DNAからたんぱく質が作られるプロセスを、なるべくカンタンに書いてみる
たんぱく質の設計図(DNA)は細胞の核の中にあって、たんぱく質の工場(リボソーム)は核の外にある。核の中から工場へ、設計図はどう伝わって、たんぱく質はどう作られるんだろう?
専門用語では、これは「転写」と「翻訳」といわれるプロセスだ。
今回はこのプロセスを、なるべく専門用語をつかわずに、なるべくカンタンに書いてみたい。
大学とかで生物学を勉強してる人には、もの足りない内容だと思う。
でも、そうじゃない人たちにも分かるような感じで書くとどうなるか、やってみたいと思うんだ。
DNAは僕たちの設計図?
というか今回は、結局のところ、
「DNAって、僕たち自身の設計図なんだ!」
っていうのが、大まかにわかる感じで書いてみたい。
そこでまず、DNAは僕たちの設計図だっていうストーリーを、なるべく短く書いてみると・・・
細胞の、核の中にDNAがあって、これがたんぱく質の設計図。核の外にはリボソームがあって、これがたんぱく質の工場。リボソームではアミノ酸が設計図どおりの順番でつながれて、ネックレスみたいになる。たんぱく質って、じつはアミノ酸が一本のネックレスみたいにつながったものなんだ。
このネックレスは折りたたまれて、ある立体的なかたちになる。たんぱく質がどんなはたらきをするかは、たんぱく質のかたちで決まる。はたらくたんぱく質は、細胞の部品だ。そして細胞は、僕たちのからだの部品だ。
だから、DNAは僕たちの設計図だ!って言いたいんだけど・・・
まだ無理がある。
DNAは核の中、リボソームは核の外にあるのに、設計図はどうやってDNAからリボソームに伝わるんだろう?ここが分からないと、ストーリーが完全にはつながらないと思うんだ。
メッセンジャーがいる!
つまり、核から設計図を抜き取って、リボソームに伝えるUSBメモリーみたいな役目のやつがいるはずだ。
そして、実際そういうやつはいて、細胞の中ではたらいている。それが、mRNA(メッセンジャー アール・エヌ・エイ)という分子だ。
RNAはDNAの親せき
RNAは、DNAとほんの少しちがうだけの、とても似た分子。似ているけど、使う文字がちがう。
DNAはA, T, G, C の4文字だけど、RNAはA, U, G, C の4文字だ。
T(チミン)が、U(ウラシル)に変わっただけ。AはUと、GはCと手をつなぐ。
ここがポイントだ。
AがUと、GがCと手をつなぐという、このシンプルなしかけを使って、設計図からたんぱく質が作られるまでの美しい流れが展開する。
まず正解を用意しよう
流れを見ていく前に、まず「正解」を用意しよう。
細胞の核の中に、
ATGCAAGGA . . .
というDNAの配列があるとする。これが設計図だ。
この設計図は、最終的にどんなアミノ酸配列になるんだろう?
まず、3文字ずつ切り分けてみる。
ATG CAA. GGA . . .
この、3文字ひと組を「コドン」っていう。3文字でひとつのアミノ酸を表しているんだ。
それぞれのコドンがどのアミノ酸を表しているかは、以前の記事で紹介した「コドン表」を見るとわかる。
コドン表を見ると、
ATG はメチオニン、
CAA はグルタミン、
GGA はグリシン、を表しているとわかる。
だからこのDNAの配列(設計図)がリボソームに伝わると、
メチオニン - グルタミン - グリシン ・・・
という順番にアミノ酸が並んだネックレスが作られるはずだ。
これがDNAの配列を読み解いた「正解」だ。
さて!
僕たちの細胞は、どうってこの正解にたどり着くんだろうか?
mRNAが設計図を写しとる
まず、核の中にこう、DNAが一本ある。今回は下側の配列が設計図だとする。
それが、こう、上下に分かれて、
そこにRNAの材料がやってきて、上の鎖にくっついていく。AはUと、GはCとくっつく。
全部くっつくと、こうなる。
こいつが上の鎖から離れると、
mRNAのできあがり!ってわけだ。
よく見るとこのmRNAは、TがUに置き代わっただけで、あとはDNAの下側の鎖(設計図)とまったく同じ配列になってる。実はこの2本の鎖は、情報としてはまったく同じ内容を書き表している。
こうして設計図の情報をまるごと写しとったmRNAが、核の外に出て、リボソームに情報を伝えるメッセンジャーとしてはたらくことになる。
tRNAはアミノ酸の運び屋
ここでもう一種類の RNAが登場する。tRNAだ。トランスファー アール・エヌ・エイ、と読む。
tRNAは、ちょっと変わったRNAで、かたちを持っている。一本のRNAの鎖の中で、AとU、GとCがくっついて、こんな感じの十字形みたいなかたちをしている。
tRNAは、ほんとはこの十字型がさらにねじれたり折りたたまれたりして、もっと立体的で複雑なかたちをしている。でも、そんなのは僕の画力ではとても描けないので、見たい人は「tRNA」で検索してみてください。
tRNAのおもしろいところは、かたち以外に、もうふたつある。
ひとつは、アンチコドンっていう3文字の配列があって、こいつは誰とも手をつながずに、外を向いている。
一種類のtRNAは、ある決まったアンチコドン を持っている。
もうひとつ、tRNAにはアミノ酸がくっついている。一種類のtRNAには、ある決まったアミノ酸しかつかない。tRNAの “t” は、transfer の t。Transfer は、運ぶっていう意味。アミノ酸の運び屋だから、transfer RNAって呼ばれるんだね。
まとめると、一種類のtRNAには、ある決まったアンチコドン があって、ある決まったアミノ酸がくっついている。つまり、アンチコドン をひとつ指定すると、それは自動的にある決まったアミノ酸を指定したことになるってことだね。
アミノ酸をつないでいく
これで役者が出そろった。
DNA(設計図)の情報を写し取った、mRNA(メッセンジャー アール・エヌ・エー)。
アミノ酸をくっつけた、tRNA(トランスファー アール・エヌ・エー)。
そして、mRNAとtRNAが出会う場所(たんぱく質工場)がリボソームだ。
核から、mRNAが出てきて、リボソームまでやってくる。
最初のコドンは AUG だ。このコドンはメチオニンというアミノ酸を表している。
ここに、AUGとぴったり合うアンチコドン をもったtRNAがやってくる。
このtRNAが、実はメチオニンをくっつけている!
