Laboの男52
Labの男52
万次郎の修行の間にも製薬会社は廻っている。
「玉石混交」とは言ったもので
組織としての玉と石は選ばられる側か
そうでないかで認識は違う。
実際、玉か石かは他人が決める。
扱いやすい者は「玉」と思われがちだが、
どちらかというと組織に良しとされるモノを
提供できる側が「玉」扱いだ。
むしろ扱いやすい者は「石」である可能性が高い。
放っておいても害をなさないんだから。
提供する側は、側で大変なのが
わざわざ目に見えたカタチで、しかも
パフォーマンスで示す必要性がある。
特に利害関係は互いを補完しやすく
チームとしての結束を簡易的に育みやすい。
共通認識しやすい共通言語は便利で
組織では扱いやすい数字に目が止まりやすい。
ある意味、数値化できると
万人に分かりやすいだろう。
説明する手間が省け誰の手柄かも明確にできる。
あくまでも目安なんだけどね。
任務をこなすのも1つの
パフォーマンスと言えるだろう。
玄白が言っているのは組織という枠組みも
新たな「玉」を捨てているんではないかと。
よく口にしている、数値では表せない
枠の外の「玉」もあるだろうと。
しかしながら
ある程度、能力の芽が出るには時間がかかる。
そのため目立たないように
「石」を演じるのは必要だと思っている。
ヘンに研究者の想定内の
手垢まみれになる位だったら発見されずに
独自の発展を期待した方がいいんじゃないかと
最近では強く思うようになっている。
人工的に矯正的に強制、生み出されたものには
歪みが生まれ捻じ曲がってしまえば元も子もない。
全く反対のことを言うようだが
組織はそんなに待てないのもよく知っている。
少なくともある程度の形になっていないと
信用してはもらえなく
得体の知れないモノにはヒトは恐怖を覚える。
いい匂いだけでは大半の人は
安心してくれないものなのだ。
攻を急いで
期待に応えるカタチに仕上げれば
ねじれが生じてしまう。
適当にしているのが1番偉いさんに見つからず
過ごせるものだと彼は理解している。
見つからないように虎視眈々と
要は従順な「石」である事を演じれるかが
大事なんだいう見解だ。
いよいよ明智Laboは賑やかになって来た。
一見、扱うには大変なじゃじゃ馬ばかりが
集まってきている風だが
玄白には「玉」がゴロゴロの金玉だらけの
ゴールドラッシュの到来だ。
万次郎が玉風を呼んでいるようにしか
今や思えなくなって来ている。
彼はやはり持っていた!
明智の目利き【眼識 げんしき】
には感謝しかない。
玄白の人生史上、高まって仕方がない
ワクワクが止まらないってのは誰も知らない。
玄白には
然るべきタイミングで訪れる場所がある。
何か煮詰まった時に訪れる恩師がいる。
近いうちに会いに行こうと思っている。
事前登録が必要なのが面倒なのだが仕方がない。
high-classな組織を通さないと
許可が下りないからだ。事件以降、
霞目【かすみのめ】博士は
重要監視対象となってしまった。
御歳は100歳を超えている。
ある意味、人類で無くなってしまったヒトだ。
霞目博士はそれを「覚醒の裏返り」と呼んでいる。
元人類なので通常の対話は可能だ。
「しっかりとした
結果を導くには目立っちゃ〜いかんのよ。
無責任な期待をさせるような実験では
なおさらだ」 霞目博士の口グセだ。
監禁された男
保管保全財団は古くから実在する。
Xファイル関係を保存する機関から派生し
自然法則を逸脱した
異常な生物・物品・現象・場所の捕捉
研究を世界政府より委任された秘密組織。
財団は
anomaly【説明しきれない 例外 特異点】
アノマリーが一般市民の目に触れれば
正常な感覚を揺るがすだけでなく
場合によっては人類の生存そのものを
脅かしかねないと考えており
そのため
財団は予想される混乱を避け
人類の文明を正常に機能させるため
アノマリーを秘密裏に保管し
また一部のアノマリーについては
将来の脅威に対処するための知識を求め
日々研究を行っている。
目的のために財団は保護下にある
一つ一つのアノマリーについて
「特異収容プロトコル
【Special Containment Procedures】
を記した報告書を作成している」
これらの報告書にはアノマリーを安全な状態に
留めるための手段、その性質の説明
財団による実験や研究の記録などが
科学論文のような筆致でまとめられている。
そこに監禁されている玄白の師匠
霞目 権三【かすみのめ ごんぞう】
玄白のモフモフ頭が
2回りほど小さかった頃の恩人
ある研究施設での大量虐殺事件をきっかけに
現在は危険オブジェクトとして扱われ
価値のある実験体として
保管保全財団にて隔離拘留されている。
彼には本人も自覚していなかった
バイオレンスな一切合切をを引き受ける
もう1人の人格が巣喰っていた。
彼の研究は細胞になる前の細胞
何にでも変化が可能な細胞から
霞目博士はそれをキマイラ細胞と名付けていた。
現代の言い方ではiPS細胞。
それも50年も前からだ。
本来は単一あるいは同一であったものが
複雑化したり
異質化したりしていくさまを「分化」と言う。
発生の過程では1つの受精卵から
分裂して分かれた胚細胞がやがて
筋細胞 神経細胞 上皮細胞等のように
異なった機能を持つ細胞になる現象を
「細胞分化」という。
また発生初期の胚細胞は
様々な種類の細胞になる潜在的な能力を持っており
このような状態を
まだ分化していないという意味で
「未分化細胞」と呼んでいる。
通常、細胞分化は不可逆であり
受精卵の状態では
全ての組織へ分化できる全能性を持っている。
だが分化が進むと
分化できる細胞の種類が決まってしまう。
なぜ逆戻りができないのか?
