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USUを苦しめた「孤独」と「悪夢」。『GHOST』『NIGHTMARE』について、もう一度いろいろと聞いてみた。

 『GHOST』、『NIGHTMARE』と内面をありのままにリリックにした曲が共感を呼ぶラッパー、USU。QJWebのインタビュー記事では、主にUSUさんがアルコール依存症を患った背景などについてスポットライトを当てた。曲でも絵でもクリエイティブな作品には、あえて語らずに、受け取る側に想像の余地を残すことも重要だと思いつつ、今回のインタビューでは『GHOST』『NIGHTMARE』のリリックの意味やMVなどについて本人に解説してもらった。

*当記事は人によっては気分を害するような箇所がございますので、予めご了承ください。

──前回のインタビュー記事できちんと触れていない部分があることを今更ながら気がついたのですが、アルコール依存症であることを、なぜ『GHOST』という曲で公にしたのでしょうか?

USU 2018年に引退後、今年1月にリリースした『Too Late』が復帰作となりました。同曲は「俺がまたシーンに返ってきたぞ」という気持ちと、「ちょっと遅かったかな」という相反する複雑な心境を綴った曲です。トラックはDJ YAGIくんが制作し、彼のパワーをもらい復帰への花道を自分自身で用意した曲でもあるんです。

『Too Late』/USU,DJ YAGI 

 同時期にDJ TAGAからトラックを渡されたんです。聞いてみるとすごく好きなトラックだった。そうしたら、自然と『GHOST』のリリックが下りてきたんですよ。『Too Late』のなかで、「処方しに行く河渡病院」という病院へ通っている描写があり、そこをもっと掘り下げたかったという気持ちもありました。もっと正確に言うと、『GHOST』のようなリリックしか書けなかった。だから、生まれるべくして生まれた曲が『GHOST』なんです。

──『Too Late』をリリース後、同じ新潟のラッパー、LBさんからディスられましたよね。

USU 彼がリリースした『Never Too Late』という曲でバイブスが足りないとかいろいろ言われましたね。最近の彼の活動をチェックしていなかったんですけど、復帰したらすぐにディスられて(笑)。DJ松永へのディスは、完全にスルーされていたし、俺も暇だったからボイスレコーダーで録音したアンサーをTwitterにアップしたんです。LBはわざとプロレスを仕掛けて、俺の復帰を盛り上げてくれているんだとわかっていたんで、ビーフとかではないんですよ。俺の復帰をスルーしている新潟のラッパーもいるんです。だからスルーされるよりは嬉しかったです。その後、LBとは電話でも話し、近況を伝え合いましたよ。

『Never Too Late』/LB

USUさんによるアンサー

■叩かれることは覚悟の上だった

──いざ『GHOST』を発表すると、DJ松永さんがラジオで紹介したこともあり、すごく反響があったということは前回のインタビューでも聞いていたのですが、その後はどうですか?

USU インタビュー記事も含め、SNS上では曲に関してはすごくポジティブな感想ばかりですね。

──それは予想していた?

USU 弱いだとか、病んでいるとか何かしら叩かれるんだろうなって覚悟はしていましたから予想外でした。ここまでさらけ出すと叩きようがないのかもしれませんね。酒に溺れていたことを中途半端にさらけ出したり、抽象的に表現したら叩かれたかもしれませんが。

──知人にインタビュー記事と曲のリンクを送ったら、その知人が医療関係者に送ってくれたようで、「この曲いいよね」とすでに知っていた方もいたと聞かされました。またYouTubeのコメント欄を見ても、断酒コミュティで流行っているとの書き込みも見かけました。そういうアルコール依存症で悩んでいる方の反響はいかがですか?

