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とある不登校の中学生


Nくんという中学生2年生の男の子がいました。
家庭教師として何度も心が折れそうになったという意味でもご紹介したいと思います。

学校に行きたかったNくん

Nくんは中高一貫校の中学2年生でした。

小学5年生で自閉症の診断を受けていたものの、中学受験は問題のない成績で通過していました。

学校に行けなくなったのは中学1年生の終わりごろ。2年生の始業式にはかろうじて行ったものの、それ以来学校には行けてないということでした。

私が初めてお家に行ったのは2年生の7月。最初は部屋から出てこなかったのですが、3回目に行ったときにリビングであいさつをしてくれました。

体は大きいけれど、すごく緊張していて、勇気を出して顔を出してくれたのだと思ったことを覚えています。

彼に対してどんなサポートをしたか詳しい内容は別の記事にまとめますが、一緒に取り組んだことの1つが、とっくに提出期限の切れた春休みの宿題です。期限に追われず今更評価もつかないことが却って彼にフィットしたのです。

週に2、3回彼のお家に通いながら春休みの宿題をなんとか形にしました。ある種のリズムのようなものができてきたころ夏休みに突入し、今度は夏休みの宿題に取り組みました。正直内容は2割程度しか理解できていませんでしたが、なんとか提出できる形にすることを目指しました。

夏休みが終わりに近づくと、Nくんから学校の友達の話を聞くことが多くなりました。1年生からの持ち上がりなので、クラスのお友達はみんな知っているのです。

誰々くんは笑いのセンスがある、誰々くんは昆虫のことならなんでも知っている、お友達のことを教えてくれるNくんを見て、この子は早く学校に行ってお友達に会いたいんだなと思いました。

行きたいのに行けないというのは不登校の理解されにくい部分の1つです。拒否しているとか怠けているという言葉で片付けてはいけない複雑さを考えて寄り添うことが大切です。

学校に行くことは絶対ではありません。不登校支援の前提として学校に行くことを目標にするのはナンセンスですし、私もそのつもりで支援していますが、行かなければではなく、行きたいという気持ちは大事にしなければなりません。そのあたりも別記事で綴れたらと思います。

新学期、Nくんに変化が

夏休みが終わりましたが始業式には行けませんでした。夕方に担任の先生から電話がかかってきました。1学期はNくんは電話に出ることもなくお母さんから伝言を聞くだけだったNくんでしたが、先生と話をすると言って電話を替わりました。明らかに変化が見られました。

その後も私とは、まだ終わっていなかった夏休みの宿題を続けました。それが自信につながっているようでした。数日後担任の先生が家庭訪問に来て、先生もお友達も待っているからね、と言ってくれました。

そのときに先生が持って来てくれたお友達からのお手紙を一緒に読みました。
「アハハ、こいつ字が汚すぎ!」
「こんなこと書きやがって今度仕返ししてやらないと!」などと軽口を叩きながら嬉しそうに手紙を読むNくん。早く学校に行けるといいねと心から思いました。

夏休みが終わって2週間後、ついに夏休みの宿題が完成しました。電話と家庭訪問で様子を知っていた担任の先生が、春休みの宿題と合わせて持って来てくれたら評価の対象にしてあげるよ、と言ってくれたこともあり、ついにNくんは学校に行くと自分から言い出しました。登校前日、あまり緊張したようすもなく、「無理そうだったら、午前中で帰るか保健室で休ませてもらうことにする」と冷静な面も見せつつ「頑張った成果を先生に見てもらいたい」と気合い十分でした。

ついにNくん登校

その日Nくんのお母さんから連絡が来たのは午後でした。
お昼休みに担任の先生がくれた報告によると、友達から温かく迎えられたNくんは午前中の授業を問題なく受け、昼休みもみんなとお弁当を食べたあと校庭で遊んで、午後の授業も受ける気満々!春休みと夏休みの宿題も職員室まで自分で提出に来ました。とのことでした。

私も嬉しくなりました。
「久しぶりの学校は楽しくても疲れがあるでしょうから、明日も行きたいと言ったら行かせて下さい。焦って無理をさせなくてもいいですよ。」
とお母さんに伝えたものの、明日も行けるといいなと期待していました。次に会うときにはどんな表情のNくんに会えるだろうかと楽しみでした。しかし…

理不尽な結末…

Nくんの顔を見られたのはそれから3週間後でした。
何度か家には行ったものの、Nくんが自分の部屋から出てくることはありませんでした。また振り出しに戻ったような絶望感の中、なんとかドア越しに声掛けをして、リビングで出迎えてくれるまで3週間経っていたのです。

5ヶ月ぶりに登校した日の最後の授業は数学でした。その日は因数分解の公式を覚えてくるという課題が出ていたらしいのですが、Nくんはもちろんそんなことは知りません。1人ずつ立って公式を暗唱していき、全部言えるようになるまで立たされるという形でテストされ、Nくんは当然最後まで言えませんでした。
周りの生徒が、Nくんは休んでいたから課題のことを知らなかったんだと主張したものの、数学の先生は聞く耳持たず。何もできないままのNくんに「二度とみんなに迷惑をかけるな!」と言い残して数学の先生が教室を去り、40分遅れのホームルームが始まると同時にNくんは荷物も持たずに教室を飛び出して帰って来たそうです。

担任の先生が電話をしてきましたが、Nくんがそんな状況のなか、数学の先生が出てくるまで廊下で待機していましたという担任の先生にお母さんも呆れてしまい、学校への不信感だけが残りました。

いたずらに傷つけられたNくんにかける言葉もなく、ただ、味方でいるということを伝えるしかありませんでした。

今回はここまでです。解決方法やサポートの方法を紹介してほしいという方もいるかと思いますが、それとは別にこういった事例を発信することが問題提起になったり共感をいただいたりするということも大事かと思います。

お読みくださりありがとうございました。


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