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Labの男38

 Labの男38

忍び寄る暗闇の濃度が日に日に増している。
布団の恋しくなる次なる季節の気配。
シーズンオフのひと気が無い山に
陽が明け始めようとしている。
静寂の中どこぞの鳥が鳴いている。
風が吹き抜け木々のたわむ音
動物が踏む落ち葉の音
微弱に虫も鳴いている。
自然界には
住人がすでに大勢いる事を思い出させてくれる。
すがすがしい空気と霧が入り混じった
樹木の生きた香りが充満している。
覆いかぶさっていた暗闇のベールが
少しずつ陽の光に追いやられていく。
木々の間をかき分けて
施設全体がゆっくりと照らされてゆく。

目が覚めるとTシャツ、パンツ一丁
掛け布団もかけずその上で
気絶していたように眠っていたのに気づく。
風呂から上がって、晩ごはんも食べずに
泥のように眠っていた万次郎。
バスタオルで頭を拭いている途中から
記憶がない。
あんなヘトヘトになるまで
身体を動かしたのは小学生以来だ。
ふと目線を隣に向けると
もう一方のベット上に脱ぎ捨てられた服。
来栖さんも同じ部屋で眠っていたみたいだ。
宿泊施設なんだから、他にも部屋はいくらでも
あるだろうに、なぜなんだ?
何気なしに部屋を出ると
食堂の片隅に人の気配。
いい匂いに誘われるように近づくと
意外な場面に出くわす。
 ドジャーーン
「戦慄のアイアン来栖クッキング」

以前までは構えてしまったであろうが
明智の言う通りミッション以外では
戦慄はどっかにいっている。
今や、万次郎と来栖は体をまさぐり合った仲
さらりと話しかける。

「来栖さん意外と料理とかするんスね」

 「まぁ〜たまにな。あんまり食べ物には興味が
  ないほうだからな」

手際よくフライパンをひっくり返し皿に
目玉焼き ベーコン パンを振る舞ってくれた。
2人横並びに食堂の長机で黙々と食べ終わる。

 「朝食はアメリカンスタイルなんですね。
  めちゃくちゃうまかったです」

少し嬉しそうに唇の片方が上がり
コーヒーカップ片手に
 「あれだけ、うごいたんだから
  何食ってもうまいだろ?
  とにかく塩っからいのが食べたくなってな」

カップを唇に運び一口
 「普段はコーヒー飲むくらいで
  朝は食べないのがほとんどだ。
  しかし、まぁ〜 ジョン
  こんなの毎日食ってたらアメリカ人みたいに
  成人病になっちまう」

コーヒーを飲み干す万次郎
 「体に悪そうなのは、たまに食べると
  やっぱりうまいですね!」

そそくさと、食器を片付けて洗い終える万次郎

混浴の一件も取るに足らない出来事
なにも変わらず食堂で講義する来栖

人体は非常に素直にできている。
基本的に身体はコントロールしようと思うだけで
筋繊維は必要以上に収縮する。緊張する。
縮こまって小さくまとまる。
よい結果を出そうとよぎるだけで
過剰対応しようとする身体。
すると、面白いものでいつもよりも
いいパフォーマンスをだとか
通常時をすっ飛ばして
120%能力を引き出そうと願望があらわになる。
この即席感が何ともチープだな。
ヒトはこの力んだモヤモヤに翻弄され
無自覚のモヤモヤ感の矛先をどこへ向けようかと
神社だ、寺だ、仏閣だの行って
やりくりするんだろう。
ややこしい事は一旦、棚に上げるのは
いい作戦なんだが、気になってほっとけないから
絶対的普遍の神仏方面へ流れるのだろう。
スッキリするならむしろ行ったほうがいい。

要は落ち着いて手放す、諦めるってことだな。
ここに感情を乗っけちまうと
【末那識 まなしき】の思う壷だからな。

他力本願は脱力には最適なんだが、一旦な。
欲望が乗っかるとちと、事情が変わってくる。
恐怖と願望は表裏一体
その正体は“芯”がブレてるからだ。
しっかりと地に足がついておらず
目の前に集中できずに気が散って
ココロここにあらずの状態である事が分かる。
想いと願いは、紙一重で足枷となる。
抗議は続いている。