USU 依存症は「否認の病気」と言われます。俺もそうでしたけど、なかなか認められないんですよ。でも、なんとなく自分では気がついているんです。それでネットの依存症をチェックできるサイトで確認したりする。そういう方から「病院へ行ったほうが良いか迷っている」とTwitterのダイレクトメッセージが届きますね。俺は医療関係者ではないので、「病院へ行ったほうが良いですよ」としか言えません。そこの一歩を作り出せたことが嬉しいです。実際に、その後依存症の治療を受け始めた方もいるようなので。

 俺は、そんじょそこらの覚悟で依存症であることをカミングアウトしたわけではないので、予めそういった反応もあるだろうとは予想していました。それに同じく依存症の人たちと一緒に悩みながら、音楽を通じて依存症の方を減らして、立ち直ってほしいという気持ちが一番強いんです。

『GHOST』USU/DJ TAGA



──僕もパニック障害という精神疾患を患っていて、やはり偏見も強いからなかなか人へ言えないんです。USUさんが先日、風邪なら病院で診てもらい、風邪だったとみんなに言えるのに、なぜ心の病気だと言えないのかとおっしゃっているのを聞いて、その通りだなと思ったんです。

USU 風邪や胃腸炎を患ったら、人に話すのに、うつ病やパニック障害などの心の病気だとなかなか言えませんよね。それって言えない風潮がそうさせていると思うんですよ。本人は、隠したくないのに隠さないといけない。だから、俺が曲にしたことで、言ってもいいんだって思ってもらえたら嬉しいです。

■孤独が俺を壊した

──『GHOST』のリリックのなかで「ONCE AGAINなんてもういい」という箇所があります。あれはRHYMESTERの『ONCE AGAIN』を指しているのでしょうか?

USU そうです。『ONCE AGAIN』が大好きなんですよ。酔ったとき、駄目なときに結局たどり着く曲ってあるじゃないですか。それが『ONCE AGAIN』なんです。でも、酒に溺れているときは、「そう言われても無理だよ」って思っていました。

──僕も落ちたときは必ず聞きます。でも、曲の効力が失われると嫌なので、1~2年に1回しか聞かないんです。

USU(笑)。それに俺が一番尊敬するラッパーはMummy-Dさんです。いつか一緒に曲を作れたら良いなと思っています。

──『GHOST』のMVの冒頭約1分間は、酒を飲んでは誰かに電話しているシーンがすごく印象的です。実際も同じようだったのですか?

USU 実際はもっとひどかったです。酒を飲まないと電話できなかったんですよ。特に後輩に電話することが多かったですね。後輩のその時の動向を聞いて、なんとか自分のことを保っていたというか。そんな感じですね。
まったく相手のことを考えずに電話していましたし、誰かの声を聞きたかったんですよ。俺はすごく孤独だったんです。孤独ってこんなにも人を変えるんだなって、音楽活動を再開して、依存症の治療を受け始めてから酒に溺れていた時期の自己分析が最近ようやくできるようになって初めてわかりました。

 以前の本多さんのインタビューでは、新潟を背負うプレッシャーがあったと言いましたけど、孤独が俺を壊したんだって、最近思うようになりました。いまは音楽活動を再開して楽しいし、いろんなイベントに呼んでもらって、その一つひとつに感謝しています。昔は、そんなことは当たり前だと思っていたし、それよりもお客さんを呼ばないととかそういう気持ちが強かったんです。声をかけてもらえることやライブできる場所があることがすごく嬉しいですね。先輩のDJ YOSHIIさんからも「お前はまだまだここからだから」とよく言っていただくのですが、それには応えたいと思っていますね。

■USUが見ていた悪夢とは

──先月25日に『NIGHTMARE』をリリースしました。『GHOST』が引退から復帰までの物語をラップしているのに対し、今回は辛かった時期によく見ていたという悪夢がテーマになり、より細部について曲にしていますね。同曲も『GHOST』もトラックがDJ TAGAさん、MVがLIP MONKEYさんです。これには理由があるのでしょうか?

