脳外科医M

突然脳梗塞が発症し、
自宅から救急車で運ばれ、
到着した総合病院で
集中治療が行われた。
投薬で血液がサラサラになり、
運良く脳に血が通った。

この病院に高校同期のMが
脳外科医として働いていた。
後輩の脳外科医が言うには、
Mは日本屈指の脳外科医とのこと。
難しい手術を数多く成功させ、
神の手のような医師だという。

高校時代会った記憶もなく、
どんな人間かと気になっていた。
後輩によればとても怖くて
指導が大変厳しかったという。
Mの市民講座を聴きに行ったら、
わかりやすくてジョークも混じる。

Mが酒好きとのことで
近くのイタリアンに誘った。
Mは神の手なんかじゃない、
手術が上手く行かないこともある。
そんなときは10日間は凹む。
真面目な顔でそう言った。

手術前はどのようにやるか、
そればかりをいろいろ考えて
睡眠がとれなくなるとも言う。
10時間以上かかることもザラ、
でも手術が順調に進めば
まったく疲れないそうだ。

ドリルで頭に穴を開けたり、
頭を半分大きく開けたり、
細い血管を切ったり繋いだり、
顕微鏡で微妙な手術を行う。
血を見るだけで怖いボクには
想像もつかない凄い世界。

プレッシャーはいつもある。
患者が若かったり家族がいて、
それも小さな子供がいれば、
医師の責任は重大となる。
それでもチャレンジして
命を助けなければいけない。

自分の使命だと言い切る。
生き甲斐なのだとも言い切る。
真摯に患者と向き合ってきた
男が歩んできた脳外科医人生。
笑顔で電車に乗って帰った。
明日も朝から手術なのだろう。