この1週間での来栖の修行コンセプトは
シンプルに身体にゆだねるだ。
想いを込める部分は
ほっておいても続ければカタチになる。
だから大いなる自分に任せられるように
違う言い方をすれば
すばらしい能力を秘めた自分に任せてやる。
コレが肝だ。
練習というのは自分が信用できない者の為の
儀式であり呪術の類だ。
狙いを持って繰り返し鍛錬するのとは違って
闇雲に練習すると呪術となってしまう。
思い込みだけで
身体に強要しても応えてはくれるだろう。
効果が無いわけではないが
それほど大事では無い。
まっすぐに願う気持ちの上での鍛錬には
コツがいる。
万次郎の持っている真っすぐさがひん曲がる前に
のびのびと好き勝手やってやる方が
よっぽど自分という相棒を活かせることを。

ついでに社会情勢だとか日本国の現状の講義。

長い黒髪をかき上げ後ろにほり投げる仕草
意外と話している間は表情豊かな来栖
 「ジョンは平和な国、日本ってイメージに
  何ひとつ疑問なく暮らしているだろう?
  が、とてつもなく歪に不自由
  不自然なバランスの上に成り立っている国だ」

産業革命以降、日本国は国民総出で
経済を発展させるために人材を育成
他国との関係に肩を並べるべく
一律に国民を教育する政策を打ち出す。
総力戦で生産力の底上げ
いちから産業を国民に叩き込み
国力に繋げようとした。
学校教育とは本質的に
いつでも働くことのできる状態の人材を
育成するためのシステムである。

 「金が世界をまわす現代システムまで
  合理主義が行き渡り
  システムの上にさらにSystem
  色々と便利に省かれた日々を暮らし
  骨の髄まで染みいる無自覚資本マインドが
  ここまで横行するとは
  当時は思い描いてもなかっただろう」

平等に教育を受けるべき的な人権という
現代的発想は後乗せの考えである。
軍による先見の明からの国際化に着目
世界情勢に取り残されないよう
国力強化作戦であり
日本国の一員である発想を植えつけるべく
天皇のもとにユナイト感でもって
富国強兵を目指した結果である。
生真面目にっぽん人のルーツだな。

忘れがちなのが わが国は敗戦国である。
米国の傘下のままであり、自由に
自国で肝心な事を決定する権限がない
不思議な国である。

敗戦後、日本占領下GHQの方針により日本が
にっぽんでなくなる政策が立てられる。

有名なのが3S政策。
スクリーン【映像鑑賞 エンターテイメント】
スポーツ【プロスポーツ観戦】
セックス【性欲】

大衆の関心を政治に向けさせないようにする
愚民化政策である。
これにより日本国民は愛国心も大和魂も忘れ
骨抜きにされたと言われる。
特にアメリカ人にしてみれば戦時中の
日本兵への恐怖体験は強烈だったらしく
反逆要因の排除が徹底された。
自身の命も顧みず天皇の名の下
名誉の玉砕自爆なんぞ発想外!
狂気の沙汰だと。
いくら叩いても這い上がりゾンビのように
前に歩みを進めてくる様は
勝てる気がしなかったそうだ。
滅私奉公という言葉自体がない米国
親、子であったとしても自分というのは
まず自身の所有物である発想のアメリカ人。
その発想なら日本国民は、公共の物扱いだ。
彼らには理解を遥かに超える次元の話だ。
自分があっての パトリオット 愛国心となる。
多神教であるのに他教徒を叩かない
そんな緩やかな国は他には存在しない。
良いのか悪いのかは別で
根底には全てに神が宿る発想【ヤオヨロズ】
八百万の神が日本人には植っているんだろう。
流行りに弱いのは昔からで
現在では仏教徒が多数を占めるがな。
良いおこないは
徳が積まれカルマ『業』が昇華される。
善行ポイントシステム。
これは何処のカードに
ポイントが加算されるのか。
この発想自体、本来の仏教思想から
かけ離れており
利己的で還元を強く求める資本主義マインド

