(至文堂)、『別冊太陽 東大寺』(平凡社)、『語りだす奈良 118の物語』『語りだす奈良 ふたたび』(いずれもウェッジ)など。

――西山先生のインタビュー後、うさこはどうしても仏像に会いたくなり、近所のお寺に参拝が可能か問い合わせてみたところ、いまは法事の時しか公開していないとのことでした。「最近の世の中は、なかなか思うようにならないなぁ」とぶつぶつ文句を言いながらあらためてこの本を手に取り、仏像を眺めてみました。すると、ざわざわしていたものが静まり、安らかな気持ちになれました。
 どうかこの本が、必要とされるすべての方の元へ届きますように。

▼書籍内容の一部がこちらで読めます
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【釈迦如来坐像】“だいじょうぶだよ”と微笑むほとけ(奈良・室生寺)

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