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重要顧客との繋がり強化を実現したサブスクプログラム「Unlimited Sip Club」


盛り上がる有料のメンバーシップとサブスク

近年、リテールや飲食業界でも、有料のメンバーシップやサブスクリプションプログラムの導入が再び盛り上がっています。

例えばアメリカのリテール業界では、大手のウォルマートがWalmart+ Membershipを、ターゲットはTarget Circle 360という有料の会員プログラムをそれぞれスタート。

Walmart+

飲食業界では、大手ベーカリーカフェチェーンのパネラブレッドがUnlimited Sip Clubを、サラダを中心に人気を集めるスウィートグリーンはSweetpassと呼ばれるプログラムを開始しています。

今回は、購入金額に応じてポイントを付与する形でのロイヤリティプログラムとは異なる形での“優良顧客と繋がり続ける仕組み”として、パネラブレッドのサブスクプログラム「Unlimited Sip Club」を取り上げたいと思います。

このプログラムは導入から既に3年以上が経過し、今や売上げの25%以上を占めるまでに成長しています(注:Unlimited Sip Clubのメンバーが同社の売上の25%を占める、という意味です)

パネラブレッド社HPより

ちなみに、同社をご存知ない方も多いかもしれませんが、先日取り上げたチポレに次いで全米で11位の規模のチェーンで、デジタル投資も積極的に行っています。近年は、店内・店外でのモバイルオーダーやデジタル専用店舗の開発、リワードのパーソナライズも強化中です。

都市向けのデジタル特化店舗のイメージ(source

コーヒーサブスクとして始まったUnlimited Sip Club

Unlimited Sip Clubは、2020年「My Panera+ Unlimited Coffee」という形でスタートしました。(より正確には、2019年にサービスの検証を行い、成果が認められたため、2020年から正式なプログラムへと格上げ)

当時の同社Webサイトに表示されていた画像

このプログラムは、My Paneraという同社のロイヤリティプログラムの会員だけが入れるオプションのような位置付けとなっています。そして名称の通りコーヒー(と、ホットティー)が飲み放題となるサブスクとしてリリースされています。

アメリカ人は平均で1,100ドルをコーヒーに費やす!?

リリース時に訴求していた価値はシンプルです。

アメリカ人は平均して1,100ドルを毎年コーヒーに費やすが、Unlimited Coffeeに入れば、そのコストが100ドルでOK(1,000ドル削減できる!)

同社IR資料より

といったものでした。

実際にリリース時は月額8.99ドルでしたので、年間およそ100ドルとなります。(現在は月額プランが値上がりして14.99ドル、年間契約は変更なしの119.99ドルとなっています)

売上の25%を支える重要な顧客との接点へ

ここまでの3年間で順調に会員数を伸ばし、直近ではその会員数は60万人を突破したと報じられています。

冒頭に触れた同社の無償のロイヤリティプログラム「My Panera」の会員数は5,300万人なので、Unlimited Sip Clubの会員数はその2%に満たない規模ですが、この60万人だけで売上の25%を占めると言われています。

このUnlimited Sip Clubの会員がいかに同社にとって重要な顧客であるかがわかりますね。(ちなみに、5,300万人が同社の売上の約50%を支えている、とも言われています。なので、60万人が25%を、残りの5,240万人が25%を支えている、という構造でしょうか。5,240万人も実態としては一部の会員に傾斜がかかっていることが容易に想像されますが。)

検証で明らかとなったコーヒーサブスクの効果

なぜコーヒーだったのか?具体的にどのような効果があったのか?
これらについて、2019年に150店舗で3ヶ月以上かけて行った検証結果も交えながら同社の狙いを紐解きます。

来店頻度

2019年の検証では、来店頻度が200%以上向上したと発表されています。テスト参加者の中では1日おきに来店していたユーザーも多く、通常の来店頻度の3倍だった、とされています。

ちなみに、無料のプログラム「My Panera」では購入や来店で様々な特典が付与されますが、その特典の交換期間は”60日”が多く、顧客を引き留めるという意味では”2ヶ月に1度”は来てもらいたいことが伺えます。

その頻度と比較しても1日おきに来店するということががいかにインパクトがあるか、想像できます。

食事の購入(ついで買い)

頻度とともに、大きなインパクトがあったのが、コーヒーを受け取りに来る際に、ついでに食品も買うという行動でした。通常のユーザーに比べて、食事もセットで買う割合が70%増加したと発表しています。

何よりも大事であったこと→「モーニング顧客の獲得」

上記のように、「ついで買いが増えた」・「来店頻度が高まった」と聞くと、「やはりそんなところか」と受け止められる方も多かったかもしれません。

ですが、個人的に一番大事だと感じたのは、これらが「朝食客」の取り込みにつながっていたことだと思います。

クイックサービスレストラン(通称QSR)業態において、朝食のユーザーは収益性が高いとされており、実はこのサブスクプログラムは、

  • 朝の時間帯にコーヒーを引き換えに来店し

  • そのついでに食事も購入する割合が増え

  • さらに、その来店頻度が高まった(来店回数が増えた)

ということだったのです。この思いがけないモーニング需要の増加を受けて、朝食メニューの強化・刷新にも取り組みました。

X(旧Twitter)を見ていたら、まさに同社の狙いを体現するような投稿をしている方も。

そして、2022年からUnlimited Sip Clubという名称にリニューアルするとともに、セルフ方式のドリンク全てが飲み放題の対象に加わりました。

これは単純に対象商品を増やしたということだけでなく、コーヒー以外のドリンクも追加することで、朝食だけでなく、日中の来店需要の掘り起こしにも繋げていきたいという意図が伺えます。

今後、「コーヒ」 x 「朝食」以外のセグメントにもどのように広がっていくのか、楽しみなところです。

いかがでしたでしょうか。

サブスクといっても、単体で収益を上げるためのものではなく、重要顧客(今回の場合はQSR業態における重要セグメント=モーニングの顧客)が継続的に、より頻度高く同社を利用する仕掛けとしてうまく機能しているケースとして、パネラブレッドのUnlimite Sip Clubは非常に面白いと思います。

最後に、余談となりますが日本の話も少しだけ。

日本でもコーヒーサブスクが進む?

ちょうど昨年、ローソンやセブンイレブンが相次いでコーヒーのサブスクリプションサービスの実証実験を開始しました。ローソンのテストでは、パネラブレッドと同様、来店頻度の向上など成果があったことも記事で触れられています。

他にも、カフェであれば、JR東日本のベックスコーヒーでもサブスクサービスをスタートしており、今後日本でもより一般的になっていくのでしょうか。

一概に比較はできませんが、最近値上げして不満が出ているUnlimited Sip Clubは月額14.99ドル(≒2,332円)で、2時間毎に1杯無料で飲むことができます。

その一方で、ローソンは月額1,500円、セブンイレブンは月額2,000円でそれぞれ1日1回無料で飲める、といった内容になっています。ベックスは、最も安いプランでマイボトル持参で1,800円(月20杯)となっています。

実際に1日に何回も来店するかはさておき、交換できるドリンクのバリエーションも含めて、パネラブレッドの方がお得感があるのは私だけでしょうか。(とはいえ、日本のコンビニの場合、1日に何度も利用できてしまうと、利便性が高すぎる故に何度も来る人が頻発しそうなので、気持ちはわかりますが。)


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