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ユウゼンのあんかけスパゲッティ(愛知県名古屋市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに旅に出ます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 仕事で方々へうかがいますが、いつもは日帰りする名古屋で一泊することがありました。時間もあるし、せっかくだから土地らしいものを食べようと思って選んだのが、あんかけスパゲッティ。こういうとき僕は、その土地の〝上等じゃないもの〟が食べたくなる。と言うと語弊があるけど、つまり地元の人が日頃食べている、普段着の食べものってことです。

 たまたま入ったのが繁華街、栄の「ユウゼン」。たくさんメニューがあったけど、ウインナー、ベーコン、マッシュルームの入った「ミラネーズ」にしました。子供の頃からスパゲッティにはウインナーってイメージなんです。でね、正直言ってはじめて食べたとき「不思議な食べものだなぁ……」と思いました。ナポリタンみたいな味を想像してたから。でも全然違う。〝何味〟って表現しにくい。たまに名古屋での落語会であえてお客さんに言うんです。「あなた方、本当にあれをうまいと思っているのか⁉」って(笑)。でも、一口、二口と食べるうちにクセになる。やっぱり不思議な食べものです。

ユウゼンのあんかけスパゲッティ(愛知県名古屋市)

 麺の量は並で300グラムあるそうです。どうりでお腹いっぱいになるはずです。改めてメニューを見たら、SSサイズもあった。一方で、1・2人前という微妙な増量からトリプルなんて3倍増しまである。お客さんの要望に細やかに応えようという心意気を感じますよね。にしてもプラス300円するだけで3倍増しってどういう計算なんでしょうか!

 もうひとつ好きなのが、あんかけスパに揚げ物のおかず、サラダ、ライスまで一緒になったお子様ランチみたいなセットメニュー。あんかけスパの餡がご飯に絡んで、これがまたうまいんです……名古屋でカロリーのことは気にしちゃいられません。

餡を作ったり、麺を寝かせてから炒めたりと、結構な手間がかかってるけど、マネージャーの林健雄さんが「あくまでB級グルメです」と言い切ったのが、僕はうれしかった。気取らない食べ物であることに誇りを持っているんですね。落語も伝統芸能なんて言われるけど、高級じゃないところがいい。「たかが落語」。それでいいと思ってます。

「パスタ」なんて洒落た呼び方じゃなくて「スパゲッティ」。スパゲッティであり続けることが、この不思議な名古屋名物の魅力なんじゃないかな。 (談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

【名古屋のあんかけスパゲッティ】
ゆでて寝かせた極太のスパゲッティをラードで炒め(油通し)、牛肉と野菜をじっくり煮込んだスープをベースにしたコショウ風味の餡をたっぷりかけた料理。市内に複数ある専門店の中でもユウゼンはコショウの辛さがマイルドなのが特徴。

ユウゼン栄店
名古屋市中区新栄町3-13地下1階 
☎052-972-6722

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。落語協会常任理事。コメダ珈琲店の小倉トーストも好き。

出典:ひととき2023年4月号

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