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Francfranc社長、高島郁夫は、 なぜコロナ後の四半期に過去最高益を出すことができたのか? (前編)

アフターコロナ時代のあり方と

 コロナがやってきた今、求められているのは、大きなパラダイムシフトだと思っています。ビジネスも、経営も、組織運営も、働き方も、ライフスタイルも、大きく変えなければならなくなっている。もう、かつてのやり方ではうまくいかなくなってきているのです。

 では、アフターコロナ時代のあり方とは、どのようなものなのか。それを経営者でシェアしたくて、オンラインサロン「Honda.Lab.」の経営者向けサロン「Honda.business Lab.」において、さまざまなゲストを招いてディスカッションをさせてもらっています。


 その中から、とっておきのエッセンスを記事化してnoteで紹介することを考えたのが、この企画。後にマガジン化する予定の「アフターコロナをどう生き抜くか」です。

 今回は、Francfranc社長の高島郁夫さん。1992年にスタートしたFrancfrancは、それまでにあった家具や家電などの業種別ではなく、幅広いアイテムをひとまとめにしてスタイル別に切り取ったホームファニシングという過去にないスタイルの店舗として大ヒット。全国に130を超える店舗、2000人を超える従業員を抱える企業に成長します。


 そこに襲いかかったのが、新型コロナウイルスでした。緊急事態宣言で全国の商業施設が休業になり、店舗の営業がストップ。4月、5月はほとんどのお店が休みになり、何もしなくても売り上げが1日1億円、飛んでいく日々が始まったのでした。

 ところがFrancfrancは、6月に当月としては過去最高の売上高を記録。8月に決算を控えた6月、7月、8月の第4四半期は、過去最高益になります。Francfrancにいったい何が起きたのか。そこには、経営者・高島さんの驚くほど大胆ですばやい変化があったのでした。
 そして同時に高島さんは、コロナのおかげで見えてきたことがたくさんあったと語ります。

2月、これは何かあるぞ、と「第六感」が働いた

 昨年秋以降、消費税増税も重なって、実は景気は後退していたというニュースが流れていましたが、Francfrancでも、その実感があったそうです。

「台風に長雨、消費増税など、あまりよくない状況でしたよね。我々は8月決算なので、上期は厳しいと感じながら年明けになり、2月を迎え、コロナの話が出てきたわけです」

 実は高島さんは、この2月の段階で早くも動き始めていました。

「コロナも噂が出始めた頃だったんですが、なんとなく勘が働いたんですね。ほんと、第六感です。そういえば、久しく銀行とも話をしていない。上期の報告もしないといけないと、3月に銀行の支店長や役員クラスにアポイントを入れてもらっていたんです」

 このアポイントまでの間に、コロナをめぐる情勢がどんどん厳しくなっていきました。高島さんの「これは何かあるぞ」という本能的な直感は、当たっていたのでした。

「それまで50億円ほど負債があったんですが、これはいつロックダウンになるかわからないな、と思って借りるだけ借りておこうと思いました。最初に40億円、それから4月に入って30億円、合計70億円くらいの融資を申し込んでいました。これで、急場はしのげるだけの分は確保したんです」

 驚くのは、まだ緊急事態宣言が出ていない、オリンピックも中止になっていない頃から、高島さんはすでに動き始めていたことです。だから、4月、5月と商業施設が全館休業になり、先にも書いたように毎日1億円がとんでいくような状況になっても、慌てることがなかった。経営者としての、危機に対するとんでもない嗅覚が働いたのでした。

 しかし、高島さんの動きは、これだけではありませんでした。

4月、250人の本社を、150人にまで縮小

 実はコロナの前から、本社の経費の重さを課題の一つとして持っていたのだそうです。新規事業も、優先順位をつけて整理をしなければいけないと考えていた。3月に融資を受ける決断をする一方、これらの課題に踏み込むのです。

「何もなければ、本社が大き過ぎると思っても、規模を縮小することは難しいことだったと思います。課題だと思っても、すぐ1年、2年と経ってしまう。新規事業の優先順位も、会社が続いているならまあいいか、とダラダラやってしまったかもしれない。でも、そうは言っていられない切羽詰まった状況が目の前に来る中で、これはすぐにやらなければいけないぞ、となったわけです」

 驚くのは、そのスケールです。本社の250人のうち、最低100人は減らそう。これを、高島さんは実行するのです。

「会社始まって以来で、希望退職を募りました。本社から店舗への配置転換もお願いした」

 なんとこのとき、高島さんは自分の秘書までなくしています。社員に対する申し訳ない思い、そして苦渋の決断だったことはここからも伝わってきます。そして本当に250人の本社を、150人にしてしまったのです。しかもこれが、4月の段階でした。

「本社が100人減れば当然、オフィスも小さくて済むので、2カ所あったうちの契約が早く終わるオフィスを解約しました。あとは役員報酬をカットしたりして、おおよそ年間で10億円のコスト削減に目処がついたんです」

 120億円の融資の返済原資について、融資を受けている最中の4月に目処をつけてしまっていたのです。これで返済は何とかなる。しかし、5月のGWも、その後もお店は開かずにお金は出ていくばかりです。

