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Z世代から人気の飲食チェーンChipotle。創業からの軌跡と、デジタル活用・ロイヤリティ戦略に迫る(1)

Chipotle(チポレ/チポトレ)というアメリカの大手飲食チェーンをご存知でしょうか。

正式にはChipotle Mexican Grillという名前で、その名の通り、ブリトーなどのメキシコ料理を提供する人気のファストカジュアルチェーンです。

同社HPなどから作成

このChipotle、2015年に同社の店舗で発生した食中毒で大きな打撃を受けたものの、積極的なデジタル投資などが功を奏し、コロナ禍も売り上げを落とすことなく、むしろその成長を加速させ、株価も伸びています。

Chipotle社の株価推移

近年、Z世代・10代からも非常に高い人気を誇る同社がどのようにして成長を遂げたのか、その中でもモバイルオーダーなどのデジタル投資と、そこから生まれたデータの活用・ロイヤリティプログラムについて、掘り下げていきたいと思います。

今回Chipotleを取り上げるのは、同社がDXのお手本のように、

  1. デジタルを活用して顧客体験の向上(特に利便性)を実現し

  2. そこから得られるデータを活用して顧客理解を深め

  3. さらにそれをロイヤリティプログラムといった形で活用し

  4. 継続的につながり続ける価値を提供し、顧客の愛を深めること

を、うまく実現しているためです(紆余曲折ももちろんあるでしょうが)

マーケティングに関わる方、顧客体験の向上に興味のある方、ぜひご覧ください。

Honest作成

では早速、本編を進めていきましょう。


今回はまず、同社の取り組みをより深く理解いただけるように、その概要や特徴、これまでの歴史を掘り下げていきます。「そこはいいから、ロイヤリティプログラムの具体を知りたい!」という方は次回をお待ちください。

Chipotleの特徴

全米トップ10に入る大手チェーン

Chipotleは日本未上陸のため、ご存じない方も多いかもしれませんが、実はアメリカのファストフードチェーンとして業界トップ10に入る規模です。

そして、その特徴の1つは、多くの飲食チェーンがフランチャイズモデルを採用する一方で、全て自社で運営している珍しいタイプのチェーンだということです。

QSR Magazineより

健康志向への対応とZ世代

最近は健康志向もあり、ライフスタイルボウルと呼ばれる健康に配慮したメニューのラインナップも豊富で、昨年には、同社の商品をコピーしているとして、サラダボウルなどが人気のSweetgreenというチェーンを訴えたりもしています。

他社が真似したくなるほど(?)人気のある同社。特にZ世代、10代からの人気が高く、Pipersandler社の調査では、「10代の好きなレストラン」のトップ5に常にランクインしています。

Taking Stock With Teens Surveyより作成

若者からの支持も集める人気チェーンがこれまでどのような軌跡を辿って現在に至ったのか、少し遡ってみましょう。

創業から現在まで

1993年、Steve Ells氏が創業

Chipotleは1993年、Steve Ells氏が立ち上げました。Steve氏は、1988年にコロラド大学を卒業後、全米トップレベルの料理学校「Culinary Institute of America(略してCIA)」に入学して料理を学びます。

Culinary Institute of Americaより

その後、サンフランシスコの有名料理店、カリフォルニア料理ブームの中心地とも言われる”Stars”というレストランにて時給12ドルのラインコック(厨房の1つのセクションを担当するようなイメージでしょうか)として就職します。

いつか自分のお店を開くことを考えていた同氏ですが、ある日、"Zona Rosa"というメキシコ料理店でブリトーを食べていた時に、外の行列を見て、ふと、「何人が並んでいるのか、料理は何人で作るのか・・・」といったことが気になったようです。

San Francisco Wikiより

必要な人員や売り上げ予想などをナプキンに書いて計算したところ「これは良いスモールビジネスになる」、「将来ファインダイニングを開くための資金を作れる」と考え、2年ほど勤めたStarsを辞めることを決断。

