梶井基次郎と『檸檬』

梶井基次郎の『檸檬』。
肺尖を患っている私は
重苦しい塊に悩まされていた。
そんなとき果物屋で見つけた
一個の檸檬に癒やされる。

檸檬が放つ清涼たる香り。
鼻に檸檬を近づければ
血がほとばしり元気づく。
ひやりとした冷たい香りが
熱い体に気持ちよい。

レモンエロウの絵の具を
チューブから搾り出し固めた。
丈の詰まった紡錘形の格好。
不吉な塊が一瞬にして緩み、
しつこい憂鬱が紛れてしまう。

避けていた丸善書店に入り、
好きな画集を見ても感動せず、
「あっ、そうだ」と
手にした檸檬を置いてみる。
周囲の空気が冴え返った。

檸檬を本棚の天辺に置く。
香りの爆弾が炸裂したらと、
丸善の大爆発を夢想するや、
これほどのおかしみはない。
檸檬を檸檬と漢字で書けば
迫力の手榴弾にもなるのだ。