 「損得で動いてるようじゃ〜
  自由は、遠のいていくぞ。
  なんとなく分かるだろ?ジョン!」

上手くやったのが米国のイメージ戦略だ。
今だに日本人のイメージだと
正々堂々な世界の警察アメリカ。
歴史が浅い、たかだか200年ばかりの勢いだけの
すぐに仮想敵を作り戦争を売り物にする
ダーティーなごり押し国では決してない。
映画の効果は絶大だ。
最新の流行は、カッコいいアメリカから。
若者は米国文化に染まっていった。
怨敵、支配側国にもかかわらずだ。
今では世界の警察アメリカ感は薄まって
米国ドル一強の世界観も崩壊しつつある。
決して国の悪口を言ってるわけではない。

厄介なのが原理主義だとかの思想だ。
国は無くなっても
遺恨であったり思想はなくならない。
徹底してそれらを取り払われたのが我々
現代日本人だ。

何百年も栄えた江戸時代は
平等に皆が貧乏だったからだとも言われる。
それでいて適度に
庶民にも娯楽があり裕福ではなくても
幸せであったそうだ。
金があっても無くても豊かか?そうで無いか?は
こころが決める。
偉いさんが決めたことをするだけで
幸せになれた国民性は江戸時代に培われ
今だに根付いている節さえある。
国家に従属することへの幸せは
血族単位か国単位かだけで
規模の大きさだけの
想いはなんら変わりがない。
愛国心から他国を顧みないのも問題だが
同じムジナだ。
環境により育てられる個性であり
個性は、実際は時代が育んでいる。
知らぬが仏であっても
恐ろしく歴史の影響を受けて
ヒトは生きている。

とまぁ〜、日本は世界から特別扱いを受ける
ごまめの国なんだなぁ。
こんなに怒らない国民性も珍しいだろう。
いわば、環境保護動物 日本人
世界が保護してはいるが
国自体が実験場みたいなものだ。
これほどスパイがいたる所にいる国はないぞ。
かなり国内でも情報統制されているが
それ自体も知らない国民が大半だろう。
信用と善意で世の中ができていると
信じ込まされている従順な国民様々だ。

 「とんでもない国だろ?」

 「そこでだ。頼れるのは自分
  まぎれもなく身を守るのも自分自身だ。
  今日は武器の扱い講座だ」

 「ひと通り教えるからな。銃から刀さばき
  徒手空拳から人体の急所まで。

  それじゃ地下施設に行こうか」

食堂裏にある地味なエレベーターに乗り込むと
来栖は一階のボタンを3回押す。
表示上では地下がない事になっている。
すると扉は閉まり下へと降りてゆく。
扉が開くとすぐに通路
コンクリート打ちっぱなしの空間が広がる。
まっすぐ下に伸びた階段が続いている。
それ以外何もない階段を降りきると
大きく仕切られた入り口
何の飾り気もなく扉もない。
そのまま入ると目を奪われる大空間。
壁に設けられた棚にはぎっしり一面
武器やら銃やら、わんさか飾られている。
来栖がニヤニヤした顔で
親指で銃火器を指している。
腰の位置には引き出しがあり
引き出しを開ける来栖
中には、ありとあらゆる種類の弾丸がぎっしり。
ノリノリの表情で来栖
弾丸で敷き詰められた引き出しを
指差し「う〜ん」
片眉をあげて万次郎に視線を送る。

スキー場へレジャーな客に混じって
ハードボイルドな人種が
訓練するなり、武器を調達に来たりと
特殊エージェント達が出入りしているなんて
誰が信じてくれるだろう?
よく壁を見ると所どころ跳弾あと血痕など
痛々しく傷だらけであるところに
まじまじとピントが合ってきた。
実写であると物語っている。

 「どうだい?シビれるだろっ!
  武器なら大体は揃ってるゼ」

不機嫌な唇が片方上がっている。

 「見ろよっヌンチャクだってあるぜ。
  これは燃えよドラゴン仕様の
  取手が長いバージョンだ。
  使い勝手がいいんだ。
  とはいえヌンチャクは
  戦闘には適さないがな」

ヌンチャクを確かめる様に振り回しながら
身体の細部に意識を巡らしているのが
見て取れる。確認は済んだのか
ひと通り終え首にヌンチャクをかける。

 「基本的には製薬業界、殺しはご法度だ」

中には自社の手を汚さず外注で雇ったヤツらを
使う場合もあるが、
製薬会社間での血約のルールでは銃は違反だ。
ここは一応日本だからな。
外注先が手荒なグループの場合のみ
銃火器を扱うことになるだろう。
まずはハンドガンから扱い方を学んでもらおうか。
棚から手頃な銃を2つ手に取り
1つを万次郎に、
まるでオモチャを扱うように手渡してくるが
ズッシリとくる重みで現実に引き戻される。
来栖は首にかかったヌンチャクを手に取り
丁寧に壁にかけ奥の射撃場へ。

