父の背中
テレワークを選んだ今日。
昼休みの時間に近所まで買い物に出た帰り道、向こうから歩いて来るひとがいた。
父だった。
近所に住んでいる両親とは、ときどき路上で出くわすのだ。
コロナ以降、年配の両親に万一のことがあってはならないと、実家訪問を避けている。
だから、たまたま路上で両親に出くわすと、ことのほか嬉しい。
特に気の合う同士の父と出くわすと嬉しくてきゅんとする。
前々回出くわしたときは、父は片手に雨傘を持っていた。雨上がりだったから。
前回出くわしたときも雨傘を手にしていた。快晴の日だったのに。
今日出くわしたとき、父は杖をついていた。
とうとう来たか。
前回、快晴なのに傘を手にした父は傘を頼りに歩いているように見えて、胸がツンとしたのだが、やはり、そうだったのだ。
父は杖をついて歩く、そういう状態になったのだ。
ひとは生まれるとしばらくは寝たきりだ。
次にハイハイをし、立っちを覚え、よちよち歩き出し、成長していく。
ひとは人生の最終幕を迎えると、生まれてきたときと逆の順番を辿り、やがて天に召される。
立ち話をし、"じゃ、たかよちゃん、お仕事頑張って。バイバイ"と手を振り去って行く父。
悟られないように、数十メートル歩いてから振り返って見た父は杖をつきながらよちよち歩いていた。
心もとなく歩く小さな背中を私はしばらく見ていた。
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