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Labの男7

 Labの男7

飾り気のない誠実な手紙だ。
むき出しのストレートな文体
雑味を取り払ったシンプルさ
ここまで情熱的なのは流石にこたえる。
とても困惑した理由が2つあって
1つは
手紙があまりにも胸に刺さったからだ。
文章からの想像の枠を飛び越えて潜入してくる
相手の感情に圧倒された。
彼女が劣等感に苛まれ
もっと素敵なニンゲンになりたいと苦しみ
悩んでいる感情が脈々と流れ込んでくる。
自身が想定していない隙間にじんわりと
それでいて広範囲にに内側へ染み込んでくる。
これは活字単体のエネルギーではないはずだ。
文体からは想像を超えてくる高波
胸に込み上げてくる荒波は
あまりにも衝撃が強すぎる。
カノジョの
もの悲しげでありつつも前向きな感情
相手の事を配慮している気遣い
なんだったら敬意の念すら伝わってくる。
ショックなのも勿論なんだけど
自身があまりにも打ちのめされ過ぎだ。
これでも少しは恋愛もしてきたつもりだ。
はぁ〜 どうしようもない気持ちに
ちゃぶ台に手紙をほり出し
当たり前のようにタバコに手を伸ばし火をつけ
吸っていることも忘れて
そのまま風呂に入ってしまった。
まず、こんな事はない。
1本目を吸い終えた感覚もなく
すぐさま湯船を後に
したたる水もそのままに
濡れたままタバコを手に取り
気つけがわりの向かい酒
2本目のタバコに火をつけ勢いよく吸う。
抜け殻のような感覚でタバコを吸ったあと
滝行のようにシャワーをしばらく浴び続けた。
いくらなんでも響き過ぎだ
彼女の存在が大きかったのは分かる、
わかるが,なんなんだこの感覚は。
もう1つの理由
読み返した「無意識の発見 上」との違いだ。
本では薄っすらと感情や情景が
入って来るのが明らかに違う。
あまり伝わらないだろうが情熱の熱感、
明らかに温度が違う。

 もしかすると原本が外国語だったからなのか?
 翻訳者を介して文章を読むとエネルギーは
 分散するのか?
 本文プラス翻訳者の感情が混ざっているのか?

何かしらフィルターとなっていたのか
情報表現のしめる割合が多かった
本であることを差し引いても
自身の知的興奮とは別に
感情をこじ開けて入ってくる感覚ではなかった。
恐ろしい情感の手紙。
一個人に向けられた本では無いものの
著者の人生の結晶である。
読んで感動しない訳がない。
集中力だけでは収まりきれない。
この大きな違いがナンなのかは分からないが
彼女が、戻って来ないだろう事は分かる。
文章では明記していなかったが、
互いには、それぞれの人生があり
貴方が何かをしたとしても
責めない感も伝わってくる文章。
さみしいばかりだ。

 著者の人柄を知らない事
 私の人生に関わっていない事
 携わった思い出の差の事

それらを考えても
情念の受信感度が間違いなく上がっている。
いくらなんでも感情が揺らぎ過ぎだ。
かと言って
もう1人の自分は絶えず観察している。
もう少し距離をとって物事を見れていたはず
なんだけどなぁ〜。と気楽に思えているのも
感情的な観測的な2人の自分がいて
今までに味わった事のないフラットな感覚。
感情の器が以前よりも、かさ増して
溢れにくくなっているのは助かるが
一大事な、はずなのに
自暴自棄にもまだ、なっていない不思議さ。
酒に溺れたい気持ちが湧かないことに
さみしく思えたり、もしかしたら彼女は
それほど大事じゃなかったのかと
自分を疑いたくなったり
複雑な気分だ。

読み返すなんて、しばらくはムリな手紙は
本棚にでも差し込んで、そっとしておこう。
何も成してもないのに大仕事が終わった感だけ
ため息を吐き、手をパチン。「さってとっ」
テレビでもつけて「さぁ〜晩ごはん晩ごはん」
2〜3日は保温されっぱなしのゴハンでお茶漬けを
済まし、何気なしに窓から星を眺めてみる。

この時期の空には白鳥座が美しく見れる。
天の川にそって羽ばたく大きな翼
この近くに輝くは、1等星「ベガ」独裁者座
ムエタイ座 1等星「サガット」
ボクシング座 1等星「バイソン」
この3つの星を結んだ黒き三連星が
ジェットストリームな味わいを
夜空に奏でる頃には〜