USU 『GHOST』で、TAGAとは初めて曲をつくりました。そのときに、フィーリングが合うなと感じたし、俺の好きな音楽も知っているので、『NIGHTMARE』のリリックの内容の曲をつくりたいと彼に言ったんです。


『NIGHTMARE』/USU DJ TAGA


──TAGAさんとは、『GHOST』が初めてだったんですね。

USU そうなんですよ。もともとDJ YOSHIIさんや俺とかが所属するインターフェースというクルーがあって、そこの若手DJがTAGAだったんです。まあ、でも最初はひどくてですね(笑)。遅刻はするし、酒飲んで自分のDJの番を飛ばすし、いないと思って探すとDJブースのなかで酔いつぶれて寝ていたりしていましたね。それを繰り返して、最終的には謹慎になり、しばらくDJをやらせてもらえない時期もありました。その後、DJがどんどん上手くなり、俺が引退する直前の数年間はライブDJを担当してもらっていました。その頃からすごく人間的にも成長して責任感も出てきたなと。俺が引退してから、トラックをつくるようになったから、まだ2年くらいしか経っていないんです。復帰していろいろと話をして、今回も一緒に制作しましたけど、俺にはもうなくてはならない、いてもらわないといけない存在で、絶対的な信頼を置いています。

 LIP MONKEYは、TAGAの後輩で、一言でいうとチャラいDJだったんですよ(笑)。もともとカメラや動画に興味があったようで、TAGAが『GHOST』のMVをLIP MONKEYと作りませんかと勧めてくれて一緒に作ることになったんです。一緒に仕事をすると、すごくやる気もあり、センスもある。なによりもクリエイティブな精神が強いので、一緒に作品をつくっているとモチベーションが上がります。

──TAGAさんは、Twitterで最初『NIGHTMARE』の話を聞いた時、「そんなデリケートな話、みんなちょっと引いちゃうんじゃ」と内心は思ったと書かれていました。

USU ひいていたというのは、俺もTwitterを見て初めて知ったんですけど、あれは多分冗談だと思いますよ。最初、その話をした時「USUくんがそういうリリックを書くなら、俺はそれにハマるトラックを作ります」と言ってくれたんで。

 『NIGHTMARE』は、『GHOST』に対していろんな反響があり、そのなかでいろんな悩みを抱えている人がいることがわかった。だから、なぜ『GHOST』になったか。その理由を話さないといけないんじゃないかなと。

 実際、TAGAがトラックをつくりはじめたんですけど、『GHOST』が思いの外の反響があったり、リリックの内容を知っていたので、プレッシャーになったのか完成が予定より遅くなりました。でも、完成したトラックを聞いたら、イメージ通りでバッチリでした。待ってよかったです。


──『NIGHTMARE』は、悪夢とその中でのお子さんへの愛が曲になっていますね。悪夢は毎日見ていたんですか?

USU 毎日というより毎回というほうが正確ですね。酒を飲んでは寝て、起きてはまた飲むという生活を繰り返していて、飲んで寝るたびに悪夢を見るんです。不思議なことに、その夢がすべてつながっていたんです。すべて前の夢の続きから始まるんですよ。そうなると現実か夢かがわからない状態になるんです。

──それわかります。僕は夢が続くことはなかったですが、悪夢を見続けると現実と夢の境がたまにわからなくなりますよね。

USU 見ていた悪夢の内容は、ほとんどが誰かに殺されたり、殺したりが多かったんですね。または誰かに喧嘩を売られたり売ったり。夢の登場人物って知り合いや芸能人でなければ、顔がぼやけているじゃないですか。でも、不思議なのが夢に出てくる見知らぬ人の顔がみんなはっきりとわかるんです。そんな夢を見ていると汗をビッショリとかいて目が覚める。また酒を飲むと、続きから悪夢が始まる。本当に怖くて、もう抜けられないのではないかと思ったほどです。

