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持ち主の手元へ帰れるよ

誰の物かわからない。どこから来たのかも、わからない。それでも目の前に落ちているのを見つけた。

きっと困ってるだろう。焦ってるかもしれない。
そういうことは、実感としてなんとなくわかった。

忘れ物、落とし物。どちらも、やっている。確認しても、気をつけていても、気がついたら物が消えている。あったはずなのに、どこへ行ったのか。ポッケからはみ出ていたり、カバンに上手く入ってなかったりで、落とすんだ。
あと、そこに置いたことを忘れていたりする。行きは必要でも帰りは使わないから、その存在が頭の中で薄れていって、忘れる。置き去りにしてしまう。


たまたま乗った電車、座席はよく空いていてガラーンとしていた。

端の席も空いていて、そこに座った。目的地まで、のんびり揺られる。なんとなく、向かいの窓から見える景色をぼ~っと眺めたり、スマホで読書したりとか、いつものように過ごすつもりだった。

対面の座席に、キラリと光る何か。
よく見ると銀色っぽい。離れてても見えた、あれはもしかして鍵? 鍵にしか見えない。

誰のだろう。でも落としたことに気がついて、取りに戻ってくるだろう。鍵だし。触らずに放置しておこう。

まだ、電車が動くまで時間あるし。

ドアは閉まって電車は次の駅へ向かい出した。

同じ車両の人たち、離れているからか気づいていないみたい。そもそも見てもいないのかもしれない。

何に使う鍵かは分からないけど鍵だから、持ち主は困ってるかもしれない。落としたことに気づいいたらカバンを逆さまにして探すかもしれない。

ちょうど降りる駅まできたから、さっと拾って、駅員室に持っていこう。あの電車で拾いました〜って言えば大丈夫。

財布とか、定期とか、腕時計とかを落としてきたけど、ちゃんと帰ってきた。
よく落として忘れて、それで誰かに助けてもらってきた。だからってことじゃないけど、駅員室まで届けようって思った。

たぶん何もしなかったら、ずっとモヤモヤを抱えて反省会(落とし物を駅員さんに届けなかったこと)を、開いていたと思う。どうにもならないのに、ずっとぐるぐる考えてしまっていただろう。

自分のためにも届けたのは大正解で、良かったことなんだよ。自分が思う良いことをしたって、ちょっとニコニコしてもいい。ニヤニヤにならないように注意ね。

持ち主さんが迎えにくるだろうから、あの鍵も帰れるはず。そうなってたら、一番いいな。

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