見出し画像

悲しみの残し方

ニューヨークに住んでいるからこそちゃんと知っておきたいなと思って、先週、9.11の直後に9.11 Memorial Museumに行ってきた。(本当は直前に行きたかったけれどもチケットが売り切れていた…。)

20周年記念だったこともあって、9月11日前後は、Podcastやwebニュースで、9.11の経験者、遺族の人たちのインタビュー特集がたくさん組まれていた。ちょうどアメリカのアフガニスタン撤退が決まった時で、かなりセンシティブだったからか、政治的な背景に触れている番組は意外と少なく、どの番組も、9.11が起こった時の人の感情の揺れ動き、内面の変化にフォーカスが当たっていたと思う。

実際にワールドトレードセンターや博物館を訪れて、色んな感情が押し寄せて息が詰まってしまった。一方で、ひとつのマイナスの出来事を後世に伝えるための展示の工夫、演出が印象的で、表現は悪いかもしれないけれどもアートを通して人の記憶に残るようになっている仕掛けもたくさんあった。

私が特に気になったのはこの3つだ。

空色のブロック

画像2

2001年9月11日のニューヨークは、快晴だった。その青色を、色々な人の記憶から捉えて表現したインスタレーション “Trying to Remember the Color of the Sky on That September Morning.”がこの博物館の中で一番大きい展示だ。9.11で亡くなった犠牲者の数2,983人分の青いパネルには、同じ日、同じ体験でも人の数だけ違う記憶があることも表現されていて、圧倒されてしまった。

行方不明者の捜索願いポスターのインスタレーション

画像3

個人的に見ていて一番辛かった展示かもしれない。当時テロ直後に発行された行方不明者のポスターが浮かんでは消えるデジタルインスタレーションが、博物館の半地下にある。まだ生きているかもしれない、と思う希望がどんなに人を苦しめるんだろう。たくさんの消防士の方々が巻き込まれているのも痛々しかった。


バラが刺さっているメモリアルプレート

画像1

博物館の外側のグラウンド・ゼロを囲む、犠牲者の名前が書かれた黒いプレート。すごく前から気になっていたのだけれども、この黒いプレートに白のバラやアメリカの国旗が刺さっていることがある。調べてみたら、白いバラは、その日がその犠牲者の誕生日であることを示しているそうで、2013年にボランティアスタッフの1人の発案で始まった取り組みだそうだ。その人のことを知らなくても、かつて生きていたその人に思いを馳せたり、少しでも知っている人はその人のことを思い出す、些細だけれども人の記憶に残るための取り組みとして素敵だなと思った。

数年前に仕事で広島の原爆ドームの近くに建てられた折り鶴タワーを訪れたことがあったけれども、人の歴史、悲しみを形にして残すこと、平和の大事さを伝え、メッセージを残す方法って本当に色々な形があるんだなと改めて驚いた。

博物館を訪れる前に聞いていたポッドキャストで、とある生存者の方が、「今自分の置かれている立場で愚痴が言えたり、日用品を買いにいけたり、何気ない毎日を送れていることにとにかく感謝している。」と言っていて、私も気持ちが飲み込まれそうになってしまった。けれども博物館を訪れて、悲しみだけでなくて、一緒に乗り越えたい、亡くなった人の記憶をとどめたいと思う人たちの優しさも感じた。すごく不思議な気持ちになった博物館だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?