──そのなかでお子さんの夢も見ていたと。

USU 何度も見ました。街なかで別れた息子が近づいてくるんです。設定自体も、離婚して離れ離れになっている現実と同じなんです。息子が「パパに会いに来たよ」と言うから、夢のなかで泣きながら抱きしめるんです。すると、別れた妻ではなく、まったく知らいない女性が現れて息子を連れ去っていく。目が覚めると、ボロ泣きしているんですよ。一番ひどいときは、泣き叫んで目が覚めると寝ゲロしているんです。おそらく体が酒を消化できなくて寝ながら吐いているんでしょうね。でも、着替えもしなければ、シャワーも浴びずにそのまままた酒を飲んで。何やってんだ俺はって、絶望的でした。

他にも、息子が突然家に来るんです。「どうしたの?」と聞くと、「会いに来たよ」って息子が返して、「ありがとう」と言いながら抱きしめる。その夢のときは、別れた妻も一緒なんです。別れた妻とも離婚した設定で、懺悔の気持ちを込めて「なんで来たの?」と聞くと、「会いたいと思ってね」とかすごく優しい言葉をかけてくれる。

──フックの「忘れていく」という箇所について聞きたいのですが、僕は子どももいないですし、婚姻歴がないのでよくわからないのですが、実際に忘れていくものなんですか?

USU 一番最後に「忘れない」とリリックにしている通り決して忘れはしません。なんていうのかな、以前は息子のことを朝から晩まで考えていたんです。依存症の治療を始めてから徐々にではありますが、音楽のことや他のことも考えられるようになった。それを「忘れていく」と表現しています。
般若くんが『シングルマザー』という曲を出していますけど、俺は一度も聞くことができていないんです。般若くんのことは大好きだし、尊敬しているんですけどね。

■まだ依存症と戦っている

──『NIGHTMARE』のMVに関して言うと、冒頭のアカペラで歌っている箇所がわからない人にはわからないのかなと思います。

USU あれは『5月8日』という息子が生まれたときに、この子を守っていくぞ、ちゃんと育てていくぞという決意表明でつくった曲です。結局、離婚してしまいましたが、あの曲に込めた思いはいまも何も変わっていない。
 あの曲自体もすごく気に入っていて、酒を飲んだときも、子どものことを思って聞いていました。『NIGHTMARE』には、あの曲の歌詞が欠かせなかった。だから、MVの最初で歌ったんです。

──すみません。辛いことを思い出させてしまって。

USU 辛い過去や自分の弱さについて蓋をしてはいけないと思っています。自分で、そうした経験に蓋をして逃げているといつかまた出てくると思うんですよ。

それにまだ依存症の治療中です。まだ戦っているんです。まだまだ辛かった時期のことをアウトプットしていくつもりです。たまに、飲酒欲求が出たときに、本多さんにLINEしてしまうかもしれませんけど(笑)。

──『NIGHTMARE』リリース後の反響はありましたか?

USU You Tubeのコメント欄に「親が離婚して子どもの頃に母親に会えなかったことがある」という書き込みを見て、ストレートに響いてくれているんだなって。他にも「疎遠だった父親に連絡してみようと思います」とかメッセージをいただきました。

 俺は前から曲を出したあと、みんなのリアクションを気にしてしまうんですよ。いまもそうなんですけど、リリースしたあとは、響いてほしいなという希望と「わかってくれる人がわかってくれればいいや」という投げやりな気持ちが入り乱れています。でも、もし俺の曲が響いてくれているなら広めてほしい。もし俺の曲が良いと思ったら、次の日に会った人に「USUの曲はなかなかいい曲だから聞いてみなよ」って口コミで広めてほしいですね。ものすごく悩んでいる人はたくさんいると思う。でもその人たちにどうすれば届くのかなって考えます。他力本願ですけど、宇多田ヒカルとかが聞いてくれればもっと多くの人に届くのかなとは思いますね(笑)。

──今回もいろんなことを語っていただきありがとうございます!僕は新型コロナウイルスのワクチン接種も2回目が終わったので、行動制限が緩和されれば新潟へ遊びに行きます。

文責:本多カツヒロ


 



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