 「まず、殲滅がミッションではない。
  あくまで妨げになる者を払いのける程度に
  考えていた方がいい。
  技術に溺れると
  大局を見失いなう羽目になるからな」

奥にあるターゲットを指さす。
先には人型の標的が横並びにある。
距離にして15m〜20mは、あるだろうか?
バンッバン うおぅ!身構える万次郎

 「この頭部への発砲が機能停止には1番だが
  得策ではない。乱戦時には闇雲に撃つよりも
  違う意味でのアタマを狙え」

見事に銃弾は頭部のど真ん中
2発、風穴が開いている。

 「まず取り仕切っているであろうボスを狙う。
  戦場ではないから司令塔あたりが適当だな。
  仕留めるならそれだけでいい。
  混乱に乗じてミッションを
  進めるには色々と好都合だ」

 「致死率がまだ低い方の肩周辺がいいだろう。
  頭を狙ってきたと勘違いさせる
  威嚇には効果的だ」

「ニンゲンは痛みには素直だ」

 「手先には神経繊維が集中している。
  他の神経感覚の200〜400倍と言われている。
  それだけ複雑な作業が出来るように
  張り巡らされている点を利用する。
  銃に撃たれりゃ〜どこだって痛いが
  手は特別で痛みが鮮明なんだな。
  戦意消失させるには、もってこいだ」

バンッバン びくんっ!肩をすくめる万次郎
手先に肩に命中

 「身体のパーツとしてなら
  狙いやすいのは大腿部。太ももだな」

バンッ 太ももど真ん中に命中
軽く足が反応する万次郎
少しは慣れてきたみたいだ。

 「人体の中でもかなり大きいパーツとなる
  筋肉組織で密集している。命中したなら
  いとも簡単に歩行困難となるだろう」

 「いいだろう。撃ってみろ!」

バンッ バンッ バン!

 「もちろん、呼吸法も並行してやるんだぞ」

 「頭を狙ったのか?まずまずだ。
  やはり銃の握り方からレクチャーだな」

グリップの握り方でもっとも重要なのが
グリップの上方を握る「ハイグリップ」だ。
まずトリガーを引くほうの手、
ストロングハンド
利き手を銃に添え、親指と人指し指の指間
1番深いところにグリップの後部をあてがう。

 「グリップが少しそっているだろ?
  その真下辺りだな」

銃身線 サイトライン と腕の線が
一直線上に来るのが理想的な握り方だ。
さらに安定させる為の添える手
ウィークハンド
利き手じゃない手のひらで銃の底を包む。
グリップに添える方の手の親指を水平に伸ばし  その上のグリップを握っている手の方
親指の下に添えて重ねるように握る。
両手で握った銃をさらに支えるには
指すべてに隙間ができないように揃えて
サポートハンドもできるだけ上のほうを握るのが
ポイントだ。両手でグリップを下方向に
絞り込むような感覚で握るとブレが抑えられる。

 「手と銃が一体化するように密にな」

グリップの下のほうを握ると
手とグリップの間に隙間ができてしまい
しっかり握ることができないことから
銃が暴れてコントールしにくくなる。
さらに反動も抑えることが
できなくなってしまう 注意が必要だ。

両手で万次郎の手を包みこみ感覚を教え込む。
 「ここをこうして、そう、もうちょっとタイトに
  これが基本的な握り方だ」

次は引金の引き方だ。
明らかに戦闘になるだろう時以外は
人差し指をまっすく輪っかに指をかけないことを
心がけろ。誤射防止をクセづけるんだぞ。
トリガーに指をかける時は
トリガーフィンガー 
人差し指の第一関節の少し先あたりに
トリガーが触れるようにする。
しっかり握り過ぎて
深く指をかけ過ぎると
引ききれなくなるから注意が必要だ。
力任せに引かない。
あくまでもスムーズに絞り込むように
引ききることを心掛ける。
正確な射撃にはトリガーの
リセットのタイミングが重要になる。
ブローバックしている間、