資金の準備には苦労したようで、13のベンチャーキャピタルや投資銀行のような企業に出資を求めたもののその全てに断られてしまったようです。最終的には父親からの融資を引き出し、1993年7月13日に1号店をオープン。

ここから快進撃が始まります。

Chipotleの一号店と創業者Steve Ells氏(Bloombergより)

オープン初日の売り上げは450ドルほどでしたが、その売上はみるみる増加します。2日目には800ドル、数日後には1,000ドル。そしてさらには、半年も経たないうちに、売上は1日3,000ドルにまで伸びました。

大当たり。オープンから1年半のうちに3店舗まで拡大します。

マクドナルドからの出資

順調に成長する中、創業から5年後の1998年、当時はまだ18店舗でしたが更なる成長に向けて、マクドナルドから出資を受けます。ちなみに、マクドナルドはその3年後、2001年に90%以上の株式を取得するに至ります(現在は上場しており、資本関係はないようです)

マクドナルドは当時、同社の次の成長に向けて出資や買収の強化を進めており、注目を集めていたファストカジュアル領域(ファストフードよりも品質が高く、レストランよりもクイック・カジュアルに食べられる業態という感じでしょうか)で成長する同社にも出資をおこなったようです。

ただ、経営に関する考え方は真逆のことが多く、出資を受けつつも、メニューやブランドなど、経営に関する意思決定はマクドナルドに忖度することなく進められたようです。

一方で、マクドナルから何も学ばなかったということはなく、店舗拡大や他店舗展開のマネジメント、効率的なサプライチェーンの構築ノウハウなどは同社の成長にとっても非常に重要になったようです。

資金の確保も大きいと思いますが、上記のノウハウ取得によって、創業からの5年で18だった店舗数もその後の7年間で500店舗以上に急拡大を遂げました。

2006年、株式公開へ

順調に成長を続ける同社は2006年にIPOへと進みます。

この年のインタビューで同氏は「将来的には約4倍となる2,000店舗になる可能性がある、50年後にIn-N-Outバーガーのような存在になる」と語りました。

冒頭の表を見てお気づきの方もいるかもしれませんが、同社の店舗数は、2023年時点で既に3,000店舗を超える規模に到達しています。

Steve Ells氏(WSJより)

そのSteve氏は2020年に取締役を退任しており、2023年末に新たな業態を始めること、2024年にその1号店をマンハッタンにオープンする予定であることを発表しています。

今度は肉を使わないサンドイッチ、サラダ、サイドメニューを、ロボットを活用して、注文を受けてから作るスタイルを目指しているようです。

横道にそれましたが、2006年のIPO以降、同社は順調に成長し、それに伴い株価も上昇しました。株価は2015年1月には2006年1月の16倍となる700ドルを記録。

Chipotle社の株価推移(Google Financeより)

ただ、ここで同社は思わぬトラブルに見舞われます。

2015年に発生した食中毒

創業時から、商品の品質にこだわっており、出資者であるマクドナルドからクッキーなど様々なメニューの追加を提案されても、「最高のものしか置かない」といったポリシーを貫いていた同社。

ですが、大きく成長する中での歪みが顕在化したのか、2015年10月に同社の店舗で食中毒が発生しました。

この一件により、消費者からの評判も大きく下がり、成長を続けていた売り上げも、2016年には前年比86.7%(単純な店舗あたり売上を比較すると77.2%)という、前年を大きく下回る結果となりました。

ちなみに、この件で「Chipotleから離れたお客さんはどこに行ったのか?」という以下のリサーチでは”45%”のお客さんが事件後、同社のレストランに行っていないとされており、その影響の大きさが伺えます。

苦境からの回復と再成長へ

ここからどうなるのか?多くの人が不安を覚える中で、創業者のSteve氏が単独のCEOとして経営の舵取りを行うこととなりました。その結果、2016年は前述の通り大きく凹んだものの、2017年は2015年に迫る水準へと戻します。