それっぼく続けるのはこれが限界だ。
なんだか輝いてるなぁ〜ぐらいで眺めている。
それでいて、それでいいと思っている。
窓枠に片肘をたて頰ずえ 「ふぅ〜」
ほんの数時間しか経っていないのに
そのまま眠れそうだ。
やれやれだ。


うって変わって今朝は曇天模様
傘をさす程ではない降ったり止んだり
今日1日は、ぐずついた感じになりそうだ。
雨はきらいじゃない。降ると人混みが減る。
それだけでいい。
すぐに仕方がないと思ってしまう
僕にしてみれば
日頃から不思議に思っていることがある。
雨に濡れたくないヒトが多いのはなぜだろう?
雨に降られなければ降らないで
水不足になっちゃって
水が無くなったら困るくせに。
恵みの水なんだからガマンしなさいよ
ってなってしまう。
そうは、みんなは繋げないみたいだ。
たとえ気楽な気持ちで、
ライトに話してるつもりでも
相当上手く伝えないと
ただの天気の話、日常会話、
よくある感情の浮き沈みの話で
そんな事は言っていない ってなる。
同じ雨の話なら

 「ほらっヒトの距離がひらくでしょ
  ゆったりした気持ちになれる」

ぐらいのこっちの方がいいに決まってる。
いくつかある、
頭の中のフォルダーのひとつに過ぎないのに
口にするフレーズが
選択がちょっと違うだけで、こうも印象が違う。
そんな事柄、もういいんだけれど
まだまだ頭の中のおしゃべりは続いている。

 しきり直して
せっかく朝に起きれたんだから
それほどコーヒー好きではないのだけれど
喫茶店にでも行ってみよう。
でも、もう11時なんだけどね。

ヒトがそれぞれに営んでる様子を横目に
お茶をすするのが好きだ。
手荒くブツ切りにされたワンシーンを
眺めるのが好きだ。
そこにオチがないのもまた、いいんだな。
常連さんを見るのも良いものだけど
キャラクターがハッキリしているから
余白が少ない。その喫茶店では
主人公をはれない位のエキストラ的な
本編には関係が無い
日の目を浴びないヒト達の行動を観察して
想像するのが好きだ。
誰とも関係がないからすごくいいのだ。

手っ取り早くパーカーの袖に手を通して
上手く雨が止んでいるタイミングで
外に出れたのは、ツイている。
天気がいい訳ではないけれど
並木通りを歩くのは気持ちがいい。
しばらく並木道が続いて
心地よく5分ほど歩くと駅前になり
ちょうど駅向かいに小さく
アーケードが見えてくる。
所どころ、破けたアーケードに時代を感じる
ちょっとやつれた商店街。
誰も気にしてはいないだろうが
入り口には『ピックリ通り』の大看板がある。

調べるまでは知らなかった文字の斜め上の記号
 ゛ テンテンで濁点  ゜ マルで半濁点
半濁点ってマル感が全然ない。なんでだ?
もう一対の方が句読点。
。、句点と読点 クテンとトウテン。
かろうじてコッチの方は覚えているけど
ニコイチの呼び方だったのに少し驚いた。
あまりにも呼んでもらえない
コイツらに刹那さを感じつつ
それも束の間、シャボン玉のように
この驚きは頭の片隅から消えてゆく。
またまたinsideヘッドがスパークしている。

仕切り直して
「ピックリ通り」の看板
誰も興味がないんだろうけど
驚きのさらに上
びっくりの上を行く濁点を超えて
 ピックリ なのかなぁ〜って推理している。
ああ、くだらないけど好き。

