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12.やっと休める

〔これは全て私の過去の出来事です〕


「死んだ人間の事を何週間も考えているなんて、俺には理解出来ないな」

「それに俺は親父もお袋も死んだことないから、あんたの気持ちは分からないよ」


………

両親を続けて亡くし、憔悴しきっていた私に浴びせられた夫からの言葉が、

毎日毎日朝から晩まで頭の中でリフレインしている。



もはや何のために生きているのかも分からなくなり始めていたが、

娘の大学の学費と生活費を捻出する為に、私が頑張って働かなければ!

その思いだけにしがみつき、何とか生きていた。

そして、思考する暇を作らぬよう、ありえないほどに仕事のスケジュールを組んだ。

身体を動かし、仕事に没頭すれば余計なことを考えずに済む。

唯一の現実逃避の方法だった。


………

しかしそんな生活がずっと続けられるはずはなく、
その後、過労で倒れ、入院する事になる。




事の発端は、高熱があったにも拘わらず、
解熱剤を長期に連発服用し、働き続けていた事にある。


やがて扁桃腺炎により経口摂取も出来なくなり

原因不明で右足がありえないほどに腫れ、力が入らず立っていられなくなったのだ。



…………


「あなた自覚がないかもしれませんが、重症ですよ」


医師によると肝臓の数値が異常値をたたき出しているとの事。



「即、入院です」

そう言われた時、


正直ほっとした。



やっと休める


家ではない場所で、ゆっくりと休みたい。

この数か月間夢に見ていた事が、現実になったからだ。




入院生活が始まった。

通常なら解熱のため投薬をするのだが、

肝臓の数値異常のため、投薬をすることが出来ず、水分補給の点滴で数日間過ごした。

身体はきついが、精神衛生状態はとても良かった。

……

入った部屋は6人部屋で、夜中にはいびきや寝言と、かなりの騒音だったが、

ぐっすりと眠る事が出来た。

こんなにゆっくり眠ったのはいつぶりかな。



きちんと休息が取れた私は、みるみる回復した。

足の腫れもすっかり引いていた。
(何故腫れたのかは結局分からずじまいだったが)





「次の検査の結果次第では来週の頭には退院出来ますよ」


担当医師にそう言われ、


「ありがとうございます」

と返してみたものの、内心複雑だった。


退院したくない!


これが本心だった。




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