なにかに気づいて来栖
 「拳銃を打つたびに
  銃がガチャコンって薬莢が飛び出るだろ。
  あの一連をブローバックって言うんだ」

 「銃の上の部分が動くだろ?
  この部分を スライド って言うんだ」

スライドが後退して前進するまでは
トリガーを引き続ける。
ブローバックが終了したら スライドが前進
トリガーから指を離してトリガーを戻し
「カチッ」とシアがハンマーにかかった音がしたら
トリガーが再び引ける状態だ。

バンッ カラッカラーン 指をさす来栖

次は狙い方だ。
オープンサイト(アイアンサイト)の場合
まずリアサイトの切り欠き(凹)に
フロントサイト(凸)を合わせる。
一直線に水平に上面の高さを合わせ
リアサイトの切り欠き(凹)に
フロントサイト(凸)を合わせた時にできる
隙間が左右均等になるようにする。

 「銃口先端のボッチがあるだろ。
  凸が反対側のはしっこ上にある凹の
  まん中からから凸がキッチリ顔出すように
  すると銃身が水平に保てる」

白い点がフロントサイト 凸の真ん中に
刻印されてるだろう。
リアサイト 凹の左右についている場合
3つの白い点が水平に並ぶように狙う。
この銃の左右にはついてないが
見えやすいように凹みを白く縁取ってる。
白い点が凹の間から真っ直ぐに見えるように
合わせられているならOKだ。

時間をかけてジッと狙いを定めたほうが
当るような気がするかもしれないが
実はあまり狙いすぎないことが肝心。
ハンドガンだからな。
狙うのは他のスナイパーに任しておけばいい。
タイミングよくトリガーを引く
思い切りのよさが重要だ。
意識的に時間をかけないように撃つ。

 「要は考えない事だ。感覚にゆだねる」

 「どの場面での選択であっても
  だいたい、直感が正解だ」

 「これは私の人生観にも繋がる。
  その瞬間では失敗したと思えても
  後々思い起こせば次の手の
  最良の選択であったと
  実感するような事は山ほどある」

 「私の経験則からの、なせる技だと
  よく勘違いされがちだが
  それ以上にニンゲンは良くできているんだ。
  自分という相棒は
  無意識下で最良の選択肢を選んでくれる」

 「勿論 クオリティー 精度の差はあるがな。
  それらは後から勝手についてくるもんだ」

複数のターゲットを撃つ場合
そうだな、囲まれた時だな。
最初のターゲットを撃ち終えたあと
次に撃つべきターゲットに焦点を合わせる
ターゲットを目視する。
銃を次に撃つべきターゲットに向け
焦点をターゲットからフロントサイトに切り替え
狙いを定めて撃つ。

 【ターゲットを視認
 【フロントサイトに焦点を合わせる
 【引き金を引く

プロセスはひとつのターゲットを撃つ場合と
変わらないが、次に撃つべきターゲットを
視認する前に
フロントサイトに焦点を合わせないことだ。
まずはターゲットを視認すること
そこがポイントとなる。

 「言葉にするといちいち、めんどくさげだが
  ものの1秒かけず
  その動作をこなすことになるが
  感覚的に撃ちやすく動作していけば
  自然と身につく動きだ」

どの姿勢でも撃ちゃ〜いいんだが
基本体勢の話。
腹に力を込めて上体をやや前のめりの体勢に
そうすることで反動を
身体全体で抑えることができる。
大体、弾がうわブレするからな。
迷いのない弾道 
oneダウン oneテイクダウンと
確実に仕留める心意気に応えてくれるのは
安定のポジショニング、体幹であり体勢だ。
反動を腕だけで抑え込まないようにするのが
ポイントだ。
身体の重心は両脚の真ん中
両腕を伸ばして少し緩めるくらい
適度に肩の力を抜くのが理想的な構え方だ。

 「どの局面でも、脱力は最強だ」

両手撃ちで忘れがちなのが首の傾き具合だ。
首を傾けると平衡感覚が狂うのと
眼球の中心でサイトが狙えなくなり
正確にサイティングできない。
狙い込み過ぎて
つい首を傾けてしまわないように