そうこうしているうちにアーケードの中へ
対、学生さんに開けた商店街を行く。
グラマラス土偶ボディーの
おばさんが扱ってるから
さぞおいしいんだろうなぁ〜
肉屋のコロッケ
香りで手招きしている。
学生さんに全振りのレンタルCD店
ぎゅうぎゅう詰めの電車さながらの棚が乱立し
さらに平積みの中古レコード
ホコリだらけのシングルCD
サーチandデストロイ
荒廃したロッケンロールを体現している有様。
気品は細部に宿るなんで言うけれど
まさにそうだ。微塵も感じとれない。
その奥に陣取るは
ノーベンバーレインな頭、黒のグッズTシャツ
タイトめな敗れたジーンズにコンバス
全身から匂い立つ売れないバンドマン感
金髪おじさんがノートパソコンを眺めている。
続いて、お香が怪しくかおるアジアン雑貨店
「モケキキ」という変な名前のお店。
あまり日本では見ない柄の服の陳列
ナニに使うんだこんなお守り
キラキラ光ったビックリマンを思わせる
マンキンの微笑みサイババシール
チープなお茶セットがまたいい。
デカイ涅槃像が入り口右手に鎮座している。
その左手にはゾウ頭の神様ガネーシャがお出迎え
等身からは明らかに間違っている頭のデカイ
おそらくは歌わないがディーバが
鮮やかなハチマキをして店番している。
前を通るとなぜだか
傘をさした木製のカエルが微笑みかけてくるが
いつも買わない。その横には
シンプルな佇まいの必要なモノしかない店
こめかみに血管が浮きでる威勢のいいハゲ頭
すぐに怒り出しそうなオヤジが営む豆腐屋さん。
くわえタバコが一段とご機嫌斜めにうつるが
女性にはすこぶる当たりがいい。
豆乳が強烈においしいんだけど買いづらい。
今履いているゲタは
この履き物屋さんで買ったモノ。
どうも雨の日には
みんなゲタは履かないみたいね。
いよいよ、お出まし
アーケードの丁度まんなか辺りに純喫茶が登場
座り心地が良くないクタクタのクッション
真紅のベルベット調の椅子が待っている。
カラン コロン カラン
肌色の公衆電話が現役で
入り口横に店番している。
天井にはシックに
それでいて下品にきらびやかな
スワロフスキーじゃないシャンデリアが
2、3釣られていて、ヤニでくすんで
コーヒー専用の砂利みたいな
砂糖色に輝いている。
それがちょうど良い薄暗さを演出。バッチシだ。
歴史のくすみを体現
純喫茶は薄暗くなくっちゃ〜ね。
今では、あまり見られない
いかにもサスペンスでしか登場しない
愛人との密会にはピッタリの癒し空間。
再放送の方ね。ヤング小林稔侍が出てくる方よ。
マスターは、タイムスリップしたのか
少なくとも平成をまたいでいない
白シャツにベストを着込んだ出立ち。
この存在感は、ある意味憧れる。
ブイ オー ファイブでシーーッと
おそらく固めたであろう
存在感しかないオールバックと共に
彼のこころは乱れない。
悩みをたっぷり聞いてくれそうな
瞳の奥が笑っていない微笑み。
それは人生をわざわざ遠回りしたのだろうなと
想わせる信頼感なのだ。
その瞳はくすんだビー玉の安定感があり
むしろ信頼度を上げている。
親身に話は聞いてくれるが
ぜったいお金は貸してくれない
いぶし銀の佇まいだ。
 「いらっしゃい〜ませ〜っ」
席は1番端がお気に入りだ。
それは、ひと通り店内を見渡せるからだ。
気丈そうな昔はヤンキーだったのかなっと
想わせるウェイトレスが注文を聞きに
両手でおしぼりを手渡してくれる。
 「ナニにします?」
まず普段、
飲まないコーヒー名を頭から絞り出して
それっぽく注文を
 「ブルーマウンテンで」  間に合った〜っ
紳士の面子を保てた。

ふと、向こうのテーブルに座る
おばさんの手元に目がいく。 
テーブル上のお冷に目が止まる。
んつ?
 【なんでお冷が気になるんだろう?】
おばさんは会話に夢中だ。
その2、3秒後にお冷に手を伸ばすおばさん。
取り損ねてグラスをひっくり返す。
 【やっぱり、そうだ。水をこぼしたな】
んっ?
 【コーヒーカップを落として割るだろうな】
その向かい合わせに座るおばさんが慌てて
お冷に手を差し伸べると
指がコーヒーカップに引っかかり
あらら、あららと
スットーーン ガッシャーーン
 【割っちゃったね】
音にびっくりして振り返るおじさん。
おじさんの手元に目がいく。
んっ?
 【おじさんもコーヒーをひっくり返すな】
振り返ってもとに戻る手がコーヒーカップを
ぶちまける。 あら、あらら
おじさんはテーブルの上をおしぼりで
急いで拭いている。
 「ああ、ごめんなさいねぇ」
 「だいじょうぶですか?」
お手拭きで破片を回収するウェイトレス
多くは語らないがウェイトレスさんが
さほど怒っていないのも分かる。
何なんだろう?
以前よりも何かを受信してる感がある。
動揺しない
すまし顔のいぶし銀マスターVO5。

