オニオンショック〜好きも嫌いも紙一重〜
例のワクチン（1回目）を
終えた休日。
ちょうどお昼どきだ。
日頃は職業柄、健康に
気をつけているので、
やみくもに外食することは少ない。
家で野菜炒めでもつくろうか。
いやちがう。
今日は違った。
無性に炭水化物が欲しくなった。
特に麺類。
もういちど自分に問いかけると、
「油そば」というネーミングが
浮かんだ。
油そばをご存知ない方のために。
スープのないラーメンといったところだ。
wikipedia先生の言葉を借りると、
どんぶりの底に入ったごま油や、醤油ベースのタレに、ラー油、酢などの調味料を好みでかけ、麺に絡めて食べる。
と定義されている。
私は実家がラーメン屋で油そばを出していた
こともあり、人一倍思いは強い。
イメージはこんなかんじ。
今日のランチは完全に「油そば」モード
になっている。
まだ行ったことのない心当たりのある
店に足が自然と向いた。
店の外の食券機の前に立つ。
もう押すボタンは決まっている。
迷いはない。
はずだった。
「これ、オニオンじゃね」
思わずつぶやく。
食券機の「油そば」のボタンについた
メニュー画像。
どんぶりの片隅に、小さく申し訳なさそうに
白いかたまりがちょこんと映っている。
玉ねぎのみじん切りに見えなくもない。
少し後ずさりして、写真を見つめる。
「鑑定結果」は出ない。
ここの読者の皆さまだけに
正直に白状しよう。
オニオンスライス、生の切ったたまねぎが苦手だ。
いや食べられないと言っていい。
あの独特の匂い、食感、味が
どうしても受け入れられない。
苦手な食べものは、大人になるに
つれてそれなりに克服してきたけれど、
これだけはダメだ。
長ネギや万能ねぎは大好きなのに。
ただ食べられないのは、
オニオンスライスということだ。
なぜかフライドオニオンや
吉野家の牛丼のしっかり火を通した
玉ねぎは難なく食べられる。
不思議だ。
ただオニオンスライスに
関しては、必ず避けなければならない
意識が働く。
外食の際はメニューを見ながら、
入念に頭の中の
「オニオンスライス探知機」を働かせる。
私といっしょにお店に行く人は、大変だ。
この鑑定に付き合わされ、それが誤った暁には
オニオンスライス担当になるのだから。
特に写真がのっていない、
グリーンサラダ、シーザーサラダ
といった類のメニューは困難を極める。
「これオニオン入ってますか」って
尋ねるのも恥ずかしい。
ただ入っているかわからないのに
「オニオン抜きで」とドヤ顔するのは
もっと恥ずかしい。
謎のプライドがじゃまする。
迷いに迷った末に、別の店を探し始めた。
ふらっと入ったパスタ屋さん。
以前は味噌ラーメンの
専門店だった場所だ。
いつもどおりの鑑定の結果、
明太子のパスタをチョイス。
イカとかも入っていたら嬉しいな。
そしてやや大きめの皿に盛られた
明太子パスタ登場。
一口食べて絶句である。
店員を思わず二度見するがなんの意味もない。
やや珍しく明太子にマヨネーズを
絡ませたパスタソース。
ここまではいい。
そこに巧みに絶妙にスライスされた宿敵
オニオンが隠れていた。
本日二度目のオニオンショック。
メニューの写真で見抜くことができなかった
私の完全な負けである。
もう腹をくくろう。
私も男だ。
ちまちま玉ねぎを皿の端に
寄せるなんて恥ずかしい
まねはしないぞ。
猛烈な勢いでパスタを口に入れる。
火が通っているとはいえ、
しゃきっとした食感と
オニオン独特の辛味にわずかに襲われる。
楽しい食事が我慢になるのか。
「ん、いけるぞ、いけるぞ」
じょじょにパスタに絡まった
宿敵を受け入れている。
信じられない。
今までになかった感覚。
明太子とマヨネーズソースとの
ハーモニーがきっとそうさせているのだろう。
嫌いな人、苦手なもの。
ありのままの姿で対峙をすると
受け入れがたいもの。
ネガティブな部分ばかりにフォーカスすると、
そればかりが勝手に大きくなる。
いいところが見えなくなる。
ときになにかとの組み合わせで
やってきたり、チームの
一員として接すると、
そうでもなくすんなり
受け入れられたりすることがある。
オニオンも火が通るだけで、変わる。
当たり前のことなんだけど、口に入れるまで
毛嫌いしていた。
結婚式で繰り返される新郎と新婦の
馴れ初めの話。
お互いの第一印象は最悪でしたけど、
グループで接するうちに好きになりました
といった具合だろうか。しらんけど。
好きと嫌いは、紙一重。
やや大きめのパスタ皿を
あっという間にたいらげ、
誰よりも誇り高い気分で店を出た。
一歩大人の階段を登れた気がした。
帰り道では、
吉野家の牛丼をポチすることになった。
最寄り駅から、お店はかなり離れた
ところにあるので、これを重宝している。
やっぱり吉牛の煮込みに煮込んだ
あまーいオニオンが
私には一番あっているようだ。
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