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ヘンテコだけどカッコいい!「Blue Books Co.」のカジュアルな帽子

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2020年10月号「メイドインニッポン漫遊録」より)

こんな帽子、今まで見たことがない

 今や郊外のショッピングモールにも入っている大手のセレクトショップは、どこも似た品揃えである。筆者がよく覗くのはそういった大きな店ではなく、街の小さなセレクトショップだ。目の肥えた服好きな店主が独自にセレクトしたこだわりの商品が店内に所狭しと置かれて、そこにはまだまだ知られざるブランドのいいモノが沢山ある。

 最近見つけたのが、「Blue Books Co.〈ブルーブックスコー〉」という帽子のブランドである。一見すると普通のハンチングやベースボールキャップだが、よく見るとクラウン(帽子の上部)のパネルが中心から微妙にゆがんでずれている。こんな帽子、今まで見たことがない。ちょっとヘンテコで他にはないデザインがなんともカッコよくて、ひと目惚れしてしまった。

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裏地の素材や柄など見えない部分にもこだわったデザイン

 調べてみると日本の帽子ブランドだとわかった。いいモノを知っている全国各地の小さなセレクトショップから注文を受けて、デザイナーが1つ1つオーダーメイドで作っている。そこで今回はブルーブックスコーの帽子を訪ねて、工房のある京都の向日市を旅してきました。

カジュアルな帽子を手掛けるワケ

 向日市は、歴史の教科書にも載っている長岡京跡が発掘された街として有名だ。ブルーブックスコーの工房は、郊外にある築40年の団地のような古いマンションの一室にある。

「狭くてすみません」と、申しわけなさそうな顔をしてワレワレを出迎えてくれたのは、梅本大輔さん。彼こそがブルーブックスコーのデザイナーである。

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梅本大輔さん。影響を受けたのはベルギー出身のデザイナー、マルタン・マルジェラだそう

 8畳ほどのリビングには中央に専用のアイロン台がどぉんと置かれて、ミシンが3台もあり、壁にはボビン(糸巻き)が幾つも取り付けられて、テーブルにはサンプルの帽子や素材に使う布のバンチ(見本帳)が積まれている。紛れもなく、ここは立派な工房なのだ。

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ブリム(ひさし)のステッチも手作業

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アイロンで丁寧に仕上げるクセ取り作業

 ブルーブックスコーは、ベースボールキャップやハンチングといったカジュアルな帽子をオーダーメイドで作っている点も非常に珍しい。

「僕は帽子作りの勉強はしていないんです。服飾の専門学校を出て、元々はオーダースーツのアトリエにいました。スーツと帽子は作り方が全然違って、布と布を縫い合わせて立体を作るところまでは応用できるんですが、型押しとか専門的になると技術体系が全く変わってきます。だから他の帽子デザイナーと同じことをやってもしょうがないというところから帽子作りを始めました」

 梅本さんがブルーブックスコーを仲間と2人で設立したのは、2011年。しかし大きな店舗を構える資金はない。自分たちが欲しいモノで、なおかつ市場にもマッチした、狭いスペースでも扱える商品は何かと考えたら、いつも被っているベースボールキャップやハンチングといった帽子だった。そうして京都の御幸町通に小さなアトリエ兼店舗をオープンする。その後、梅本さんはパートナーと別れて2016年に独立。現在の場所で、新たにオーダーメイドの帽子ブランドとして再スタートした。

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バンチの表紙のブランドタグは13本の針をイメージ

「モノづくりの学校」のような場所を作りたい

 最大の特徴は、クラウンに「ツイスト」というねじれを入れたり、「ランダム」といってパターン(剝ぎ)の大きさを変えたりする、ひと目でブルーブックスコーとわかるデザイン。

「デザインを考える時に狙うのは、ハンドメイドな部分とコンセプチュアルな部分をどう融合させるかです。例えばキャップというみんなが知っている概念に、ツイストという別の概念をもってきて、この2つがぶつかる瞬間に生まれるインパクトをきっちりとらえられると、驚きを与えながら、普通に被れるデザインが生まれるんです」

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クラウンが斜めにねじれているデザインが特徴的な、ウール製のハンチング「ゲットーボーイ」(右、14,000円)と、コーデュロイ製のベースボールキャップ「ツイスティ」(12,000円)。どちらも今シーズンの秋冬モデル ●価格は税別です

 梅本さんのデザインの基は、服飾専門学校を卒業したものの何を作ったらいいのかわからずに就職を見送り、もう一度入り直した2度目の学校時代にある。そこで恩師であるフランス人の先生の「自分の好きなことを徹底的に掘り下げなさい」という教えから学んだ。

 デザインは全5型あり、そこに様々な生地を組み合わせる。ねじれをテーマにした帽子が、ツイスティと、ゲットーボーイ。ランダムをテーマにした帽子は、ランダムキャップ、ランダムミリタリー、ランダムセーラーがある。現在、個人オーダーは受けておらず、基本、取引のあるセレクトショップでしか買えない(*その他ではgrgb.stores.jpでのみ販売)。

「誰もが知っている大きなブランドが作っている100人のうち90人に売れるような商品ではなく、2人か3人が絶対に欲しくなるモノを作ろうと思っています。今って、ファッションが元気ないじゃないですか。なんだか面白いデザインだなということが入口になって、ファッションにそれほど興味がない人もブルーブックスコーの帽子がおしゃれをするきっかけになってくれればいいですね」

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イギリスのアウトドアウェアに使われている生地を用いたランダムミリタリーハット。筆者はこれを特別にオーダー、サイズを測ってもらう

 いずれはまた店舗を持ちたいと考えている梅本さん。場所は都会じゃなくてもいい。アクセスが悪くとも、わざわざ足を運びたくなってもらえるようなお店をやりたいのだそうだ。

「帽子だけじゃなくて、面白いカジュアルウェアも作ってみたいですね。例えばUネックやVネックはあるけど、Aネックのシャツってないだろうかとか(笑)。最終的な夢は、モノづくりの好きな人たちが集まれる場所を作ること。別にファッションじゃなくてもいいんです。野菜でもなんでも、みんなで一緒に作ろうよ、みたいな。そんな、モノづくりの学校のような場所ができたら最高ですよね」

 コロナ禍で世界的に元気のないアパレル業界ですが、こんな若者のブランドが頑張っている日本はまだまだ大丈夫。帽子はねじれていても志は真っ直ぐなのだ。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
◉Blue Books Co.
京都府向日市上植野町堂ノ前5-3 イトーピア向日A405
info@bluebooksco.jp
☎075-874-2335
http://www.bluebooksco.jp/
※商品は各取扱店のほか、grgb.stores.jpで購入可

出典:「ひととき」2020年10月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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