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大谷康子。ヴァイオリンが歌う、至福の叙情詩_2024年2月23日

すっかり冬に戻った雨降りの金曜日。上野文化会館で、ヴァイオリニスト大谷康子さんによる「プラチナ・シリーズ第5回 大谷康子~ヴァイオリンが歌う、至福の叙情詩~」を聴いてきました。ピアノはイリーナ・メジューエワさん。

プログラムは全てロシアの作曲家のもので、24年が没後50年にあたるオイストラフへのオマージュを込めて大谷さんが選曲されたそうです。私にとり初めて聴く曲が大半でした。

キュイの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ長調 Op.84」は、陽だまりのようなヴァイオリンの音に、ほっとくつろぐように聴きました。
最初は初夏のイメージだった光が、夏の夕方へ、そして秋へと、曲の進行とともに変化していく--。
そして大谷さんが纏っていたオレンジ色のドレスも、一面に爆ぜるように咲くダリアのように見えたかと思えば、黄金色の夕日にも見えました。

2曲目のキュイ「『万華鏡』 Op.50より 第9曲 『オリエンタル』」は2分ほどの短い曲だったのですが、こちらもやわらかい光がキラキラしていて楽しかった。

けして目まぐるしく風景が変わるのではなく、気づけば安心して過ごした日々が積み上げられていて、それをしみじみ振り返っているような。そんな幸福な気持ちに包まれていました。

そして、まさに叙情詩を歌うようだったメトネル「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 ロ短調 Op.21」の後に休憩が入り、後半はバラキレフ「ヴァイオリンとピアノのための即興曲 ホ長調」から始まりました。

前半とは雰囲気が変わって、何かの決意表明にも聴こえる凛とした音から、続くショスタコーヴィチ(H.グリックマン編曲)「3つの幻想的舞曲 Op.5」、最後のリムスキー=コルサコフ(L.バイチ、M.フレッツベルガー編曲)「『シェエラザード』 Op.35」までは、濃厚な体験をしながらも一瞬のよう。

「シェエラザード」は、具体的な章節などは意識していなかったのですが、40分より短かったように思います。ソロヴァイオリンパートだけでなく、オケ全体の他の楽器パートを演奏する場面もあったそうです。

気づけば、曲末の高音がスーーーーーーーーーーーーーーーーーッと伸びる箇所で、涙が頬を伝っていました。

演奏が終わり、弓を下ろすと大谷さんは「今は憂いの時代」だと言い、「音楽でお伝えしたい」との思いから、今日は途中にMCを挟まなかったとおっしゃっていました。

聴きながら私の皮膚の内側を巡っていたイメージはどれも温かで、些細に感じる記憶の断片にさえ、尊さを感じていました。
また、薄々気づいてはいたものの自分はロシアの作曲家が好きなのだ、と改めて感じる日でした。

そして、曲を弾き終えた直後に大谷さんがする仕草があまりにもキュートで、すっかり魅了されました! あんなに重厚感があってカッコいい演奏の後に、ちょっとはにかんで肩をすくめるような仕草。このギャップに、ときめきが止まりません♪

<プログラム>
キュイ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ニ長調 Op.84
キュイ:『万華鏡』 Op.50より 第9曲 「オリエンタル」
メトネル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 ロ短調 Op.21
(休憩)
バラキレフ:ヴァイオリンとピアノのための即興曲 ホ長調
ショスタコーヴィチ(H.グリックマン編曲):3つの幻想的舞曲 Op.5
リムスキー=コルサコフ(L.バイチ、M.フレッツベルガー編曲):『シェエラザード』 Op.35

〈アンコール〉
グラズノフ:瞑想曲 Op.32

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