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166 不思議な商売

原価ゼロでも儲かりそうにない商売

 自分のことは棚に上げた話。
 私はいろいろなお店について、散歩や仕事で出向いた先で見聞きし、テレビ番組で見かけては「いったい、どうやって儲けているのだろう」と考えることがある。
 よく「採算度外視」みたいな店が話題になる。
「お客さんの笑顔がうれしいから」とか「学生さんに腹いっぱい食べてもらいたいから」とか、なんだかすごい理由で、格安な商品を提供し続けている店がある。
「私の目が黒いうちは値上げしない」と高齢の店主が宣言したりもする。目が黒いか青いか、よく見えないんだけど。
 以前、なにかの番組で「スープが1杯50円以下にしないと」といった話が聞えてびっくりしてしまうのだが、ラーメン店ではスープと麺はとても重要な部分を占めていて、その原価は店の経営を左右する。麺を自家製でやっている店もあるけれど、多くは製麺所から仕入れているようだ。ということは、原価の一部は製麺所によって決められてしまう。
 どう見ても、毎日、客が100人も来るようには見えない店。もし100人来たとして、客単価1000円なら1日に10万円の売り上げ。週1日を定休として6日営業すれば60万、それを4週間で240万。よく「飲食の家賃は10%以内」と言われているので、月24万円の家賃。原価率30%なら、150万ぐらい残るはずなので、店主とアルバイト2人で十分にやっていけそうな気がする。
 こうした「絵に描いた餅」は、現実にはそうはいかないはずで、だいたい毎日100人来てくれる店を維持することは簡単ではないだろう。
 最近、経産省の「書店振興プロジェクトチーム」が話題になっている。あくまでもまだ省内横断の組織の段階だから、どんな話が出てくるのかもさっぱりわからないけれど、書店もまた、どうやって利益を上げられるのかわからないビジネスの一つだ。
 たいがいの本のマージンは一定で決まっている。定価販売が主なので、稀少だからとプレミアムをつけたり、売れないからとバーゲンすることは基本的にはできない。つまり、商売としての自由度がとても低い。さらに仕入れについても簡単ではなく、どの書店も好きな本を好きなだけ仕入れられるわけではない。誰もが売りたいと思う本の供給は、大型書店優先になり、小さな書店にはなかなか回って来ないのである。
 自由にどんなことでもやれそうなラーメン店でも、業界の慣行にがんじがらめ的な書店でも、同様に商売は難しそうに見えてしまう。
 それでもちゃんと儲けている人たちはいるのだ。不思議だ。

道楽商売化したらどうなるか?

 商売の行く末を考えたとき、出口としてのビジネスそのものの売却、あるいは店舗など資産の売却によって清算してプラスになればいい、と考えることもできなくはない。それまでは借り入れもしつつ、ブランド価値を高め続ける努力をするわけだ。
 ただし、新規参入のハードルの低い商売については、それは難しいだろう。なにも既存の店を買わなくてもやれてしまうなら、そこに大きなプレミアムは発生しない。
 一方、副業としての店舗はどうだろう。他に仕事を持ちながら、傍らで店舗を運営する。どこかの居酒屋さんで赤字覚悟の商売をしている背景として店主がアルバイトをしていたけれど、こうなるとアルバイトが主たるビジネスで店は副業だろう。また、既存の店を「間借り」して自分の商品を販売することもしばしば見受ける。このほか、スペース貸し専門店もあるので、そこにロッカーみたいな自分のスペースを借りて商品を並べたりもする。
 こうした考えが「あり」だとするなら、年金生活者が、年金で暮らしながら店を経営することはあり得るだろう。ベーシックインカムがもし取り入れられたら、基本的にどの商売もが、副業みたいになる可能性はある。
 まあ、いまでもメルカリやフリマの世界はそれに近い。
 つまり、すべての商売が、道楽商売になるわけだ。
 そんなことをどれだけの人が望むかはわからないけれど、私は間違いなく世の中はそっちへ向かっていると思う。なぜなら、このnoteもそうだけど、メガのプラットフォームビジネスがこれだけ大きくなっていくなら、いずれ「あなたも店長」的なサービスが生まれるだろうから。
 たとえば、業者に頼むとかなりかかる費用が、ボランティアに頼めばゼロになる(極端な話をしています)。同じ行為がゼロと有料の二本立てになっているとしたら、私たちはどちらを選ぶだろうか。
 一方で、「生きがい」「働きがい」を求めている声もある。隙間時間に手軽にバイトできますよ、とテレビで宣伝していたりもする。
「やる気とアイデアしだいで、好きなお店の店主になれますよ」といった話になっていくのではないだろうか。幼稚園時代を思い出すかも。「ごっこ」みたいな話になるかもしれない。
 なんだか、すごい変革の時期に、いま私たちはいるのではないか。
 そんな気がしたり、しなかったり。

ラーメン


 
 

 


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