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“儒教”がよくわかるおすすめの8冊|齋藤孝「大人のための読書案内」(1)

弊社では過去の作品の電子書籍化に取り組んでいます。この度、今に通じる普遍的なテーマを掲げる本書「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内を電子書籍化しました。ここでは宣伝も兼ねて、その内容をちょっとずつご紹介していきます。初回は、日本文化を理解するうえで欠かせない「儒教」について。

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 日本文化を語るとき、仏教や儒教の話を欠かすことはできません。しかし仏教はともかく、儒教は身近ではないと感じる人も多いでしょう。儒教とは何か(加地伸行、中公新書)や沈黙の宗教――儒教(加地伸行、ちくま学芸文庫)を読むと、それが理解できるようになります。私たちがなぜ葬式をし、祖先を敬うのか。その根本は、儒教にあるとされます。「孝」の概念は、先祖からつながる生命の一体感が永続性を基盤としている。私たちが「日本的」と思っている考え方を、東アジア全体でとらえ直す視座を与えてくれるものです。「日本独自の」とか「日本固有の」といったとらえ方にこだわりすぎると、かえって日本の文化の広がりを見失います。

 また、孔子伝(白川静、中公文庫BIBLIO)のような本から儒教を知るのもよいと思います。『論語』の背景に横たわる儒教というものが描かれていて、とても興味深い内容です。

 儒教に関しては、やはり論語がはずせません。私自身現代語訳 論語(齋藤孝訳、ちくま新書)や図解 論語――正直者がバカをみない生き方(齋藤孝、ウェッジ)など、論語関係の本を何冊も出すほど、論語をマイ古典にしています。

 私の大学の授業では、学生たちにそれぞれ論語の言葉と自分の経験を結びつけ、1分間で話してもらうことを繰り返しています。そうすると、論語の言葉が自分のものになっていくのです。

 論語というのは、どのように読むかがとても大事。そのとき学生にすすめているのが論語物語(下村湖人、講談社学術文庫)です。論語そのものは、孔子の言葉を集めたような本。弟子たちが記憶に残ったものを書きつけているため、ストーリーにはなっていませんが、この本は下村湖人がストーリーにしています。病気の弟子に、孔子がどのように接したのか、さぼりがちな弟子に何を言ったのか、物語として描かれているのでわかりやすい。その中に論語の言葉が息づいている名著です。とりわけ学生に人気があるのは、「今汝(なんじ)は画(かぎ)れり」と、弟子の覚悟の足りなさを孔子が厳しく指摘する章です。「身が引き締まる」とみな、言います。

 論語には、当たり前ですが説教くさいところがあります。しかしじつは、孔子は結構人間味のある人物です。弟子(中島敦、青空文庫)には、その人間味の部分がよく出ています。それぞれの弟子もとても個性が豊か。とりわけ「勇」のある弟子・子路と孔子との師弟関係が非常に魅力的に描かれています。声に出して読むと一層、師弟関係の良さを深く味わえる名作です。

論語と算盤(渋沢栄一、角川ソフィア文庫)は、渋沢栄一が書いた本。渋沢は日本の資本主義を起こした人で、銀行を設立し、いろいろな会社を経営していました。その彼が、子どものころから身近だった論語を徹底的に勉強し直し、日本の経済活動の倫理の柱を論語に求めていった。人生の荒波を渡っていくとき、必ず論語は精神的な背骨となることを感じられる本です。

 本来、経済活動と論語はすぐには結びつきません。論語はどちらかというと、金儲けを「よし」とはしないからです。しかし、かつての日本の経営者は、渋沢栄一にしても、本田宗一郎にしても、井深大にしても、みな日本を背負う気持ちで、倫理観を持って経済活動をしていました。会社は社会の公器であるという言葉がありますが、まさにそのように生きた人たちです。

 日本は、商売がふるわなければやっていけないと考えた渋沢を、友人が金に目が眩んだかと批判した。それに対して、「私は論語で一生を貫いてみせる。(中略)君のように金銭を卑しむようでは国家は立たぬ。」と反論し、「論語の教訓を標準として、一生商売をやってみようと決心した。それは明治六年の五月のことであった。」と言います(33ページ)。これこそ「論語力」です。

ウェッジ様 齋藤孝 写真 正面 ブルーネクタイ

齋藤孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授。1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション論。『1日1ページ、読むだけで見につく日本の教養365』(文響社)、『友だちって、なんだろう?』(誠文堂新光社)等、著書多数。

――本書では、歴史、思想、日本文化、仕事、科学と大きく5つのパートに分けて、317冊に及ぶ膨大な良書が紹介されています。齋藤孝先生のナビゲートならではの「現実」と「教養」をつなぐ読書体験を、ぜひご堪能ください!

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