「未来へのETUDE」

坂本龍一さんが東日本大震災で
被災した地域の子供たちと一緒に始めた
東北ユースオーケストラ。
音楽監督の坂本さんが亡くなり、
今春、追悼コンサートが行われた。
東北ユースのコンサートではいつも
詩を朗読してきた吉永小百合さん。
追悼コンサートでは吉永さんが選んだ
ブレンダン・グラハムの
「You Raise Me Up
(あなたはわたしを立ち上がらせる)」。
坂本さんの美しい楽曲「aqua」が
東北ユースによって厳かに奏でられていく。
黒ドレスに身を包んだ吉永さんが語る。

「もう立ち上がれないと
力尽き 魂が打ちひしがれたとき
困難が押し寄せて 重い心に沈むとき
わたしは ただじっと静かに待ち続ける
あなたが来て そっとわたしに寄り添ってくれるのを
あなたはわたしを立ち上がらせてくれる
そして わたしは山頂に立つことができる
あなたがわたしを立ち上がらせてくれるから
わたしは嵐の海にも進んでゆける
わたしを背負ってくれる
あなたの肩の上にいると わたしは強くなれる
あなたはわたしを立ち上がらせてくれる
そして わたしはもっと強くなれる」
(訳:早川敦子)

坂本さんが東北ユースオーケストラのために
書き下ろした作品が演奏される。
「いま時間が傾いて」。
ドイツの詩人リルケの「時祈祷詩集」の
詩の一節から採ったタイトルだ。
第1部ruinsは「廃墟」の意味だ。
3・11の廃墟を思わせるヴァイオリンの音。
第2部を経て第3部predicamentoは苦境だ。
人々を襲った津波の恐ろしい光景を
団員一人ひとりが自分の思いで演奏する。
第4部11beatsは珍しい11拍子の旋律。
3・11の11をモチーフに、音がホールに響く。
第5部prayerは祈る人である。
美しい弦の音の粒に鐘の音が響き渡る。
チューブラーベルが11回、鳴り響くのだ。

最後は「戦場のメリークリスマス」。
坂本さんが弾くピアノの映像と共に、
団員たちの思いは天国に木霊する。
神様に召された坂本さんはこの日の
東北ユースの演奏を眺め、聴いていることだろう。
きっと目を細め、やさしい笑顔で。
坂本さんが作り愛した東北ユースの団員たちは
ひとりひとりあの日の悪夢を乗り越えて
立派なおとなになりました。
ありがとう、坂本さん。
そして吉永さん、ありがとうございます。
僕らはこれからも東北ユースを応援します。