パンツ一丁の父にご挨拶を

昨日は結婚記念日だった。

丸11年。いろんな事があった。

転職したり引っ越したり出産したり。

元々は私と夫だけだったのに、家族が二人増えた。四人の生活はなんだかんだ楽しい。



11年前、夫が私の実家に挨拶に来てくれた日のこと。

少し緊張した様子の、夫になる前の夫。

私の母は亡くなっていたので父一人だ。

がらがらっと玄関の引戸を開ける。

梅雨の晴れ間で暑い日。

こんにちは!と居間へ進む。

「おーっ、うみ。なんや。◯◯くんも一緒か。」

いつもの大きい声で迎えてくれた父はパンツ一丁だった。

「暑いねん。」



父は陽気で細かい事を気にしない。

もうちょっと気にしてくれてもいいのにと思うくらい気にしないタイプの人間だ。

私が生まれた頃は会社勤めをしていたそうだが組織に属することが合わず独立、自営業をしている。

自由な人。母とは逆で、正反対だからうまくやれたんだろう。

私は父のような人は嫌だと思っていた。

夜は毎日のように出かけていた父。母は「亭主元気で留守がいい」なんて言っていたけれど。



パンツ一丁の父に「ちょっと話があるんやけど。」と言うと、何か予感したようで畳の上に正座した。

パンツ一丁で。

「お父さん。うみさんと結婚したいと思っています。」

真剣な面持ちの、夫になる前の夫。

「おーっ、すごいやん !お前結婚するんか。良かったなー。」

世間の結婚の挨拶とはかけはなれた父の軽い反応。

でも私にとってはイメージ通りの、父らしい反応だった。

「◯◯くん、よろしく。」

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」

握手をしようと右手を夫へ差し出す父。

パンツ一丁で。

二人は握手を交わし、夫はほっとしたように笑った。

「ってか、こんな挨拶の時になんでパンツ一丁なん?」

「暑いねん。ズボン穿こか。」

「もう遅いわ!」

三人で笑った。仏壇の横の母も、額の中で笑っていた。




父みたいな人とは結婚したくないと思っていた。

でもマイペースなところはちょっと似ているかもしれないなと思った7月上旬の晴れた日。

若かった私達は数ヶ月も我慢ができず、11年前の昨日籍を入れ、夫婦になったのだった。




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