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ローマ歌劇場、第二弾「トスカ」。なんと、大好きなカウンターテナー・村松稔之さんを発見!_2023年9月某日

先日の「椿姫」に続き、最も好きなオペラ「トスカ」もローマ歌劇場の引っ越し公演で堪能してまいりました!

そればかりか、2022年10月に「ジュリオチェーザレ」を新国立劇場の最前列で見て以来、大ファンであるカウンターテナー・村松稔之さんを劇場でお見かけし、一緒に写真を撮っていただくことができました(写真のSNS投稿に関しても、ご快諾をいただきました)。

お陰様で、一番好きなオペラ「トスカ」の思い出がさらに幸福なものとなりました! うれしい! なんというラッキー!


■オーケストラの音楽が伝えてくる、スカルピアの万能感への陶酔。心躍るアリアでの悲しい結末の予感。

前回「椿姫」で、人生が変わるほどの感動に包まれたとおり、今回も素晴らしいオペラでした。
やはりオーケストラの演奏がとてもエモーショナルであったと思います。

もちろんアリア「歌に生き、愛に生き」「星は光りぬ」も好きなのですが、私は何と言っても1幕のフィナーレを飾る「行け、トスカ!」と、3幕の「待つとは、なんと長いことかしら」が大好きです。

「行け、トスカ!」は、神を讃える「テ・デウム」の賛歌の最中にもかかわらず、残忍なスカルピアが自分のかけた罠にトスカと、その恋人で反王政であるカヴァラドッシが今まさにかからんとするのを愉しんでいるモノローグなのですが、ローマ歌劇場のオケがこのアリアを奏でると実に、実にねちっこいアリアに仕上がっていました。

ーートスカ。お前の嫉妬心の鷹を空に放つのは、この私スカルピア!
(中略)
お前の勝ち誇った瞳が俺の腕の中で弱っていくのを見るのだ。官能に悶える。
一人は絞首刑に。もう一人は私の腕に。
(記憶を基に書いていますので、相違があるかと思います。何卒ご容赦いただけますとうれしいです)

これまでは、「神の御前でなんという不遜」と思っていたのですが、今回はスカルピアが神の賛美に己を重ねて、万能感に陶酔していることがありありと伝わりました。そして、その陶酔は聴いている側の胸をすく、この上なく甘美なものでした。

3幕の「待つとは、なんと長いことかしら」は、
スカルピアの計らいで「銃で処刑されたことにし、人気がなくなったら一緒に国を出よう」と約束した恋人を前に、彼に銃が向けられ、下ろされるのを待っているトスカのアリア。

不安を打ち消しながら、やっと苦痛から解放されるうれしさとともに息を殺して見守っているのですが、この段階で私たち観客はもう、スカルピアの計らいこそが「手違いのふりをして実弾を込めよ」という指示であると知ってしまっています。

まるで白み始めた空のような透明な音、移ろう心のようなメロディのゆらぎ。そして、結末を暗示させる悲しさが理屈を超えてオケの音から感じられ、涙が止まりませんでした。
発砲の場面も、これまで聴いたどの「トスカ」よりも火薬が多く、まるでこちらの心臓も止まるかのようでした。

あらためて、オペラが血として流れているオケの凄みと、すべての音作りに指揮者ミケーレ・マリオッティの手腕を痛感し、こう言ってはおこがましいがと先に断りたいくらい、心から脱帽しました。

■爆ぜるようなテノールと、スリリングな予感をはらむ素晴らしいソプラノ

個人的には、フランチェスコ・メーリのファンなので、彼が歌う立体的で音の高低にグラデーションがあるテノール、消える瞬間まで輪郭を保っている響きの色気がたまらなく好きです。

とはいえ、ヴィットリオ・グリゴーロの爆ぜるようなテノールの響きも素敵なもので、2幕で「勝利だ!」と叫んだ場面では、その力強さに思わず全身に鳥肌が立ちました。

また、ソニア・ヨンチェヴァのソプラノには迫力があり、クリスチャンゆえの敬虔さと、窮鼠が猫を噛まんと狂気に理性を奪われる一瞬とのギャップがとてもスリリングでした。

それは歌唱だけではありません。たとえば、1幕でスカルピアに恋人の浮気を仄めかされたとき、証拠品だと偽って手渡されたアッタヴァンティ公爵夫人の扇子を、トスカは反射的にスカルピアに投げつけたのですが、その時ソニアは手元に一瞥もくれず、わずかも振りかぶらずにスカルピアの腹部めがけてまっすぐ投げつけたのです。

その無駄のない動きはあまりにも見事で、鋭い導線がいつまでも目に焼き付いていました。
3幕で追い詰められたトスカが、「これがトスカのキスよ!」と叫びながらスカルピアを刺し殺してしまう不幸な場面の予感として、背筋に冷たく残っていたのです。

その予感は伏線となり、3幕の最後まで続きました。
恋人の死を悟り、スカルピアの魔手から逃れるために彼を刺してしまったことが露見したトスカ。部下たちに追い詰められたトスカが棟から飛び降りたのは、絶望に耐えられない心が招いた衝動でもあったと語るには十分でした。

■オペラ「ジュリオチェーザレ」で魅了された、ウンターテナーの村松稔之さんに遭遇!

さて、話は作品の外に出て、プライベートだったにも関わらずファンからの写真のお願いを快諾くださった、カウンターテナーの村松稔之さんに戻らせてください。

私は2022年10月に「ジュリオチェーザレ」を新国立劇場の最前列で見て以来、村松さんの表現のファンです。

同年12月13日には氏が企画したフラワーアレンジメントとの共演リサイタル、2023年6月17日には上野文化会館でのリサイタルを聴きました。

透明感があるのびやかな声の美しさはもちろんのこと、”言霊”を大切にされていらっしゃることが伝わり、曲によって言語が変わっても情景がありありと浮かぶ表現を体験することは、至福のひとときです。

また、幼少期に阪神淡路大震災を体験されたという村松さんは、「生きる意味」や「芸術にできることは何か」についていつも考えていると言います。
「芸術には直接社会を変える力はないかもしれないけれど、その源となる人の心を動かす力がある。だから自分は歌で人にメッセージを伝えて行きたい」というお考えにも、大変共感しております。

さらに丁寧でいてコミカルなキャラクターが実に楽しく、今後もリサイタルにお伺いすることが楽しみで仕方がありません。

本当にローマ歌劇場の「トスカ」には、作品の中のみならず、外でも素晴らしい体験をさせていただきました。

ききみみ日記】というマガジンを作り、ここ数年のオペラ・クラシック演奏会の感想を毎日UPしています。
直近の演奏会はもちろん、ここ数年のSNSへの投稿を遡りながら、微調整しています。 よろしければお越しいただけますとうれしいです。
(2022年10月10日開始)

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