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村松稔之さんの《曼珠沙華》に震えた、演奏会形式「若きオペラ歌手たちの饗宴」_2024年6月17日

昨日は豊洲シビックセンターホールで、演奏会形式の「若きオペラ歌手たちの饗宴」を聴きました。

ピアノは、バイエルン国立歌劇所の専属コレペティトゥアであり、リッカルド・ムーティらのアシスタント指揮者としてイタリアの主要劇場で振る、マッシミリアーノ・ムッラーリ氏。
 
1曲目の村松稔之さん(カウンターテナー)のモーツァルト《夢で見る姿 K.530》は、透明でのびやかな声を浴びながら、切ない幸福を味わいました。
  
歌唱が圧倒的に安定しており、響きが立体的。ステージの上で歌手が歌うというよりも、目線や表情で、村松さんはそこに物語と世界を構築している。そのため、間奏のときでさえピアノに目が行くことがない。これは、私が彼のファンだからという理由だけではないように思うのです。

続くシューベルト《音楽に寄せて D.547》を含め、服部響子さん(ソプラノ)との重唱である滝廉太郎《花》を含め村松さんは前半に4曲を歌ったのですが、とりわけ山田耕作の《曼珠沙華(ひがんばな)》の美しさといったらありませんでした!
 
冒頭で歌われる「GONSHAN(ごんしゃん)」が九州・柳川市の方言であることは、昨年6月17日(奇しくも、この演奏会と同じ!)に文化会館小ホールでのリサイタルで語られた。「良家のお嬢さん」という意味であるそうです。
 
ーー赤い御墓の 曼珠沙華(ひがんばな)
 
ーー地には七本 血のように 血のように
ちょうどあの児の 年の数
 
まるで心の聖域にある大切な記憶に浸っているかのような幸福さと、それでいて涙も枯れはてた瞳の奥に青白い光を宿しているような。今日もまた曼珠沙華を手折りに来た主人公の、着物の柄や危うい妖艶さまでありありと見えました。
 
「GONSHAN(ごんしゃん)」という呼びかけの対象が、彼女から娘にがらりと変わる瞬間には鳥肌が立ち、胸が締め付けられて涙があふれました。
 
昨日は終演後に、ピアニスト髙橋望さんの計らいにより数人で打ち上げに参加させていただいたのですが、そこで村松さんはこうおっしゃっていました。
 
「今日は、どこに音を置けば道がつながるかが見え」た。リハーサルしたことではなく、「その場の空気を感じて、直感で」音楽を作ることができ、「ゾーンに入って」いたそうです※。
 
(※上のご発言は記憶を基に書いており、ご本人に合っているか確認をしていません。その点ご容赦ください)
  

村松稔之さん(カウンターテナー)さんと。ローマ歌劇場の引っ越し公演でもお声をかけさせていただいたことを、覚えていてくださいました! うれしい!

さて、休憩をはさんで第二部は、オーケストラとともにオペラのアリアを聞くことができました。
 
モーツァルト「フィガロの結婚」より《早く来て、愛しい喜びよ》を歌った服部響子さん(ソプラノ)は、うっとり心が躍るような表情が声にも表れていて魅力的でしたが、とくに加耒かく 徹さん(バリトン)と歌ったドニゼッティ「愛の妙薬」の《なんという愛情》とってもキュートでした!
 
表情が生き生きしていて、いらずらっぽく動く目とコロラトゥーラも耳に気持ちいい。アディーナに小瓶をちらつかせ、例のインチキ惚れ薬の売りつけようとする加耒さんの悪い(失礼!)表情も、とても生き生きしていて楽しかった。

生き生きした表情とコロラトゥーラが魅力的な、服部響子さん(ソプラノ)と

加耒さんは、「フィガロ~」の《訴訟に買っただと?》でも、実に悪い表情と、鬼気迫る低音の響きで聴衆を引き付けました。
(打ち上げでそう伝えると、「では、悪い顔で(笑)」と顔を作って一緒に写真を撮ってくださる、聴衆思いのバスでした。深謝です)
 

迫力のある低音で聴かせた、加耒かく 徹さん(バリトン)

演奏会の最後を飾ったのは、加藤のぞみさん(メゾソプラノ)でした。第一部のJ.ブラームス「四つの歌」Op.43の2曲も美しかったのですが、第二部のV.ベッリーニ「カプレーティ家とモンテッキ家」より《たとえロメーオがあなたのご子息を殺したとしても》では何倍も瑞々しい迫力が感じられました。
 
最後にカルメンとして舞台に現れた加藤さんが歌った《ハバネラ》は、高らかに笑う悪女の歌声の迫力が会場を飲み込むようで、私には彼女の声の魅力が決定づけられたように感じました。彼女が「来月カルメンを演じる」と聞いたときは、大きく膝を打ちました。

《ハバネラ》を瑞々しい迫力で聴かせた、加藤のぞみさん(メゾソプラノ)と

とても素敵な演奏会が終わり、場所を移動した打ち上げに私も参加できたのは、ひとえにピアニスト髙橋望さんのお陰です。
 
ドイツ・ドレスデン国立音楽大学「カール・マリア・フォン・ウェーバー」にてピアノをペーター・レーゼル氏に師事し、演奏家資格試験を最優秀の成績で修了。J.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》の演奏をライフワークにしていることでも知られる髙橋さんは昨日、初対面同士の緊張を解き場が盛り上がるように、そして、決してそうとは周囲に悟らせない温度できめ細やかに気配りをしてくださいました。
 
お連れの方たちの写真撮影を含め「人のため」に動かれるお姿に感動し、あらためて敬意を抱きました。深謝です。

(写真左)SOS子どもの村JAPANの藤本正明さん、(写真右)ピアニスト髙橋望さんと

(私はがんばるタイプの“隠れ人見知り”なので、自分から積極的に話しかけること、輪に入れない人がいないようにすること、みんなの食事をとってきてあげること、出来上がってからその空気に乗って何かを独占してしまうのではなく、つねに人と人の会話をつなげることなど、それらは本当に楽しいけれど実はどれほどエネルギーを使うことかを。そして、笑顔でそうしてもらうと、どれほど安心するかを肌で知っているのです)

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【ききみみ日記】
★今回で投稿158回目になりました★
オペラ・クラシック演奏会の感想をUPしています。是非お越しいただけますとうれしいです。
現在未UPの、2023年分もこつこつ追加してまいります。
(2022年10月10日~2023年1月15日まで101回分を毎日投稿していました)


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