 「それじゃ〜、兎にも角にも撃っていけ」

バンッ「いいぞ」
バンッバン「もうちょい腕を絞れ」
バン バンッ「グリップが甘くなってきている」
 「一旦手を下ろした状態から構えて!」
バンバンバンバンッ
 「いいぞ、そうだその感覚だ!
  全弾命中してるぞ。
  もう少し腕を絞って脇を締める!」
バンッ「それの方が反動が少なくなる」
バンバン「安定してきたな。上出来だ」
バンッバンッ ジャキッ
「全弾終了、このボタンを押してマガジンを取る」

スライドストップでスライドをリリースする。
マガジンを差し替えて
スライドストップを下げて開閉する。

 「スライドが後ろにいったままになってるだろ。
  横にストッパーがあるから下に押す。
  スライドを元の状態に戻す。
  ほら、新しいマガジンを自分で入れてみろ。
  マガジンを音がするところまで
  しっかり押し込む」

 「そのままじゃ〜引き金は、弾けない」

アドミンロード 初弾装填
チャンバーに弾を装填して
銃を射撃可能な状態にすることだ。
チャンバーに弾が装填されて
発砲可能な状態であることを言う。
銃にマガジンを入れたら、スライドの後ろを掴んでスライドをいちばん最後まで引ききる。
それをコッキングって言うんだ。
 ガチャコン
これで初めて中に弾丸が装填された。
引き続き銃口の向きと
トリガーに指をかけないように注意だぞ。

 「端的に言えばガッチャコンの中に初めに
  弾を込めないとトリガーは引けない。
  初段が装填されなければ発砲できないからな
  以降は自動装填されるから気にしなくていい」

顔を傾けポッケから取り出した
タバコを口に運ぶ。
火をつけタバコの先にオレンジが灯る ふぅ〜

映画「エンド・オブ・デイズ」っての見てるか?
アーノルドのシュワちゃんが出てる奴。
まだ、かろうじて強引に
マッチョで世の中がなんとかなりそうだった頃の
おおらかだった時代の作品だ。
私はまだ戦場にいたがな。
確か2000年になる前の作品だったから
終末論が題材だったんじゃなかったか。
ムキムキOnlyで世界の終わりを阻止するって話。
映画の終盤、
シュワちゃんが武器庫からほかの銃火器と
ともにグロック17を持ち出す。
悪魔への対抗手段を神父から問われた際

 「Between your faith and my Glock 9mm,
  I take my Glock.」

 「信仰とグロック【拳銃】を選ぶなら、
  俺はグロック【拳銃】を選ぶ」

グロックの名を言い放つ場面があるんだ。
もちろんシュワちゃんは、演技が下手なんだけど
大根役者ならではの、どうしようもない
無骨でぶっきらぼう加減のセリフが
大好きなんだよ。たまらん。
ドイツ語訛りが何ともたまらんのだよ。
ジョンが手にしているそれがグロック17だ。
シンプルデザインのいい銃なんだぜ。

手に取るように頭に浮かぶムチョマチョのガタイ
異常に迫り出した大胸筋に脚のような腕っぷし
極端にちっさく見える頭に安定の額に短髪
無骨に動かすアゴから大味にひらく口
前歯の真ん中に少し隙間がある
何とも表現しがたい真剣顔で
一生懸命に話しているシリアスな場面。
なんだけど笑っちゃう万次郎。

やっぱり来栖さんは
信用できるヒトだと実感する。
このグロック17のエピソードだけでも
ニンゲンへの愛情がうかがえる。
すぐに人ぶっ殺せちゃうけどね。

その後は無心で銃をぶっ放しの2時間。
万次郎の中のリトルシュワちゃんが

「筋肉がNOと叫んだら、私はYESと答えるっ」
「ムキムキになっちゃうゼ」と

前歯の隙間をこっちに見せて笑っている。
セリフは吹き替え版だ。

くわえタバコで来栖
「しばらく、休まずにバンバン撃ってくれ」

「I'll be back(また来る)」
親指を立てながら去ってゆく来栖

バンバンッ バン バンバンッバンバンバン
これは何のための修行なんだと浮かんで来るが
とてつもない世界に足を踏み入れてしまったと
あきれるしかない。
淡々と指導してくれる来栖さんに
ついて行くしかないと思う万次郎であった。

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