つまり、メチオニンを表すAUGというコドンのところに、正しくメチオニンを持ってくる。
リボソームとRNAのサイズ感がおかしいけど、ゆるしてくれいっ(RNAが大きすぎる・・・)
そして、こうやってmRNAとtRNAがくっついたまま、全体がガシャン!っとこう、左にズレる。コドン1個分、つまり3文字分、ズレる。
次のコドンは CAA。これはグルタミンを表している。そこに、このCAAと合うアンチコドンを持ったtRNAがやってくる。これがちゃんとグルタミンをくっつけてる。
すると、最初ののtRNAについてるメチオニンと、次のtRNAについてるグルタミンが、仲よくならぶことになる。するとメチオニンとグルタミンをくっつける化学反応が起きて、このふたつのアミノ酸がくっつく。
するとまた、全体が3文字分ズレて、そこに次のtRNAがやってきて・・・
以下、同文!!
アミノ酸はこうして、DNAに書かれた順番のとおりに並んで、数珠つなぎになっていく。
最後に終止コドンがくる。
終止コドンっていうのは、「ここでたんぱく質はおわり!」っていう目じるしだ。終止コドンは3種類あるけど、たとえば UAA がやってきたとして・・・
実はこれに合うtRNAは・・・ない!
だから、なんのアミノ酸もやってこない。なので、数珠つなぎにする作業はここで終わってしまう。ものすごくシンプルな話だ。このやり方だと、アミノ酸をつなぐ化学反応をわざわざ止めにかかる仕組みはまったく必要ない。
これで、すべてつながった
DNAは3文字でひと組のコドンという文法を使って、アミノ酸の並び順を表している。
この並び順は、mRNAに写しとられる。
mRNAは、リボソームにやってきて、そこにアミノ酸をくっつけたtRNAがやってきて、アミノ酸はmRNAに書かれた順番で数珠つなぎになる。
アミノ酸の並び順によって、たんぱく質のかたちが決まる。たんぱく質のかたちによって、たんぱく質のはたらきが決まる。
つまりDNAは、細胞の中でどんなはたらきを持ったたんぱく質が作られるかを決めている。たんぱく質は細胞の部品だ。細胞の中ではたらくたんぱく質のはたらきの全体が、細胞のはたらきを決めている。だからDNAは、細胞のはたらきを決める設計図になっている。
そして細胞は僕たちの部品だ。だからDNAは、僕たちの設計図だ。
これは、物語のほんの一部だけど
どうだろう?長い話だと思っただろうか?
でもこれは、DNAと僕たちをつなぐ長くて複雑な物語から、いちばん太い幹だと僕が思っているところだけを抜き出したお話だ。人類がすでに知っていることで、ここに書いてないことはこれの何千倍も何万倍もあるだろう。
でもこのいちばん太い幹、いちばん大きな流れが分かれば、僕たちが分子でできていること、僕たちの中の分子のはたらきの全体が僕たちだっていうことが、なんとなくイメージできる気がしないかな?
ここでいう「僕たち」っていうのは、人間だけのことじゃない。地球上のすべての生き物のことだ。キリンもアサガオも、シイタケもゾウリムシも、クマノミもイソギンチャクも、乳酸菌も納豆菌も、みんなこの仕組みでたんぱく質を作っている。
この仕組みを知ることは、バイオ技術の基礎を知ることでもある。遺伝子組み換え作物は、作物のDNAを書き換えることで作られる。最近の新しい薬の多くは、僕たちの体の中の分子にはたらきかけて、病気が良くなるように設計されている。遺伝子組み換え作物にはどんなリスクがあって、安全だと主張される根拠はなにか?薬はなぜ効いて、なぜ副作用があるのか?そういうことを理解しようとする時、今回書いたような仕組みを知っていても、直接は役に立たない。でも、理解するための基礎として、今回書いたストーリーは大切だと思う。
まあ、そうは言っても
僕がこれを書くのは、DNA→mRNA→たんぱく質までの流れがあまりに美しく、精緻で、心惹かれるから。書きたいから書いてるんであって、役に立つ知識だと思って書いているわけでもない。この仕組みが、たえず自分の中で働いているかと思うと、深くて真っ暗な谷底を覗き込むような底知れない不思議さに心打たれる。こういう、ただただ感動する生き物の不思議を、これからも書いていきたい。
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