「毎朝、散歩していましたね。7、8キロは歩いていました。その間に、いろんなことを考えて。相当、歩きました。トータル1000キロくらい歩いた」

 そして6月に入り、お店を開けることができたとき、パラダイムが変わっていたことに気づくことになります。

ECと店舗との相互作用で顧客が拡大

 4月、5月はお店を開けなかったため、eコマースだけをやっていたといいます。これが、売り上げをどんどん伸ばしていき前年の4倍の売り上げになりました。

「6月に店を開けたら、お客さまがどっと来られたんですが、同時に4倍になったeコマースも売り上げは落ちなかったんです。わかったのは、お客さまのECへの期待の高さであり、ECでモノを買うということにコロナ中に慣れた人が一気に増えていたことでした

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 これは単に幸運だったのではないと僕は思っています。これまでにアプリを開発したり、ロボット化したりとeコマースの強化を準備していたのが、Francfrancだったのです。サーフィンと同じです。いい波をつかむには、しっかり準備しておかないといけないのです。

「それまでは売り上げに占めるECの割合は、3〜5%でしたが、6月になってお店が開いても17%くらいまで伸びました。このとき、新しいお客さまがECにも店舗にもお見えになっていたことがわかりました」

 例えば、「ソファ」というワードで検索すると、Francfrancを知らなかった人に見つけられ、ECに入ってくる。すると雑貨があることを見つける。これを知って店舗にも行ってみよう、ということになる。逆もしかり。こうした新しい顧客の導線が次々にできたのです。

「途中で楽天やアマゾンなどのモールにも出店をすると、そこからの流入も増えました。ECと店舗の新たな相互利用が、ますます拡大していったんです」

 高島さんが改めて知ったのは、ECというビジネスの魅力でした。大きくスケールしていくポテンシャルがあるということ。

「お店を作ると1店舗で大きな店なら1億円弱かかる。それでも売り上げは年間2億4000万円ほどでしょう。ところがECは、これが10億円にもなりうるということです」

 実際、ECはとんでもない伸びを見せたのです。しかも利益率が高い。店舗の売り上げが戻ってきたとき、ECの伸びと高い利益率に加え、4月に本社の経費を大きくカットしていたことが効いていきます。会社全体の利益率が、跳ね上がっていったのです。

儲かるかどうかは、キャッシュとは関係がない

 店舗のビジネスに大きなダメージを与えたコロナ。ところが、ECビジネスの大きなポテンシャルを高島さんは知ることになります。実際、もし50億円の売り上げを作れたら、店舗の約20店舗分ということになるわけです。

「どのくらいの投資をすれば、売り上げがどのくらい行くか。40億円くらいの売り上げまでは対応できる投資をしようと思ってやっていましたが、いきなりこのフェーズまで行ってしまった。だから、来期は追加投資をしなければいけないですね」

 これまでの投資は、店舗が主でECが従だったといいます。これが来期には、ECが主で店舗が従にすると、すでに決断しているそうです。

「次には、80億円くらいの売上までは対応できる投資にしようと思っています」

 さらにECは、在庫の効率も違います。お店を出せば、1店舗数千万円の在庫を置かないといけない。ECはそんな必要はありません。ここから、キャッシュ効率に意識が向かいます。これから目指していかないといけないのは、キャッシュ重視の会社に変えていくことだ、と。

「儲かる、儲かっていないというのは、キャッシュとは関係がない話なんです。だから、儲かっていても、キャッシュ効率が良くない店は閉じる。在庫から、どれだけ稼いでいるという観点で、お店を見ていこうと思うようになりましたね」

お店の役割そのものが変わっていく

 そもそもお店の役割そのものが変わっていくだろう、といいます。

「例えば、駅ビルは利便性が高いので、販売するというよりも、受け取る場所になるかもしれません。銀座や新宿など、人の流入が多いお店は、提案性の高い世界観を見せたり、体験価値を提供する店になる。それぞれの拠点の役割が変わっていくと思うんです」

 だからといって、地方や郊外の店を閉めていく、ということではありません。

「今回のコロナでリモートワークができるようになって、職住が地方に移っています。家で働く人が増えて、近い場所で買い物する人も増えているので、そういう立地もありうるわけです」

 4月、5月、6月の日本の小売業全体を見てみると、増益した会社と減益の会社の優勝劣敗が、はっきり出ていました。

「かつては、景気のいいときは全部が良くて、景気が悪いときは全部が悪い、ということが多かったんですが、今回は小売業だけ見ても優勝劣敗がはっきりしていた。これは、わかりやすくいえば、競技する種目が変わったということだと思うんです。これからの競技と、もうやらない競技にすでに分かれてしまっている」

 今、求められているのは、競技が変わっていることに気づくことです。野球をやっていたつもりが、すでにサッカーに変わっている。ルールも、求められているものも変わっているのです。そこでいくら野球をやろうとしても、うまくいくはずがありません。

「これまでは、負けている競技でも、もうちょっとこうやったら頑張れる、ひょっとしたら勝てる、ということもあったんですが、もうそのレベルではなくなっています」

 競技替えをしないといけないということです。そこに気がついて行動していないと、大変なことになってしまう。起きていることに目を凝らし、学ぶべきことを学ばないといけない。

 事実、高島さんはこれだけの経営者でありながら、同時に学びを深めていたのです。(後編に続く)

(text by 上阪徹)

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