そうこうしている内にブルーマウンテンが登場
今日はブラックでいってやろう。
おぅ、おいしく感じる…
ついに大人の階段をのぼったか!
苦味にも種類があって
硬さやら柔らかさがあるらしいが
それはちっとも分からない。
メニューに目を通して見ると
しっかりとしたボディな飲みごたえらしいが
やっぱり、それも分からない。
お腹に効いてくるボディーブローの方の
ボディーではないのは分かる。

なんてない空間とタバコとコーヒー
ゆったりとした時間に煙草をふかし
最高じゃないか ああ〜癒される。
時折り足元の赤いベルベット調の生地をなでて
何ともないありふれた時間を堪能。
うわの空でタバコを嗜みコーヒーを

昔アラブの偉いお坊さんが
恋を忘れた あわれな男に
しびれるような香りいっぱいの
こはく色した
飲みものを教えてあげました

なんて言うけれど、
コーヒーに何かお坊さんが入れたんじゃないか?
って思ってたんだけど
どうも、コーヒーにはナチュラルに魔力が
すでに混入してるんだなって実感。
まだ後ろ髪を引かれるんだけど
残念、ブルーマウンテンは無くなってしまった。
タバコをもみ消し
カラン コロン カラン

近頃は
夜遅くにゴハンを食べるようになって
お腹は減っていない。
駅向こうへ歩いていく。踏み切りを渡った
方面には屋根がないタイプの商店街がある。
時が止まった「ピックリ通り」とは違って
新しい世帯さん達で、賑わっていて
よっぽど活気がある。
映画館周辺で、ひと通りの生活雑貨
食品が揃う商店がひしめき合ってる。
そこを抜けてしばらく歩くこと5分
河原につながる。
河原沿いの道路にダイレクトに寝転がっている猫
よくある風景だ。
少し濡れた路面でもお構いなしだ。
歩くたびにするゲタの音に
微弱に反応しているが
すぐに面倒くさそうにあくびをして
身体をよじって伸びをしている。
よくある風景。
しばらく散策していると
土手に婆さんが座っているのが目にうつる。
近づいてみると
孤高のパープルを羽織り
銀髪のオールバックが風になびいている。
ハードな印象の荒鷲を形取った金属の持ち手
杖を挟んで両手で荒鷲をつかむ
総統閣下スタイルで川を眺めている。
ガンジスのほとりで
誰かを弔ったかのような表情の婆さん。
隣に座って話しかけようとすると

 「学校は行かんの?」

岩石のようにホリが深いだけで可愛らしい顔だ

  「しばらくは学校休みなのよ」

 「そっか〜、そいじゃ〜今のうちに
  娘っこ、いっぱい、いわさんとな!」

思いのほかファンキーばばあ閣下

 「かぁ〜バンバンいけ!バンバンよぉ。
  いっぱいッいったら行っただけ
  キモがすわるけ〜のぉ」

  「ばあちゃんは、地元のヒトなの?」

 「嫁いですぐ、こっち来たからな
  ん〜っとなぁ、70年くらいじゃな。
  すぐ子供でけたからバンバンいけんかった」

  「バンバンいきたいのは山々なんだけど
   ばあちゃん〜っ、フラれちゃったのよ」

 「かぁ〜まだ惚れとるんけ〜
  忘れる前にほかいけ!ほかの娘っこ!
  そしたら、どんだけ惚れとったか
  よぉ〜わかるっ!かすんでくようじゃ〜
  もぉ〜惚れとりゃせんて」

かなり面を喰らった。伊達に長生きしてない。

  「実際に行動して自身の胸に聞けってことね」

  「すごく参考になったわ!ばあちゃんっ
   ところで、ばあちゃん
   タバコ吸ってもいいかい?」

 「ワシもくれ」

  「んっ ばあちゃん火っ」

タバコを覆い隠す左手 カチッカチッ
ライターの火がホリの深い顔を照らす。

ダブルハードボイルド
ガンジスのほとりで佇む顔でタバコを吹かす2人
人差し指と親指で逆手にタバコを持つババア閣下
フィルターの根っこまで吸うつもりの
ベテランスタイル。
年季を感じるのも、それもそのはず
よく見ると少し指が焦げた色をしている。

  「あのさ、大学が建ってる山があるよね。
   そこの奥まった所に祠があるの知ってる?」

 「ああ、蛇神さんとお稲荷さんの神社か?」

これは土地神さんの話が聴けるかもしれない。

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