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「J.S.バッハと共に 渡邉辰紀 チェロ独奏」_2023年5月27日

2023年5月27日に、かつしかシンフォニーヒルズで「J.S.バッハと共に 渡邉辰紀チェロ独奏」を聴いてきました。

■東京フィル首席チェロ奏者の、ほっこり素敵なお人柄

この日は朝から輝くような快晴の週末で、私は初夏の川べりで友達とパークヨガを楽しんで、そのまま友達のお誕生会をしてから演奏会に向かいました。

「こんなに晴れた週末に、ピクニックではなく、チェロ1本の演奏会に来てくださるなんて。ありがとうございます」

穏やかな口調でこう話す渡邉辰紀さんは、東京フィルハーモニー交響楽団首席チェロ奏者。キャリアの長さから勝手に緊張していたのですが、このMCを聞いて思わず

「あのう、演奏会は夜なので、ピクニックに行っても、ここに来ることができます」
と心の中でツッコミを。MCからあたたかいお人柄が伝わった気がして、ほっこりしました。

■自由に歌っているかのような「無伴奏チェロ組曲」

目を閉じた渡邉さんが奏でる音はどこまでものびやかで、「無伴奏チェロ組曲」は、自由に歌っているかのようでした。
何度も聴いた曲なのに、まるで初めて聴く旋律のように感じたのです。

「かなり自己流にアレンジされているんですね」

幕間に知人たちに言うと、みな口を揃えて演奏が「譜面通り」であることを教えてくださいました。

これには、本当にびっくりした。
音の迫力はさることながら、何一つ変えずに、まるきり違う曲に聞こえるとは。
長いスラーのかかった箇所など、聴いているとまるで一筋の光に全身が溶けてゆくようでした。

■「みなさんも、お好きですねぇ~」。アットホームながら的確な会場アナウンス

会場アナウンスは、クラシック演奏会のそれにしては実にアットホームなものでした。

「本日は、なんと201名(?)の方々にお越し頂き、お陰様で満席です。みなさんも、お好きですねぇ~」

という声にはガクッと全身の力が抜けて、吹き出してしまいました。

一方、鑑賞マナーについては実に的確にアナウンスされていました。

動画も写真も撮影がNGであること(某オケで、アナウンスが曖昧なためSNSに動画が出回っていた事例を見たことがあります。それとなく投稿者に聞いてみたら「皆さんUPしているので、いいと思います」との返答。念のためオケの事務局に聞いてみたら動画はNGでした)、

「プログラムのページをめくる音や、飴の袋を開く小さな音も、演奏中はよく響く」ため止めてほしいこと。
「水分補給をする際はロビーに出て」ほしいことなど、誰もが演奏会で必ず遭遇する不快な音について明確に伝えた上で、

「まあ、こんなことは皆さんは百も承知でいらっしゃいますね。大変失礼いたしました(笑)」

と、茶目っ気で締める。コミュニケーション能力の高すぎる、素敵なアナウンスでした。

とはいえ、私の前方の席の男性は喉を鳴らして緑茶を飲んでおり、近くの席の女性は、私がそれはそれは楽しみにしていた「シャコンヌ」で、たっぷり30秒近く(体感)かけてプラスチックの袋を鳴らしながらのど飴を取り出していたので、個人的には周辺環境の運に、ちょっとだけ見放された夜でした。

■「鳥の歌」。チェロの神様かた受け継がれた、平和への願い

アンコールは、20世紀最大の音楽家でありチェロの神様と言われるパブロ・カザルスが、平和を祈っていつもアンコールに弾いていた「鳥の歌」。

全身を浸すように聴いていると、楽しかった今日1日が、しみじみと脳裏をよぎりました。
輝いていた太陽。目に映った美しい自然、友達の笑顔、まるで小旅行の様な心躍る道中、おいしかった食事、今こうして無防備に演奏に心身を任せている時間ーー。

それらは、どれほど幸福であることか。そして、すべては平和であるからこそ。そんな、とても穏やかな気持ちで会場を後にしました。


★今回で投稿115回目になりました★
オペラ・クラシック演奏会の感想をUPしています。是非お越しいただけますとうれしいです。
(2022年10月10日~2023年1月15日まで101回分を毎日投稿していました)


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