一度分化した細胞が他の細胞にならない
不可逆性を持つ大きな要因としては
分化後の細胞に必要な遺伝子以外の
遺伝子の塩基配列がメチル化
発現ができなくなり
遺伝情報を失うといったことが分かっている。
人間の皮膚等の体細胞に
極少数の因子を導入し培養することによって
様々な組織や臓器の細胞に分化する能力と
ほぼ無限に増殖する能力をもつ
多能性幹細胞に変化。
人工多能性幹細胞
【induced pluripotent stem cell】
iPS細胞と呼ばれている。
リプログラミングを起こさせる技術は
再現性が高く、また比較的容易であり
幹細胞研究におけるブレイクスルーとなった。
現代では聞き覚えのある再生医療
病気や怪我等によって失われてしまった機能を
回復させることを目的とした治療法。
iPS細胞は、病気の原因解明 新薬開発
細胞移植治療等の再生医療に活用できると
考えられている。
霞目博士はそれをキマイラ細胞と名付け
それらを50年も前から研究してたが
ある事件をきっかけに
Fileごと凍結されてしまった。
本来であるなら不可逆な細胞の特異点
逆戻りが可能な一線を乗り越える
キマイラ細胞が原因で
事故が起きた事になっているからだ。
保管保全財団ファイル
Kranke-025
メタタイトル 貪欲な口 ヒト型
オブジェクトクラス 重体
2M以内の接近を禁ず
「傲慢なアギト」とも呼ばれる
霞目博士を宿主として生きている。
近づく全ての生命体を貪欲に捕食
ひとたび発動すると霞目博士の意思とは関係なく
身体のどの位置からでも口が現れ
その貪欲なアギトは
どんなモノでも捕食しようとする。
柔軟にを変えることが可能
皮膚の硬質化で銃火器攻撃を無効化
現在確認されているのは複数を
宿しているのではなく1個体のみ。
霞目Laboのメンバー10人を跡形もなく捕食
その時の目撃証言によると
1度に同時5つのアギトで
噛み付いているのが確認されている。
悲惨な惨殺現場とは裏腹に
怒りと哀しみに満ちた
いまにも壊れそうな表情の霞目 権三が
記憶から消えないそうだ。
個体の停止方法は現在確認できているもので
霞目博士の周囲2m圏内に
生命体を置かないこと。
引き続き研究されたが誤って研究者が5人
捕食されたところで頓挫している。
飢餓状態になると霞目博士の腕を自身で捕食
腕の再生も目撃されている。
近い例だと
タコがストレスから自身の触手を
食べたりもするみたいだが
自身で捕食した触手はタコの場合
再生されない。
キマイラ細胞は
博士自身の意識に影響はなく
普通に対話ができる。
が、実際は博士自身が全て取り込まれており
キマイラ細胞が完全再現された
マニュピュレイト
霞目博士の模倣生命の可能性があると
博士は告白している。
「私をも騙してしまう
意識さえも完全再現さられた
マガイモノ霞目 権三の可能性は
否定できないな。はっはは」
博士の頭部からは傲慢なアギトが
発動していない為、恐らくは
博士の意識はオリジナルな筈なのだが
霞目博士オリジナルギャグとまで
皆の理解に至っていない。そりゃ〜そうだ。
恐ろしさが勝ってしまうに決まっている。
現在の博士の見解は
キマイラ細胞の暴走が原因だと述べている。
「これは肉体の反乱であり、キマイラの爆発的
可能性の暴発である」と証言している。
彼の推測では結論から述べると
キマイラテラトーマ特異奇形腫【良性腫瘍】が
原因ではないかと推論を立てている。
iPS細胞が腫瘍化するメカニズムは
大きく分けて2つの理由が考えられる。
1つは細胞に導入された
初期化因子が再活性化すること
あるいは人工的に初期化因子を導入するため
もともとの細胞がもつゲノムに傷がつくことで
iPS細胞が腫瘍化してしまうと考えられている。
これについては
再活性化を起こさない
最適な初期化因子が探索され
初期化因子が細胞の染色体に取り込まれない
【ゲノムに傷をつけない】
iPS細胞の作製方法が開発されている。
もう1つは、未分化細胞
【目的の細胞に変化しきれていない細胞】
キマイラが残存すること等によって
引き起こされるテラトーマと呼ばれる奇形腫
【良性腫瘍】の形成。
これについてはiPS細胞の増殖や分化に関する
研究が進められている。
霞目 権三は御歳100は超えているにも関わらず
15人捕食した為か容姿は玄白と出会った
当初よりも若く40代にしか見えない。
15人の魂の居所は分からないが
脳内で霞目Laboは健在
日夜研究に明け暮れている。
彼曰く「恐らくは、データーとしての15人の
キャラクターが存在していて
多人数対話が可能だが仮想として
ではないかと推測される」
玄白の尊敬する師匠は孤高の研究者として
今も生存し続けている。
「面会登録してから1週間は経ったから
そろそろ連絡来ないかな?」
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