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読書日記〜失われた世代を尊ぶ〜

 

かつてこの国は若く、夢と伝説にみちていた。スコット・フィッツジェラルドはその夢と伝説の中を走り抜け、そして死んだ。

 たしかにこの深南部(ディープ・サウス)の中心(ハート)とも言うべき町には、僕のような短期滞在者の心にさえ訴えかけてくるような何かがあるのだ。そしてその何かは人の心に何かを与え、それと同時に人の心から何かを奪っていくのである。


村上春樹著訳 「ザ・スコットフィッツジェラルド・ブック」


私は所謂「ハルキスト」ではありません。むしろ村上春樹の文章を不得手としている読書人です。
だけど、村上春樹の翻訳書はすいすい読めるという不思議。その謎を解明してくれたのが本書です。

著者が「ひとつの規範・規律」と呼ぶフィッツジェラルドに関するエッセイと短編を納めたこの本は、村上氏のフィッツジェラルドに対する思い入れが存分に感じられます。
そして、氏のあの独特の文体とリズムは「失われた世代」、つまりカーヴァーやヘミングウェイ、そして何よりフィッツジェラルドから影響を受けていると分かる。
それくらいフィッツジェラルドが産んだ作品群は、現在の私たちが読んでいる小説達に影響を与えていると分かります。

この本は村上春樹によるフィッツジェラルドの解説本であり、著者による「自分の為の作家へ向けた巡礼の本」とも言える気がする。
敬愛する作家の物語を自分で訳してみせるなんて、やはり村上氏は凄いのだなあ…としみじみ感じました。

私も原書が読めるようになりたいよー…。

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