練香で空薫す
「抹香臭い」などといって
線香の匂いが葬式を連想するのか
嫌う人が多い気がする。
かつての自分もそうだった。
しかし線香がもたらす香りは
平安時代の頃からもてはやされ
歌を詠むときに愛用されたりと
雅な世界を醸し出すものなのだ。
茶会などでは香木を炭で燃やすが、
自宅なら練香を香炉で焚いてもいい。
これならば線香のように煙が出ない。
穏やかな香気が室内に漂うはずだ。
創業300年を誇る香り作りの老舗、
松栄堂を訪ねてやり方をうかがった。
練香を香炉で焚くのは空薫という。
「そらだき」というものである。
本来は小さな炭に火をつけて
灰を入れた香炉に浅く沈めて
灰があたたまったら練香を置く。
ゆっくりゆっくりと香が焚かれ
雅な香りを漂わせるのだ。
店内では電気香炉を用いて、
練香を焚いてくれた。
香が放つ「六国五味」を味わう。
最初は松が梅という名の練香。
白檀の酸味に梅の花を見立てた
伝統的な線香の香りだ。
甘い香に心が和んでくる。
次が松濤という名の香りで
こちらはすっきり涼やかな気分。
煙が出ないので香りだけを愉しめる。
銀座が平安京に変貌していく。
香炉から
仄かに漂う(ただう)
空薫(そらだき)の
この世と思えぬ
我を潤おす 京太郎