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259 粘り強さの誕生

落ち着きのない慌てん坊

 とにかく「落ち着きがない」と小学校の頃からずっと通信簿に書かれていた。自覚もしていたが、自分は落ち着きのない慌てん坊であった。そのため、子どもの頃から図画工作は苦手。プラモデルでさえも、ちゃんと組み立てたことがなかった。作れないわけではないが、飽きてしまうか、忘れてしまうか、面倒になって放り出してしまう。
 こんな性格は一生、治らないものだと思っていた。
 だから大学を出て社会人になるとき、とりあえず営業の仕事に就いた。いや、まあ、営業なら、こんな自分でもなんとかやれないかと考えたのだ。そして実際、ある程度はやれた。毎日、顧客に会う仕事の中で、落ち着きはある程度身につき、少しは繊細さも自分に備わっていると気づかされた。
 妙に自信をつけた自分は「よし、これなら本来やりたい方向へGO!」と出版業界へ転身を図る。実際はなかなか就職できず(実績はゼロだから中途採用に引っかからない)、半年もバイト生活を続けていたけれど。やる気だけはあって、ようやく業界紙に拾ってもらった。よっぽど人が足りないのである。実際、そうだった。そのため、右も左もわからない私を、寄ってたかって戦力にしようとしてくれた。営業時代に身についた「素直さ」のおかげでなんとかこなせるようになっていった。「素直が一番だなあ」と思っていた。
 来る日も来る日も、取材、原稿、資料まとめ、校正と神経を使う仕事が続いていく。当時は土曜日も半ドンで出勤だったので、いまよりは長時間、そうした仕事にどっぷり漬かっていた。

覚悟があれば変われるかも

「君は粘り強いね」「おまえの集中力はすげえな」
 ある時、先輩からそんなことを言われた。人を褒めておいて、自分のやりたくない仕事を押しつける。これがこの会社の伝統だった。案の定、面倒臭い資料づくりやアンケート調査、紳士録の原稿整理から校正などといった作業が通常業務に加わった。
 私と一緒の年度に新卒で入った者は全員辞めてしまう。次の年度の新人は5人中1人のみ残った。そいつと組んで、面倒な作業をこなしているうちに、本当に粘り強くなっていた。
 自分から望んで飛び込んだ世界なので、辞めることは考えていなかった。とにかくしがみつき、食らいつく。それしか考えていなかったのだ。いまから思えばある種の「覚悟」だった。覚悟を決めると、それまで「性格だから変わるはずはない」と思っていたことも変わることがあるらしかった。
 よし、試しにプラモデルを作ってみよう!
 あるとき、子どもの頃はすべて中途半端で捨ててしまったプラモデルに目が留まり、スター・ウォーズの「ミレニアム・ファルコン」の30センチから40センチぐらいある模型を購入し、組み立てはじめる。部品ひとつひとつを丁寧に外して優しくムダな部分を削る。完成写真を見ながら塗装する。
 なんてことだ。やれるじゃないか。じゃ、ジグソーパズルはどうだ。何千ピースのデカイやつ。やれる!
 プラモもジグソーパズルも置くところがなくて、結局は処分してしまうことになるものの、やれることだけは確認できた。
 その時、大学生になってから、なんの練習もしていないのに逆上がりが普通に出来たことを思い出す。小学生の頃はできなかった。大人になればやれる。「そういうことか」と妙に納得した。
 いま、絵を描いている。愛犬の写真を元に描いていたのだが、いまはたまたま立ち寄った商店街を描いている。要素の多い絵になる。細かい。プラモやジグソーに共通している。おまけにクラウドに保存しているので場所もとらない。メディバンで絵を描くことは、いまのところ、こうした練習の段階で、いつかもっと自由に描くことを夢に見ている。たぶん、ある程度はやれるんじゃないかなと勝手に思っている。

ちょっとだけ進める。


 

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