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君はもう読んだか?平成最後に蘇った名著「漫画 君はどう生きるか」

2018年を振り返るにあたり、今年最も売れた本を語らずして年は越せない。

ずばりそれは「漫画 君はどう生きるか」だ。

Amazonランキング大賞2018年、日本出版販売株式会社(日販のこと)2018年間ベストセラーのいずれもランキング1位を獲得している。
世間様の選択と違わず、わたしも今年購入し、読んだ。

そして今年イチ、これは古典だな(※)と思った本だ。

(※)これは古典だな:なんの学もないが古典好きな筆者が独断と偏見に基づき、これは読み継がれるべきと感動した本に贈られる感嘆詞

簡単なあらすじを説明する。

1937年の日本・東京で、中学生の少年コペル君と元編集者で現在無職の叔父さんを中心に物語は展開する。コペル君の日常を通して考えたことや二人の対話を、叔父さんがコペル君への手紙形式でノートに記録していくという大筋が、全10話で構成されている。最初にコペル君の日常と違和感、悩みが漫画で描かれ、それに対する「答え」として叔父さんの手紙が登場するという流れだ。

この流れがとても読みやすい。

中学生のコペル君はがむしゃらだ。友達のことで悩み、必死になっているのが自分の小さい頃にそっくりだ。

そんなコペル君と叔父さんのやり取りを少しだけ紹介したい。要約したコペル君の悩みと、叔父さんの返事を一部抜粋した。この年頃に抱きがちな疑問にとても壮大な話で答える叔父さん。その雰囲気を少しでも感じてもらえると嬉しい。

■コペル君の悩み①
「学校で友達がいじめられていた。でも僕は何もできなかった。僕はどうすればよかったのだろう。」

■叔父さんの返事
「まず肝心なことは、いつでも自分が本当に感じたことや、真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えていくことだと思う。君がなにかしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもごまかしてはいけない。そうして、どういう場合に、どういう事について、どんな感じを受けたか、それをよく考えてみるのだ。(中略)それが本当の君の思想というものだ。」

これは、いじめはよくないからやめよう!と、言えることが必ずしも正解ではない。目には目を歯には歯を論理のように、いじめっ子は報いをうけてもしょうがない、というのも違う。コペル君がいじめを目撃してどう思ったのか、何もできなかった自分をどう思ったのか。そこに答えがある。例え、いじめを肯定する答えになったとしても、それが自分にとっての真実だ。

■コペルの悩み②
「いじめられていた友達と、いじめっ子がきたら一緒に立ち向かうと約束したのに、怖くてそれを裏切ってしまった。友達を失ってしまった、僕は消えてしまいたい。」

■叔父さんの返事
「自分の過ちを認めることはつらい。しかし過ちをつらく感じるということの中に、人間の立派さもあるんだ。(中略)僕達は、自分で自分を決定する力を持っている。だから誤りを犯すこともある。しかし、僕達は、自分で自分を決定する力を持っている。だから、誤りから立ち直ることもできるのだ。」

いじめを目撃したコペル君は、友達を守りたいと自分の答えを出したが、その思いを行動に移すのは簡単なことではなかったようだ。頭でわかっていても、不安や恐怖は消えない。じゃあどうすればいいのだろう。自分の思いを実行する力をつけるために、人は失敗するのかもしれない。過去の後悔が優しさや思いやりを促し、自分の背中を押すことが必ずあるにちがいない。

コペル君の成長とともに、叔父さんの手紙も深みと熱量を増していく。引用した文を読んだだけでは理解しきれない、コペル君への愛情とも言える叔父さん渾身の答えが、この本には書かれている。

恐らく、本書は万人向けに書かれたものではない。元は同タイトルで物語の舞台と同じ年に発行された小説が原作だ。原作者であり編集者でもあった吉野源三郎氏は当時、児童文学として発行している。さらに、ある程度裕福で日々の生活に対して余裕がある家庭で育った子供向けだと推測される。読み手が感情移入するであろう主人公、コペル君がまさにそういう境遇だ。

それでも、必ずあなたの心を打つに違いない。なぜなら、叔父さんの気持ちが理解できるからだ。コペル君という、過去の自分の投影と、期待、その将来を考えさせられる存在を私達は叔父さんの目線で追ってしまう。

もう大人になってしまった叔父さん、もといいわたし達。もう少し早く、この本に出会いたかったような、でも今からでも間に合うような、少しの悔しさとワクワクが、ないまぜにになった高揚感を読後に感じる。

友達を裏切ってしまったとき、コペル君はどうしたのだろうか?
最後はきっと泣いてしまうだろう。

その感動がもう一度蘇る予定が、すでにある。わたしの大好きな宮崎駿氏が本書からタイトルを取った、新作アニメを現在製作中だ。「アニメ 君はどう生きるか?」の発表もそう遠くない。これは古典だなアニメとして紹介する日が来るかも知れない。とても楽しみである。

さぁ、今年イチの名著、君はもう読んだか?

編集:円(えん)さん 

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