食中毒発生前の水準まで戻したタイミングで、2018年2月にSteve氏はCEOを降り、TacoBellでCEOを務めていたBRIAN NICCOL氏がCEOに就任することが発表されました。

Chipotle社 HPより

下落傾向にあった株価もここから反転の兆しを見せるとともに、2018年の売上げはついに2015年を上回ります。店舗あたりの売り上げは、まだ2015年の水準には達していませんが、店舗数は2015年以降も継続して増加してきたこともその一因として挙げられます。

売上(左:百万ドル)と店舗数(右)の推移(同社IR資料より作成)

CEOの交代については、当時の報道で「ドライブスルーの導入」や「営業時間の延長」、「朝食メニューの追加」、「オンライン注文の改善」など、やるべきことがが実現されていないことが挙げられており、2016年9月に9.9%を保有し大株主となった投資家・アクティビストとして知られるビル・アックマン氏のパーシングスクエアの影響などもありそうです。

モバイルオーダーの先駆者

少し時計の針を巻き戻しますが、実は同社はモバイルオーダーを業界の中でもいち早く取り入れていた企業の1つでした。

2009年の同社のモバイルオーダーイメージ(Tech Crunchより)

DoorDashが創業したのは2012年(実に10年以上前!)。そして、UberEatsのローンチやスターバックスのモバイルオーダーが開始されたのは2014年ですが、Chipotleはそこから遡ること数年、2009年にはモバイルオーダーアプリをリリースしています。

ちなみに、さらに遡ると現在はデジタルオーダーリングプラットフォームなどを提供しているOlo社はiPhone発売の2年前、2005年に携帯からコーヒーの注文・支払いを可能にするサービスをリリースしています。

話を戻してChipotle社。

2009年のリリース時はバグによって、リリースしては公開をとりやめるといったことを繰り返すしていたようですが、2013年にはAndroidアプリでも米国の全地域で注文が可能になったと報道されています。

そして食中毒の発生が注目されがちな2015年ですが、同年には現在のChief Technology & Customer OfficerであるCurt Garner氏(元スタバCIO)が同社にジョインしています。モバイルオーダーなどデジタル領域の取り組みを継続的に強化してきたことが垣間見えます。

Chipotle社HPより

そして、モバイルオーダーをはじめとするデジタル売上げの比率は2018年に10%を超え、2019年には18%、そしてコロナ禍に突入する2020年にはなんと46%を記録するまでに至りました。

デジタル売上比率(同社IR資料より作成)

モバイルオーダーによって顧客との強固なデジタルでの接点を生み出したことで、同社は顧客の購買行動をデータでより深く理解することができるようになりました。

そして、その活用の1つとして、ロイヤリティプログラムを立ち上げます。

注目を集めるロイヤリティプログラム

モバイルオーダーが急速に伸びていく中で、Chipotleは2019年3月に独自のロイヤリティプログラム”Chipotle Rewards”のリリースを発表します。

Chipotle社プレスリリースより

これはざっくりいえば、店頭での決済も含めて、自社のチャネルで購入した顧客にはその購入金額に応じたリワードを提供するというものです。

ロイヤリティプログラムの会員数も売上と同じく急増。2019年のうちに800万人に到達したと思えば、翌年には2,000万人、さらにその翌年には2,400万人へと拡大します。

会員数(左:百万人)とRewards liability*期末残高(右)
*リワードの支払いに備えて準備すべき金額(参考

一概に因果関係を断定できませんが、店舗あたり売上も2021年に2014年の水準を上回っており、Chipotleのファンの来店頻度や単価向上を後押ししている可能性は十分に考えられると思います。

次回、このロイヤリティプログラムの具体的な内容について掘り下げていきたいと思います!お楽しみに。

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